【動画】深海を泳ぐギンザメがカメラに衝突!

生きた姿の撮影だけでなく、北半球での確認も初

2016.12.20
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深海で泳ぐ姿が初めて撮影されたギンザメの1種。(説明は英語です)

 海中に深く深く潜ってゆき、太陽の光が届かなくなる深さをはるかに超えた深海に、ギンザメの世界が広がっている。

 ギンザメは、死んでいるかのような目と、翼のようなヒレを持つ深海魚だ。人目に触れることは滅多にない。(参考記事:「【動画】超貴重!巨大深海ザメの撮影に成功」

 サメやエイの仲間で、約3億年前にこれらのグループから分岐した。恐竜の時代よりはるかに前から深海に生息していたこの魚のことを、私たちはほとんど知らない。米国カリフォルニア州のモントレー湾水族館研究所(MBARI)が最近公開した動画は、この神秘的な生物に新たな光を当てた。(参考記事:「1世紀ぶりに確認、幻の深海生物」

 動画は、同研究所が2009年にカリフォルニアとハワイの海で深海探査を行ったときに撮影されたものだ。探査に使用された遠隔操作型無人潜水機(ROV)は、最大深度2400mまでの海中を撮影してきたが、その目的はギンザメを探すことではなかった。「実は、動画の撮影者は地質学者だったのです」と、米モス・ランディング海洋研究所太平洋サメ研究センターのプログラム・ディレクター、デイブ・エバート氏は言う。(参考記事:「深海生物の“世紀の発見”です!」

「ふだんから観測を行っているような場所ではないので、ちょっとした幸運でしたね」

 ROVが撮影した1匹の魚は、これらの海域でよく見られるどのギンザメにも似ておらず、新種のように思われた。

 確認のため、同研究所はエバート氏やその他のギンザメの専門家に連絡を取った。動画を分析した研究チームが科学誌「Marine Biodiversity Records」誌に発表した論文によれば、これは「ポインティー・ノーズド・ブルー・キメラ(学名:Hydrolagus trolli)」というギンザメだった。その名のとおり青みがかった体色と尖った鼻先を特徴とするギンザメで、ふつうはオーストラリアやニュージーランドの近くの海で見られるという。

 残念ながら新種ではなかったが、今回の動画は、自然の生息地で生きて泳いでいる姿を初めてとらえた点で重要だ。(参考記事:「頭が2つあるサメの報告が世界で増加、原因不明」

オスの頭には生殖器官

 エバート氏らが正しければ、北半球でこのギンザメが発見されたのも初めてである。

 けれども、実物からDNAを採取できないかぎり断定することはできないし、DNAの採取は容易ではない。エバート氏は地元の魚市場で新しい標本を入手しようと計画しているが、最善の(そして唯一の)方法は、底引網で海底を引くことだろう(網を海面に引き上げる頃には魚は死んでしまっている)。

深海のサメたち

 本物の標本がなくても、動画からさまざまな情報が得られる。多くの深海生物とは違い、このギンザメは、ROVカメラの前の明るい光の中でも大サービスしてくれた。

「ちょっと笑える映像といってもいいぐらいです。こちらに近づいてきて、レンズにぶつかって、泳ぎ去ったかと思うと、また戻ってくるんです」とエバート氏。

 多くのギンザメが好む平坦で柔らかい海底に対して、この種は動画の55秒以降に映る背景のような岩場をより好むのでは、と、ホホジロザメやシュモクザメと比べると、目立たず地味なギンザメの専門家であるエバート氏は言う。(参考記事:「【動画】ホホジロザメがダイバーの入った檻に突入」

 また、よく知られているサメとは異なり、ギンザメはギザギザの歯列を持たず、石灰化した歯板で軟体動物や蠕虫やその他の底生動物を噛み砕く。

 ギンザメの頭部に見られる複数の線は側線溝と呼ばれ、なかに感覚細胞があって水中の動きを感知でき、サメが餌のありかを見つけるのに役立っている。

 特に興味深いのは、オスのギンザメの頭部にある伸び縮みする生殖器官かもしれない。(参考記事:「インドネシアの深海:ギンザメ」

【フォトギャラリー】恐ろしくも美しきサメ、フォトギャラリー10選

幽霊ザメ、ネズミ魚、水ウサギ

 米国ペンシルベニア州ミラーズビル大学の海洋生物学者でギンザメの専門家であるドミニク・ディディエ氏は、世界中に分布しているギンザメはこのほかに少なくとも3種いるのだから、ポインティー・ノーズド・ブルー・キメラが北半球にいてもおかしくはないと言う。

「ギンザメを捕まえるには底引き網を使うしかありません」と彼女は言う。「底引き網は、スナップ写真のように、その瞬間の海底の生物分布をとらえます。ただ、ギンザメを探して広大な海で底引き網を引くのは、ミシガン湖の生物分布を調べるために紙コップで水をすくうような話です」(参考記事:「深海の底引き網漁で海底に壊滅的影響か」

 「多くの種は、非常に広い範囲に生息しているのだと思います。ただ、データがないのです」

 ギンザメは英語で「chimaera(キメラ、いろいろな動物を合わせたような姿をしていることから)」、「ghost shark(幽霊ザメ)」、「ratfish(ネズミ魚、尾びれがネズミの尾に似ていることから)」、あるいは学名をそのまま英語にした「water bunny(水ウサギ)」などと呼ばれている。どの名で呼ばれようと、この魚が「美しいがほとんど解明されていない、地球に生きる多くの仲間の1種」であることに変わりはないとディディエ氏は言う。(参考記事:「“2つの顔”のネコ、「ビーナス」の謎」

文=Jason Bittel/訳=三枝小夜子

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