謎の新種ゲンゴロウが30年ぶりに見つかる

数千キロ離れた地下水にしか生息しない種と近縁と判明、米国

2016.12.14
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
1984年に初めて発見されたメスのStygoporus oregonensis。線の長さは1ミリ。(Photograph Courtesy Kojun Kanda)
[画像のクリックで拡大表示]

 お風呂に浮かぶものといえば、黄色いアヒルを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。

 だが1984年に米国オレゴン州のセーラム近郊に住む夫婦が見つけたのは、水に浮かぶ極小の甲虫だった。日課の風呂掃除をしている最中のことだ。

 後になって、この招かれざる虫が未発見の新種と確認される。

 ところが、研究用の標本を採集する前に、おそらく虫を駆除しようとして、夫婦は風呂水用の井戸に漂白剤をたっぷりと流し込んでしまった。

 それきりこの甲虫を目にするものはいなかった――今回の研究で見つかるまでは。(参考記事:「ダーウィンが採取した甲虫、新種と認定」

 11月16日付けの学術誌「ZooKeys」に掲載された論文によれば、薄い色をした目の見えないゲンゴロウ(Stygoporus oregonensis)を再発見し、さらにその出自をめぐる新たな謎に出くわすことになったという。(参考記事:「生殖器がオスメス逆転した新種の洞窟昆虫」

帰ってきたゲンゴロウ

 オレゴン州の家族は当初バスタブにノミが発生したと思い、オレゴン州立大学の昆虫学者に標本をひとつ送った。(参考記事:「世界初、水中を泳ぐオオムカデを発見」

 研究者たちはそれがノミではなくて甲虫、それも新種らしいとすぐに気がついた。さらに標本が8つ見つかり、当時、オレゴン州立大学の学部生だったジム・ラボンテ氏は甲虫学の学術誌「the Coleopterists’s Bulletin」にこの昆虫を新たな属の新種として正式に記載した。その後、詳細を確認しようと現地に赴いたが、時すでに遅し、井戸に漂白剤が流し込まれた後だった。

奇虫!サンヨウベニボタル
動画:見たこともない奇妙な珍種の甲虫をご覧ください。詳しくはこちら

 それからおよそ30年後。オレゴン州セーラムの南東30キロのところで育った昆虫学者リチャード・ファン・ドリーシャ氏が、滅多に見られないというこの甲虫の論文を読み、自分でも見つけてみたいと思った。

 そこで、まず両親の農場にある井戸のろ過装置を調べたところ、バラバラになったS.oregonensisの一部が複数見つかった。これは幸先が良いと思ったものの、研究するにはいかんせん試料が少なかった。

 数カ月後、ファン・ドリーシャ氏がまたろ過装置を調べてみると、死んだばかりの死骸を数個採集できた。これなら有効なDNAを抽出できる。

 ファン・ドリーシャ氏らの調査で、その遺伝物質がS.oregonensisのものであり、同時に、4つのゲンゴロウの種のグループと近縁であることが確認された。これら4種はすべてセーラムから数千キロも離れているテキサス州サンマルコス付近の地下にある1本の帯水層に生息している。米国の帯水層にすむゲンゴロウはこれらの種だけだ。(参考記事:「地下水が枯れる日」

 非常に近縁の2つの種が、これほど離れた地域に生息する例は稀だ。体が極小となればなおさらなだけに、学者たちは、ゲンゴロウが別の州に移動した方法に大きな関心を寄せている。

「体長たった2ミりですよ。5匹並べてやっと1センチです」と、現在オレゴン州農務局の昆虫学者であるラボンテ氏は言う。

水から出たら死んでしまう

 テキサス州とオレゴン州に生息するこれらのゲンゴロウは、どちらも何百万年もの間、地中にある真っ暗な帯水層に生息してきたため、とうの昔に視力を失っている。(参考記事:「洞窟の魚が目を失ったのは、省エネのためだった」

 目で見て移動することができないため、体を覆う毛を使って周囲を知覚している。「ネコがひげを使っているのと同じです」と、ラボンテ氏は言う。(参考記事:「知られざる洞窟生物の世界」

 しかし、この毛のせいで、ゲンゴロウは一旦地表に出てしまうと、水中に戻れない。つまり水から離れることは死を意味する。オレゴン州とテキサス州を結ぶ単一の帯水層は存在しないため、虫たちには死なずに米国を横断する手段を持っていないことになる。

 研究を主導したオレゴン州立大学の生物学者コージュン・カンダ氏は、帯水層に生息する未知の甲虫がまだ存在すると考えている。

「米国が生物多様性のホットスポットだとは思わないものの、未発見の種はまだたくさんいます。裏庭にすらいるかもしれませんよ」

文=Carrie Arnold/訳=潮裕子

  • このエントリーをはてなブックマークに追加