【動画】ヘビ?クモ?な「動く模様」に学者も困惑

「こんなものは見たことがありません」とお手上げ

2016.12.21
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【動画】ヘビかクモか? 2016年12月16日撮影。小さなヘビがこちらを見ている。ニヤリと笑っているような顔の目の下にある奇妙な斑点は、脈打つようにゆらめいている。というイメージはすべて錯覚。クモの専門家であるジョセフ・コー氏によると、おそらくオオトリノフンダマシ(Cyrtarachne inaequalis)というクモだという。ヘビのように見えるのは、擬態をしているからとも考えられるが、その答えは専門家にもわからない。脈打つ斑点の正体も謎だ。(Video: Nicky Bay)(説明は英語です)

 黒い斑点がゆらゆらとうごめいているこの物体を見て、ヘビの頭部に似ていると思った人もいるのではないだろうか。

 その正体は実はクモ――正確にはクモの腹部だ。シンガポールで撮影されたこの生物の脈打つ斑点は、謎に満ちている。トリノフンダマシ属の仲間であるクモが、体内でどのようにこうした動きを発生させているのか、またそれはなんのためなのかについてはわかっていない。

「こういう現象を見ると、人はその目的について、すぐに(獲物を誘うためや捕食者を牽制するためといった)結論に飛びつこうとしがちです」。と語るのは、書籍『Biology of Spiders(クモの生態学)』の著者であるレイナー・フォーリックス氏。「推測でものを語るよりも、まずはこの現象を科学的に研究することが大切です」

 米コーネル大学のクモ学者リンダ・レイオール氏は「こんなものは見たことがありません。実に奇妙で興味深いですね」と述べている。(参考記事:「鳥の糞に擬態するギンナガゴミグモ」

謎の脈動

 カメラマンのニッキー・ベイ氏は、謎の動きを見せるこのクモを、シンガポールの森で何年も前から撮影してきたが、最近になって、写真や動画をまとめて発表した。(参考記事:「【動画】奇虫!サンヨウベニボタルの驚くべき生態」

 同じようなクモはインドでも観察されており、2015年にフェイスブックに投稿された動画に、やはり脈動を見せるクモが映っている。

 クモの仲間には確かに、木の葉やテントウムシに擬態したり、求愛のタップダンスを踊ったり、おとりとして巣にぶら下げるための偽のクモをこしらえたりと、たいそう奇妙な行動をとるものがいる。(参考記事:「エイリアンのようなクモ発見、枯れ葉に擬態」「【動画】求愛ダンス踊るクモの新種が7種見つかる」

 しかし通常、成体のクモが外見を変化させることはほとんどない。例外的に、周囲に溶け込むために体色を変化させるカニグモの仲間や、腹部を覆う鏡のようにキラキラとした細胞の大きさを変えられるヒメグモの仲間がいるぐらいだ。(参考記事:「色でおしゃべり カメレオン」

 それらのクモと比較しても、ミラーボールのように色がゆらめく今回のクモはまるで別物だ。

なぜ見つからなかったのか

 トリノフンダマシ属はその名の通り、鳥の糞の擬態を得意とする。(参考記事:「うんちのふりをするイモムシ 効果のほどは?」

 シンガポールのリーコンチャン自然史博物館職員で、クモに詳しいジョセフ・コー氏は、ベイ氏の写真に写ったクモはおそらくオオトリノフンダマシ(Cyrtarachne inaequalis)だろうと見ているが、まだ最終的な判断は下していない。

 コー氏によると、オオトリノフンダマシは珍しい種ではないが、とても小さいという。雌の腹部の幅はわずか1センチほどで、雄はそれよりもさらに小さい。

 この珍しい現象がこれまで注目を浴びなかった理由はその点にあるのかもしれない。つまり、見つけるのが難しいのだ。(参考記事:「華麗なる生物の擬態」

 クモの本を著したフォーリックス氏は、ベイ氏の写真と動画から、あの脈動は色素を持つ内臓の細胞が収縮するときに起こるのではないかと推測している。

解けない謎

「ニッキー氏が発表した映像で見られるもの以上のことは、私にはまだなんとも言えません」。米ピッツバーグ大学で生物の体色の進化について研究しているネイサン・モアハウス氏はそう語る。

 一般によく聞かれる説としては、クモは恐ろしげなヘビの頭部、あるいは獲物に襲いかかろうとするカマキリを模しているというものがある。(参考記事:「【動画】「ニセのクモ」で鳥をだまして食べるヘビ」

【参考動画】メスを縛って交尾有利に、クモで判明:オスのナーサリー・ウェブ・スパイダー(Pisaurina mira)はメスに捕食されないよう、メスを縛ってから交尾を行う。(説明は英語です)詳しくはこちら

 しかし、「集団の中で、この動きにどの程度の違いがあるのかについてより詳しい情報がなければ、(これが何を擬態しているのかについて)これ以上突っ込んだ推測をするのは難しいでしょう」とモアハウス氏は言う。

「私なら、まずは動いているあの膜が何なのか、なぜ動くようになっているのかを解明することから始めます。そしてなぜ色がついているのかも知りたいところです」(参考記事:「【動画】謎の構造物からクモが生まれる、種は不明」

 コー氏もまた、さらに観察を続けなければ、このクモに関するいくつもの謎の答えは出せないと考えている。

 その謎とはたとえばこんなものだ。このクモは巣を作るのか? 昼行性なのか、それとも捕食者が脈打つ斑点を見ることができない夜に行動するのか? 斑点は常に動いているのか、それとも危険やストレスを感じたときだけ脈打つのか?

 どうやら今のところは、この美しくも奇妙なクモの魅惑的な脈動を見るだけで満足するしかないらしい。(参考記事:「脚をチラッと見せてメスを誘うクモを発見」

文=Nadia Drake/訳=北村京子

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