ロビンソン・クルーソー島まで飛んだクモ、高速進化

200万年前に海を渡ったクモが進化、新種を複数発見

2016.12.07
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科学者たちがロビンソン・クルーソー島の調査旅行で発見したクモの新種(未記載)(PHOTOGRAPH COURTESY MARTIN RAMIREZ)
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 海上を何百キロも飛んで移動するクモがいると聞けば、クモ恐怖性の人にはショックかもしれない。

 200万年前、この空飛ぶクモは、糸を凧のようにして飛ぶ「バルーニング」という方法で、南米チリの本土からおよそ640キロも離れた太平洋上の島々にやってきた。(参考記事:「【動画】糸を使わずに自在に空を飛ぶクモを発見」

 英語で「ゴースト・スパイダー」と呼ばれるグループに属するこのクモは、島に上陸してから子孫が増えていくつかの種に分かれたと考えられる。今回の調査により、これまで全く知られていなかった新種が少なくとも3種発見された。

 岩だらけのこの島は、18世紀に私掠船の乗組員が置き去りにされたことにちなんでロビンソン・クルーソー島と命名されている。置き去りにされた人物が、英国の作家ダニエル・デフォーの小説『ロビンソン・クルーソー』のモデルになったとされているためだ。(参考記事:「ロビンソン・クルーソー「実在神話」の真相」

「ここに生息するすべての種は、いずれもどこか外からやってきて、短期間のうちに進化したものです」とアルゼンチン国立科学技術調査委員会のメンバーで、クモの研究者でもあるマルティン・ラミレス氏は話す。

 ゴースト・スパイダーと呼ばれる理由は、その色が薄いことと、動きが素早く足がぼやけて見えるため。原産は南米大陸だ。「何もない海上をクモが飛んでいるところを見るのは珍しいことではありません」とラミレス氏は言う。

この島で見つかった既知のクモ、アマウロビオイデス・マリティマ(Amaurobioides maritima) (PHOTOGRAPH COURTESY MARTIN RAMIREZ)
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8本足の漂流者

 2011年2月、ラミレス氏らは、研究用のクモを採集するためにロビンソン・クルーソー島を訪れた。丘の斜面を歩いて登り、倒木を調べ、うっそうと茂った葉をたたいてクモを探した。調査は容易ではなかったが、チームはこれまでにゴースト・スパイダーの新種を4種も発見しており、さらに未記載の新種も3種見つかっている。

 発見したなかでも特に大きな種はフィリスカ・インジェンス(Philisca ingens)で、体長が2.5センチもある。通常のゴースト・スパイダーはその数分の1の大きさだ。

 海を越えてきたクモには、大陸に住む同系統の種とは異なる形質がある。オスの生殖器が極めて小さいのだ。「どうしてそうなったのかは分からないのですが、生殖器はとても小さく、それに比べて体はとても大きいのです」とラミレス氏。彼は、科学誌『Molecular Phylogenetics and Evolution』に近ごろ掲載された論文の筆頭著者である。

 ヒントはクモの求愛行動にありそうだ。チリ本土のクモの場合、交尾(交接)の前に見られるのは互いに足を絡ませることぐらいだが、ラミレス氏によれば、この島のクモは口を使って触れ合うという。(参考記事:「メスを縛って交尾有利に、クモで判明」

【参考動画】メスを縛ってから交尾を行うクモ(説明は英語です)(Video courtesy of Alissa Anderson)

 この島ではこうした洗練された求愛行動が、あるべき大きさの生殖器を持つことよりも重要なのかもしれない、と彼は言う。(参考記事:「【動画】求愛ダンス踊るクモの新種が7種見つかる」

 島にいるゴースト・スパイダーの生息状況は比較的健全なようだが、個体数は少なく、生息範囲も50平方キロメートルに満たない。

 いまのところ、これらの種について詳しいことはあまりわかっていないとラミレス氏は言う。どうやら自分たちより大きな昆虫を餌にし、腐った丸太やシダの中、あるいは樹皮の裏側にすみついているようだ。

 最初に島にやってきたゴースト・スパイダーは、植物の葉の上に暮らしていたらしい。ラミレス氏の分子系統学的な研究によると、その祖先は南米大陸で木の葉の上に生息する種だったという。(参考記事:「クモの進化の謎解く鍵、3億年前の化石で新種発見」

ロビンソン・クルーソー島で獲物に襲いかかるクモ、トモピステス・ホレンドゥス(Tomopisthes horrendus) (PHOTOGRAPH COURTESY MARTIN RAMIREZ)
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非常に厳しい地形

 生息地を変化させ、異なる環境に素早くコロニーを作っていく能力は、島にやってきた動物の特徴だと、米国カリフォルニア科学アカデミーとカリフォルニア大学デービス校で博士研究員を務めるダルコ・コトラス氏は話す。彼は最近、この島に生息する別のクモについての論文を発表した。「大陸では競争が激しくてできなかったことでも、ここでは新しく始められるのです」

 コトラス氏は、今回の研究や科学者たちの努力を高く評価するという。「ただ出かけていってクモを採集するだけではありません。ここは急峻な場所や狭い場所が多いですから、簡単にはいかないのです」

 島の人口は1000人にも満たないが、野生動物には好都合かもしれない。しかし、この島に外来植物がはびこって生態系を変化させるようなことになれば、ロビンソン・クルーソー島のクモたちは新たな生存競争に直面することになるかもしれない。(参考記事:「アジアの女郎グモ、米国へ侵入・定着」

文=Joshua Rapp Learn/訳=大光明宜孝

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