【動画】くすぐられて笑うネズミの脳の観察に成功

気分に大きく左右されるくすぐりの深い謎の解明に光

2016.11.15
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くすぐりに対するネズミの反応を調べた科学者たちは、脳がこの感覚をどのように処理し、反応するかを明らかにした。くすぐられるネズミの笑い声は57秒から。くすぐるのをやめるとネズミは人の手を探し回り、やがては手を遊び相手と認識して、くすぐられなくても笑い声を上げながら手を追いかけるようになった。ただし、人間の耳に聞こえるように声の周波数を下げられている。もとの周波数は50kHz前後。(説明は英語です)(Video courtesy Humboldt University of Berlin)

 ネズミをくすぐる研究から何が分かるって? たくさんのことだ。

 ドイツ、フンボルト大学ベルンシュタイン計算論的神経化学センターの生物学者ミヒャエル・ブレヒト氏と博士研究員の石山晋平氏は、このほど初めて、ネズミの脳のどの領域が「くすぐったさ」を感じているかを特定し、11月11日付の科学誌「サイエンス」に発表した。その部位は、触覚と関連づけられる「体性感覚皮質」の深い層だった。

 同時に、くすぐりに対するネズミの反応が気分によって変わることも分かった。人間と同じで、ストレスを感じているネズミはくすぐられても笑わないが、幸せなネズミは笑うのだ。(参考記事:「動物って笑うの?」

 ミヒャエル・ブレヒト氏は、「くすぐったさは触覚に属していますが、最も研究が遅れている感覚の1つです」と言う。

 たとえば、人はくすぐられるとなぜ笑うのか、自分でくすぐるより他人にくすぐられる方がくすぐったいのはなぜなのか。くすぐったさが何の役に立っているのかもわかっていない。

 動物をくすぐる研究など奇妙な冗談のように思われるかもしれないが、そこには人間の認知機能に関わる重要な秘密が隠されている可能性がある。アリストテレスやダーウィンも、著作でくすぐりの謎に言及している。(参考記事:「動物は何を考えているのか?」

ネズミの笑わせ方

 実験室でネズミを笑わせるため、研究者たちは優しくなでたり、つついたり、ときにはひっくり返して腹をくすぐったりした。(参考記事:「ネコは撫でるとストレスを感じる?」

 ネズミが笑うときには人間の可聴域を超える超音波の鳴き声を出す(超音波発声)。そこで、実験は超音波を捉える装置を使って行われた。

 加えて、科学者たちはネズミの脳に小さな電極を埋め込んで、ニューロン(神経細胞)の活動を記録した。これにより、くすぐりに対するネズミの脳の反応を観察できただけでなく、脳の特定の領域を刺激するだけで笑い声を上げさせることもできた。

 ネズミを明るい光の下に置いたり高い台の上に置いたりしてストレスを与えると、くすぐったさを感じにくくなり、笑い声を上げなくなることも明らかになった。(参考記事:「ラットも誤った選択を後悔する?」

 ブレヒト氏はこの発見について、潜在的脅威が迫っているときは、遊びたくならないように進化的に適応したのだろうと考えている。(参考記事:「失恋は肉体的な痛みも引き起こす」

「気分の神経相関についても解明が進んでいませんが、このデータが役に立つかもしれません」と彼は言う。

ネズミはくすぐられたがる

 ネズミをくすぐる研究はこれが最初ではない。ヤーク・パンクセップ氏とジェフリー・バーグドルフ氏がネズミがくすぐったがることを発見したのは1999年のことだった。その後、ネズミをくすぐることで意思決定に影響を及ぼすことができるだけでなく、幸福度を増せることも分かった。

 ブレヒト氏によると、ネズミがくすぐられるのを喜んでいることを示す証拠はたくさんあるという。

 パンクセップ氏とバーグドルフ氏は、ネズミたちが囲いの中で以前くすぐってもらっていた場所を覚えていて、頻繁にその場所に戻ることを示した。

 今回の研究でも、くすぐってもらったネズミたちが楽しさのあまり飛び跳ねる様子が観察された。

ポジティブな行動や感情の脳科学を

 ネズミの笑いを調べることで、最終的には、私たち人間の脳や行動の仕組みについて知ることができるかもしれない。

『Are We Smart Enough to Know How Smart Animals Are(われわれは動物を理解できるほど賢いのか)?』の著者である霊長類学者のフランス・ドゥ・ヴァール氏は、科学者たちはネガティブな感情を解決するために脳科学に目を向けるが、くすぐりなどのポジティブな相互作用と感情の価値を探ることも有効だと指摘する。(参考記事:「ネズミの恩返し行動を発見、人間以外で初」

「それは人間の幸福と健康にとっても重要です」とドゥ・ヴァール氏は言う。(参考記事:「手を洗えば後悔も洗い流せる?」

「例えば、免疫系は社会関係に非常に敏感です。こうした関係を神経学的な観点からも解明することはとても重要です」

文=Jason Bittel/訳=三枝小夜子

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