アマゾンのヤノマミ族、希少な村に迫る「魔の手」

外界から完全に孤立した集団に、違法な金採掘者たちが急接近し保護の声が

2016.11.28
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ヤノマミ先住民保護区のモキシハテテマ村。この家の構造は、外部と交流があるヤノマミ族ではもう使われていない。(PHOTOGRAPH BY GUILHERME GNIPPER TREVISAN/HUTUKARA)
[画像のクリックで拡大表示]

 外部との交流がほとんどないブラジル、アマゾン先住民の孤立した村の写真が新たに撮影された。この写真を機に、政府が介入して違法な金採掘者から集落を守ることを求める声が部族の代表や人権団体から上がっている。(参考記事:「【動画】アマゾンの孤立部族を保護へ、ブラジル政府」

 空撮写真に収められているのは、ヤノマミ先住民保護区に作られた伝統的な円形の構造物の中央付近に集まる村人たちの姿だ。この一帯は高地になっており、川や森がベネズエラとの国境をまたいで広がっている。

 この写真は、9月中旬に国立先住民保護財団(FUNAI)の職員が撮影したものだ。数千人とも言われる違法な金採掘者を一掃するための軍隊や警察との合同作戦に向けて、調査飛行を行っているときだった。4年前の偵察飛行の際には、同じヤノマミ族の一団が別の場所にある村で確認されていた。しかし、その村はのちに放棄され、今回目撃されるまで彼らの行方が心配されていた。モキシハテテマと呼ばれるその人々は、他のヤノマミ族も含め、外界との接触を徹底的に避けてきた。(参考記事:「「非接触部族」マシコ・ピロ族、頻繁に出没の謎」

飛行機を見ても村人たちは隠れようとしなかった。(PHOTOGRAPH BY GUILHERME GNIPPER TREVISAN/HUTUKARA)
[画像のクリックで拡大表示]

外界から完全に孤立

 FUNAIの職員は、自分が見たものに驚きつつも、同時に恐怖が差し迫っていることに気づいたという。低空飛行によってはっきりと見ることができた家の構造は、古くから続く伝統的な方式に基づいたものだ。この方式は、外部と交流があるヤノマミ族ではもう使われなくなっている。写真を撮影したギレルメ・ニッパー氏は、自宅のあるアマゾン北部、ロライマ州州都ボア・ビスタからナショナル ジオグラフィックの電話取材に答えてくれた。「順調に生活できているようなので驚いています。村は広く、住民も健康そうでした。しかし、金採掘者たちは日に日に迫って来ています」

 先住民たちは飛行機を見てもほとんど恐れる様子はなく、隠れようともしなかったという。「非接触部族」と呼ばれるものの、近年写真に収められている他の集団とは異なり、モキシハテテマ村にはアルミニウム製の容器、鉄製のなた、衣服などはまったく見られなかった。「工業製品は一切見あたりませんでした」とニッパー氏。「金属製のものは何もありません。外部との交流を完全に断って問題なく生活しています。まるでタイムトラベルしたような気分でした」(参考記事:「「接触」の定義、アマゾン未接触部族」

 だが、それもまもなく終わることになるかもしれない。FUNAIの職員も、先住民の指導者たちも、それがよからぬ終わり方になることを恐れている。

迫り来る無法者たち

「モキシハテテマの兄弟たちがとても心配です」と話すのは、ヤノマミ族のシャーマンで、フトゥカラ・ヤノマミ協会の会長を務めるダビ・コペナワ氏だ。この団体は、ブラジル側の保護区に住む2万2000人ほどのヤノマミ族を代表している(隣接するベネズエラ側の保護区には、他に1万6000人ほどが暮らしている)。(参考記事:「アマゾンの闘う先住民 カヤポ」

 コペナワ氏は、ボア・ビスタの路上で、採掘者たちが村を襲撃するかどうかを話し合っているのを聞いたことがあるという。「採掘者たちが村を見つけ、村人を皆殺しにしてしまうのではないかと心配しています」

 FUNAIや先住民を支援する人権団体は、この懸念には十分な根拠があると述べている。ミシェル・テメル大統領による新たな保守政府の下で、FUNAIの予算は3分の1以上削減された。FUNAIは、ポルトガルほどの広さのヤノマミ族保護区をわずかな予算で守らなければならない。しかし、保護区内に入りこんでいる5000人ともいわれる違法採掘者たちに対処しきれないのが実情だ。

ブラジル、ヤノマミ先住民保護区のモキシハテテマ村。(PHOTOGRAPH BY GUILHERME GNIPPER TREVISAN/HUTUKARA)
[画像のクリックで拡大表示]

 ここ数カ月で金の採掘が大幅に活発化しており、採掘者たちはこの地域の広大な河川網だけでなく、いくつもの滑走路を秘密裏に作って補給を行っている。FUNAIは、ブラジル軍や州憲兵部隊の協力を得て採掘者たちの侵入を食い止めようとしている。政府職員によれば、10月末にこの作戦が始まってから、1000人ほどの採掘者を保護区から追い払った。

感染症や水質汚染の恐れも

 コペナワ氏は、村からわずか30キロ弱の場所に採掘中の金鉱脈があると指摘する。そのそばには滑走路もあり、採掘設備を撤去して採掘者を追い払うのは一筋縄ではいかない状況だ。たとえ村人たちとの接触が平和裏なものであったとしても、災厄をもたらす可能性がある。外界と接触がない村では免疫のない病気が蔓延することも考えられるからだ。「採掘者たちがやってくれば、村が白人の病気で汚染されることになります」とコペナワ氏は話す。

 ブラジル政府は、1992年のリオデジャネイロ地球サミットに先立ってヤノマミ先住民保護区を設立した。その際、軍が航空機や高速船を用いて、この地域から違法な採掘者を一掃する大規模な作戦を展開した。しかし、採掘者たちは徐々に戻ってきており、ほとんどの場合、地元の有力政治家や実業家は黙認する。

外界と交流のあるヤノマミ族の人たち
写真はこちら(次ページ)(Photograph by Michael Nichols, National Geographic Creative)

「違法な金採掘者を追い払っても、問題の根本的な解決にはいたりません。一番の問題は、地元の政治家や一部の有力実業家です」。先住民の権利保護に取り組む「サバイバル・インターナショナル」で活動するフィオーナ・ワトソン氏はそう話す。この組織は、アマゾン最後の未開の部族を守るために、国際的な努力の先頭に立ってきた。「今回の写真にあるような、外部から孤立している部族は非常に貴重な存在です。近くで金の採掘が行われていることは、彼らにとって大きなリスクになります。ヤノマミ族を守るのは、憲法によって定められたブラジル政府の義務なのです」

 脅威は暴力や感染症だけではない。採掘によって、これまで水質汚染などとは無縁だった水が水銀で汚染されることになる。水銀は、金を他の成分と分離するために広く使われており、有害化学物質として魚の体内に蓄積されていく。川の近くに暮らす先住民たちは、大半のタンパク源を魚に頼っているため、水銀によって深刻な健康被害がもたらされる可能性がある。(参考記事:「アマゾンで「沸騰する川」を発見」

「ヤノマミ族の土地は法的に保護されています。ブラジル政府、すなわちFUNAIと連邦警察、そしてブラジル軍は、ただちに採掘者たちを追い払うべきです」コペナワ氏は声を上げる。「世界はブラジル政府に、ヤノマミ族を守り、採掘者たちを追い払うよう伝えるべきです。私たちヤノマミ族はそれを望んでいます」(参考記事:「ペルー 先住民たちの豊かな森へ」

次ページ:外界と交流のあるヤノマミ族の人たち

  • このエントリーをはてなブックマークに追加