森林火災が地球におよぼすこれだけの影響

カナダの大規模森林火災は「対岸の火事」ではない

2016.06.28
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2016年5月、米国の気象衛星スオミNPPが捉えたカナダ・フォートマクマレーの森林火災。(PHOTOGRAPH BY NASA EARTH OBSERVATORY)
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 5月上旬にカナダのアルバータ州北部で発生した大規模な森林火災は、60万ヘクタール近くもの森を消失させた。この地域は大都市から離れているため、避難を余儀なくされた8万8000人のフォートマクマレー住民を除いては、大きな影響はないように思われるかもしれない。しかし近年の研究から、北方林の森林火災は、地球に重大な影響を及ぼすことが明らかになってきている。

 広大な森林と林床の土壌を焼き尽くす激しい森林火災は、温暖化から地球を守ってきた北方林を変容させ、その役割まで変えてしまう。

 北方林は、北米とユーラシア大陸の亜寒帯に広がる森林地帯で、約半分がロシアのシベリア地方に、3分の1がカナダにあり、残りは米国アラスカ州とスカンジナビア半島にある。この森林は地球表面にある炭素の約30%を貯蔵し、温かくなりすぎた南方の生息地から移動してくる動物や鳥の避難地にもなっている。(参考記事:「温暖化で平均気温8℃上昇の予測、北極が熱帯に」

 ところが北方林では、ほかの地域の2倍のスピードで気候変動が進行している。永久凍土は解けつつあり、植物の適応が間に合わないペースで気候帯が北に移動しているため、植生も変化してきている。(参考記事:「温暖化で極北狩猟民の天然地下冷凍室が危機に」

カナダでは2016年6月15日までに

約60万ヘクタールの森林が焼失

過去10年の年平均(万ヘクタール)

25

フォートマクマレー森林火災

60

2016年の通算

90

縮尺は一定でない

北極海

グリーンランド

(デンマーク)

アラスカ州

(米国)

アンカレッジ

ラブラドール海

カナダ

ハドソン湾

アルバータ州

太平洋

エドモントン

レジャイナ

ウィニペグ

バンクーバー

オタワ

北方林

トロント

亜北方林

米国

大西洋

500 mi

500 km

RILEY CHAMPINE, NG STAFF  SOURCES: NATURAL RESOURCES CANADA, NASA, USGS

 劇的な変化は宇宙からも確認できる。衛星写真を見ると、北極圏のツンドラが緑色になり、北方林は茶色くなってきている。

 北方林は今世紀中に壊滅的な状況に陥り、回復不可能になるだろうと予測する科学者もいる。そうなれば、炭素の吸収源だった土地が、大規模な温室効果ガスの排出源へと変わってしまう。その転換期はすでに訪れていると主張する科学者もいる。

 米NASAの炭素循環・生態系部門のピーター・グリフィス氏は、「北方林は、大気中の炭素を土壌や樹木に貯蔵することで、気候の調節に重大な役割を果たしています。そのため、北方林の変化は地球上のすべての人々に関わる問題なのです」と言う。「北方林の森林火災がさらに大規模に、頻繁に発生すれば、その影響は地球全体に及びます。森林火災によって大量の温室効果ガスが大気中に放出されると、今後数百年にもわたって大気中にとどまることになるのです」

北方林に迫る脅威

 グリフィス氏は、衛星画像を使って気候変動がツンドラと北方林に及ぼす影響を調べる、NASAの北方林脆弱性実験(Arctic Boreal Vulnerability Experiment:ABoVE)のディレクターだ。NASAの調査範囲は640万平方キロメートルに及び、この春には、カリブーや鳥の移動パターンの変化、森林火災が気候変動に及ぼす影響など、20以上のテーマに関する野外調査が始まった。

 米ウッズホール研究センターの副所長を務める科学者のスコット・ゲッツ氏は、2005年に初めてツンドラと北方林の色の変化を記録した。変化の原因は、北極圏の温暖化により多くの植物が生育できるようになったことと、亜寒帯の温暖化と乾燥により北方林の火災と昆虫の食害が広がっていることにある。


【動画】森林を破壊する小さな甲虫:アメリカマツノキクイムシがロッキー山脈からカナダの北方林にかけて広がり、数十万本の松を枯死させている。(解説は英語です)

 カナダ、アルバータ大学のマイク・フラニガン氏は「地球が温暖化すれば、森林火災がさらに頻繁に発生します。森林火災が増加すれば、温室効果ガスの発生量も増えます」と言う。

 森林火災が増加する条件はそろっている。最近の研究から、温暖化による乾燥の影響を解消するには、地球の気温が1℃上昇するごとに、降水量が15%増加する必要があることが分かっている。ところが現実には、森林での降水量は増えるどころか減っている。また、フラニガン氏によると、気温が1℃上昇するごとに、雷の活動は12%増加するという。森林地帯で雷が増えれば、火災の発生も増える。(参考記事:「北米、気候変動で落雷50%増加か」

 カナダでは大規模な森林火災が発生する。広大でほとんど人が住んでいない地域では、森林火災が数カ月にわたって続くことも多く、秋になって雪が降り始めてようやく鎮火する。昨年の夏にノースウエスト準州で発生した森林火災では、沖縄本島より広い137万5000ヘクタールの森林が燃えた。

 フォートマクマレーの森林火災は58万9600ヘクタールを焼き尽くしたが、今のところ延焼は食い止められている。これは、鎮火してはいないが火災の規模は広がっていないという意味で、今後気温が上昇したり、風が強くなったりすれば、状況が変わる可能性もある。

 捜査員は、火災の原因は人為的なものだと考えているが、故意だったのか過失であったのかは不明だ。さらに、火の勢いが強まったときに雷雨が発生し、その落雷で新たな火災が発生したという。「森林火災の現場で、雷を見たこともありますが、落雷で新たな森林火災が発生するというのは、聞いたことがありません」とフラニガン氏は言う。(参考記事:「カリフォルニア山火事、95%は人為的」

研究に潜む危険性

 フォートマクマレーの森林火災は、大規模で激しいものになった、NASAの研究に参加する科学者たちは詳しく検証しようとしたが、思った通りにはいかなかった。

 ウッズホール研究センターの地球科学者ブレンダン・ロジャース氏は、北方林で大規模な森林火災が発生したときに、林床の泥炭層がどこまで深く燃えるかを研究している。「気候が森林火災にどのような影響を及ぼすかについては、多くの研究が行われています」と彼は言う。「私たちは、逆に森林火災が気候にどのような影響を及ぼすかという問題を調べたいのです」

 この春、ロジャース氏と5人の科学者からなる研究チームは、森林火災が深刻化することが多いフォートマクマレー周辺の森林で、煙の測定実験を行うことにした。火災の煙によって、放出される炭素の年代を特定でき、その結果を土壌サンプルと比較することができる。「北方林の森林火災では、発生する煙に含まれる炭素のほとんどは、土壌に含まれていたものなのです。これを調べれば、泥炭が燃えている深さの平均が分かるのです」と彼は言う。

 近年、森林火災が始まる時期が早くなっているとはいえ、5月上旬に発生するとは研究チームも予想していなかった。研究チームの煙センサーは、フォートマクマレー市が避難命令を出したその日に到着した。そのため、煙センサーがその後どうなったのかはわからない。煙センサーのモニタリングをするために募集したボランティアの中には、家を失い、生活の再建に追われている人もいる。(参考記事:「米西部で平常化する干ばつと森林火災」

 ロジャース氏は言う。「フォートマクマレーの危険性に目をつけたところまでは完璧でしたが、こんなことになるとは、思ってもいませんでした。森林火災を研究するためには、森に近づく必要がありますが、近すぎてもいけません」

文=Laura Parker/訳=三枝小夜子

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