海のプラスチックに「匂いの罠」、動物誤飲の一因

餌のオキアミを探す目安となる匂いを放つと判明

2016.11.14
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ハワイのリーワード諸島でプラスチックごみを食べるクロアシアホウドリ。(PHOTOGRAPH BY FRANS LANTING, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 世界の海がプラスチックごみだらけになるにつれ、多くの海洋動物が驚くほど大量のプラスチックごみを食べていることが分かってきた。しかし、動物プランクトンからクジラまで、大小さまざまな動物がなぜプラスチックを餌と間違えてしまうのかはあまり調べられてこなかった。(参考記事:「座礁したクジラの胃から自動車部品」

 今回、新たな研究により、その謎の一端が明らかになった。プラスチックごみは餌のような匂いがするというのだ。(参考記事:「海はゴミ箱? 母なる海に迫る危機」

 多くの海鳥は、オキアミという小型の甲殻類を主な食料にしている。そのオキアミは藻類を食べるのだが、藻類が海中で自然に分解するときに、硫黄臭を放つジメチルスルフィドという物質が発生する。そのため、オキアミを探す海鳥たちは、硫黄臭をたどっていけばオキアミのいる餌場に行けることを知っている。(参考記事:「海鳥は「匂いの地図」を持っている?」

 海に浮かぶプラスチックごみは、藻類が繁茂する絶好の足場になる。11月9日付けの科学誌「Science Advances」に発表された研究によると、海洋プラスチックごみに付着した藻類が分解されてジメチルスルフィドが発生すると、オキアミを探している海鳥たちがこの「匂いの罠」にだまされてプラスチックごみを食べてしまうという。

「ジメチルスルフィドは食事の合図なのです」。米カリフォルニア大学デービス校の博士課程の学生で、この論文の筆頭著者であるマシュー・サヴォカ氏は言う。「私たち人間は、食事のベルが聞こえたら、食べ物が用意されていると考えます。同様に、海鳥たちが『ここにオキアミがいるはずだ』と告げる匂いを嗅ぐと、すっかりその気になってしまい、自分が何を食べているのか、あまり気にしなくなってしまうのです」

海のプラスチックごみをなくすには。(説明は英語です)(参考記事:「海ゴミの出所を特定、1位は中国」

 海洋プラスチックごみは急速に蓄積しており、10年ごとにほぼ倍増している。2014年に全世界で行われた分析によると、海洋プラスチックごみの総量は2億5000万トンで、その多くが米粒大の破片になって浮いている。カメ、クジラ、アザラシ、鳥類、魚類を含む200種以上の動物が、こうした海洋プラスチックごみを摂取していることが分かっている。特に危険にさらされているのは海鳥で、2015年にはオーストラリアの科学者が、ほぼすべての海鳥がプラスチックを摂取していると結論づける研究を発表した。(参考記事:「海鳥の90%がプラスチックを誤飲、最新研究で判明」

 科学者たちは長年、動物がプラスチックを食べてしまうのは食べ物のように見えるからだと考えていた。例えばウミガメは、薄く透明なビニール袋をクラゲと間違えることが多い。魚などは、日光や波の作用により米粒大の破片になったマイクロプラスチックを、ふだん食べている小さいものと間違って食べてしまう。(参考記事:「【動画】鼻にストローが刺さったウミガメを救助」

 しかし、海洋動物によるプラスチックの摂取に匂いが関係している可能性を探る研究は、これが初めてだ。サヴォカ氏は、匂いが意思決定に及ぼす影響を研究している科学者と、料理とワインの研究をしている化学者と共同で、犯人の匂いを探った。

「この研究は、プラスチックが食べ物に見えることを否定するものではありません」と彼は言う。「ただ、動物たちが特定のエリアで餌を探して食べるきっかけは匂いであることが多いのです。食べ物のように見えるものから、食べ物のような匂いがしてくるなら、海鳥がプラスチックを食べてしまう可能性は一段と高くなるという話です」

 魚が摂取するプラスチックの毒性を研究しているカナダ、トロント大学の進化生物学者チェルシー・ロクマン氏は、この研究は、海洋動物がプラスチックを食べてしまう理由の解明に向けた重要な一歩だと言う。(参考記事:「DVDケースがクジラを殺した」

「プラスチックごみに関するどの文献を見ても、研究者たちは適切な実験をすることも理由を説明することもなく、動物たちがプラスチックごみを『選んで』食べていると主張しています」とロクマン氏は指摘する。「その理由を本格的に探るのは、今回のグループが初めてです」

 サヴォカ氏のチームは、すでにプラスチック摂取によって深刻な影響を受けているアホウドリ、ウミツバメ、ミズナギドリに注目した。そして、カリフォルニア州のモンテレー湾とボデガ湾の沖にマイクロプラスチックを袋に入れたブイをいくつか設置し、3週間後に回収して研究室で匂いを調べた。

「硫黄の匂いがしていました」とサヴォカ氏。

マイクロプラスチックの旅:フリースジャケットを洗濯するたびに2000個の小さな小さなプラスチックが流れ出し、最終的には私たちの食べ物にも入り込む。(説明は英語です)(参考記事:「あなたに忍び寄る身近な化学物質」

 ジメチルスルフィドがプラスチック摂取のリスクを大幅に増やす条件であり、この匂いを発するプラスチックがオキアミのように海洋動物を引きつけるカギであることを研究チームが突き止めるのに、たいして時間はかからなかった。また、抽出試験により、広く用いられている3種類のプラスチックが1カ月足らずでジメチルスルフィドの匂いを発するようになることも確認できた。さらに、ジメチルスルフィドの匂いに最も引きつけられる鳥が、プラスチック摂取の影響が最も深刻なアホウドリ、ウミツバメ、ミズナギドリであることも明らかになった。

 これは、ある程度は予想できる結果だった。この鳥たちの多くは地面に巣穴を作り、幼鳥は何カ月も地面で暮らす。そのため、高いところに巣を作る鳥に比べて嗅覚に依存する割合が高くなるのだ。

「私たちは、こうした鳥たちに注目していく必要があります」とサヴォカ氏は言う。(参考記事:「海洋ゴミ、最も効果的な対策は?」

文=Laura Parker/訳=三枝小夜子

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