地球で「火星」を体験できる場所6選

80日間の模擬火星実験からクルーが「帰還」

2016.12.15
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米国ユタ州にある研究施設の外に出て、火星に似た大地を探索する火星協会のクルー。(PHOTOGRAPH BY PHILIP TOLEDANO, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 砂漠にある居住施設での80日間の暮らしを終え、12月13日、米国の「火星協会(The Mars Society)」が実施する模擬火星滞在実験のクルー7人が帰還した。

 しかし彼らの仕事はこれで終わりではない。7カ国から集まったクルーはさらに、カナダ北極圏にある同様の施設で80日間を過ごす予定になっている。

 米国ユタ州の砂漠にある今回の居住施設では、これまでに1000人以上のクルーがミッションをこなしてきた。ここは人間が火星で暮らし、仕事をする際に体験すると想定される環境を模した施設だ。

 クルーは宇宙服を着なければ施設を離れることができず、外部の人間との通信には20分間の遅れが生じる。水は限られた量しか使えず、新鮮な食材はほぼ存在しない。

 この種の実験において研究の主眼となるのは、人間の生理機能が火星環境の過酷さにどのように適応するかといったことではない。火星環境を模しているとはいえ、重力を小さくしたり、空気をなくしたり、有毒な土壌を再現したりすることはしょせん不可能だからだ。そのため模擬火星ミッションでは、外界から遮断された荒野に暮らすことで人間の心理や行動がどのような影響を受けるかが、研究の中心となる。(参考記事:「模擬施設で実験、火星に行くべき人間とは?」

 今回の模擬火星滞在実験「マーズ160」は、他の惑星を調査する際に科学者たちがどのような行動を取るのかを観察することを目的としている。そのため参加クルーは実験が開始された9月の末から、微生物学、地質学、古生物学などの実験を忙しくこなしてきた。

 同時に彼らは、新しく設計された宇宙服と、吸引式洗濯システムのテストも行っていた。

 今回のような模擬宇宙基地は、ユタ州のほかにも世界数カ所に存在する。科学者はこれを利用して、人間が宇宙空間を旅したり、そこで暮らしたりする際に、どのような反応を示すのかについて、さまざまな面から研究を行っている。(参考記事:「火星移住 人類の挑戦」

米国ハワイ

「HI-SEAS(ハワイ宇宙探査模擬実験)」用の施設が立つマウナロア山一帯は、溶岩原に囲まれた土地だ。(PHOTOGRAPH BY HI-SEAS/NASA)
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 ハワイでは、隔離環境で丸1年間を過ごす模擬火星探査ミッションが実施され、2016年8月に終了した。ここは、ハワイ島マウナロア山の斜面に設置された、太陽電池を備えた2階建てのドーム型施設。ハワイ大学による宇宙探査模擬実験(HI-SEAS)プログラムの一環だ。定期的に6人構成のクルーが暮らしており、NASAの支援を受けた研究者らが、隔離環境で暮らす人間の反応を観察できるようになっている。

 マウナロア山の施設周辺を覆う溶岩原のおかげで、クルーは火星に非常によく似た環境で作業をすることができる。(参考記事:「1年の「火星」生活から帰還、ハワイ」

米国フロリダ州

2012年、宇宙での作業を海底でシミュレートするNASAの宇宙飛行士。(PHOTOGRAPH BY NASA)
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 すべての模擬宇宙基地が陸上にあるわけではない。NASAの「アクエリアス」は、地球で唯一の海底研究基地だ。

 NASAによる訓練プログラム「極限環境ミッション運用(NEEMO)」に参加するクルーは、最長で3週間を水中で過ごす。居住施設は、キー・ラーゴ沖に広がるサンゴ礁のそばの、水深約19メートルの海底にある。そこでは4人のクルーが、人間の居住にはまるで適していない環境で暮らすことができる。これまでに宇宙へ行った宇宙飛行士の多くが、この施設で水中生活を体験してきた。(参考記事:「“小惑星に着陸”、NASAの海底実験」

イタリア、サルデーニャ島

サルデーニャ島の洞窟を探検する、5つの宇宙機関から集った宇宙飛行士たち。安全の確保が重要な場面で、異文化チームが効率的に作業を行うにはどうしたらいいかを学ぶ訓練の一環だ。(PHOTOGRAPH BY V.CROBU, ESA)
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 宇宙旅行において、絶対に避けて通れない要素がある。それは暗い場所で活動することだ。目的地が月であれ火星であれ、宇宙飛行士を強い宇宙線から守るためには、洞窟や溶岩洞の中で居住環境を整備することになる。欧州宇宙機関(ESA)はおそらくそうした事情を考慮した上で、サルデーニャ島の地表からおよそ800メートルという深さにある洞窟の中で訓練を行うことにしたのだろう。(参考記事:「星出宇宙飛行士ら、地底800mの洞窟で訓練」

 深い地中に降りた6人のクルーは、あえて危険な環境をゆっくりと通り抜けたり、身の安全を確保するために何を持参するかを慎重に計画したりといった課題をこなしながら、未知の世界を探検する訓練を行う。危険が多い地下世界でのミッションは地上のそれよりも期間が短く、今年の夏に行われたものはわずか6日間だった。(参考記事:「火星地図200年の歴史、こんなに進化した15点」

ロシア、モスクワ

「マーズ500」計画に参加する宇宙飛行士たち。ミッション中の自身の脳活動を記録するための準備をしているところ。(PHOTOGRAPH BY ESA, MARS500 CREW)
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 地上で宇宙空間に似た場所を見つけるには、人里離れた地まで足を運ばなければならないと思っている人もいるかもしれないが、そうとばかりは限らない。過去最長の火星シミュレーション実験が行われたのは、モスクワのロシア科学アカデミー生物医学問題研究所内にある、ごく普通の倉庫のような外観の施設の中だ。

 「マーズ500」と呼ばれるこの実験は、中国、ESA、ロシアの宇宙関連企業ロスコスモスの協力により実施されたもので、6人のクルーが520日間、模擬火星住居棟の中で隔離生活を送った。520日という長さは、人間が火星まで行き、着陸し、生活の準備を整えるまでにかかるとされる時間だ。実験内では模擬の宇宙船で模擬の着陸が行われ、模擬の火星住居が用意された。

南極

コンコルディア基地は海抜3000メートル以上の高台に位置する。冬には気温がマイナス80℃まで下がる。(PHOTOGRAPH BY BETH HEALEY, PNRA, IPEV/ESA)
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 地球の南端に、ESAによる調査に貢献している研究基地がある。南極の高台に位置するコンコルディア基地では、一度に最大16人が年間を通じて暮らしている。研究の対象となるのは主に天候、雪氷学、地球の磁場などではあるが、この基地での生活には、宇宙旅行で遭遇する困難と通じるところがある。

 ESAの研究者は、人間が基地で生活する間、彼らの血圧や脳などがどのように変化するかを記録している。南極の冬の4カ月間の暗闇を耐え抜いた人間の視覚や睡眠サイクルもまた、研究の対象だ。(参考記事:研究者が南極からレポート「南極なう!」

 そして、研究の対象となる科学者自身は、極限の環境下において生命がどう進化するのかについて研究している。たとえばコンコルディア基地でのプロジェクトのひとつは、極限微生物と呼ばれる、生命が生きる上で必要な要素がほとんどない過酷な地で繁殖することに成功したウイルス、バクテリア、菌類などを探すことだ。

人類の火星への旅は、もはや夢物語ではない――。
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文=Nadia Drake/訳=北村京子

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