トランプ次期大統領が引き起こす気候変動の危機

クリントン氏勝利に比べてCO2排出は16%増

2016.11.11
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米大統領選挙に勝利し、選挙後のイベントで支持者に語りかけるドナルド・トランプ氏。後ろに並んでいるのはトランプ氏の家族。ニューヨーク・ヒルトン・ミッドタウンで8日に撮影。(PHOTOGRAPH BY JABIN BOTSFORD, THE WASHINGTON POST/GETTY)
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 ドナルド・トランプ氏が米国の次期大統領に決まった。この驚くべき勝利は米国の環境政策に劇的な変化をもたらすだろう。現大統領のバラク・オバマ氏は気候変動の問題に真正面から取り組んでいるが、トランプ氏はオバマ氏の政策を白紙に戻すとほのめかしている。そうなれば、温室効果ガスの排出を抑制するための国際努力まで大混乱に陥ってしまう可能性が高い。

 米国、そして世界への影響は甚大だ。もし今すぐ温室効果ガスの排出を抑制しなければ、地球の気温は2100年までに産業革命前の水準より最大6℃ほど上昇するという試算もある。干ばつや山火事が増加し、海面は上昇し、世界の農業は壊滅的な被害を受けるだろう。(参考記事:「「CO2止めても7℃上昇」に批判相次ぐ」

 事実、気候変動の影響はすでに、世界的な気温偏差の拡大、海面上昇、海洋の酸性化、熱波の増加と深刻化、南極やグリーンランドにおける陸氷の減少、動植物種の変化といった形で表面化している。

 しかし、トランプ氏は一貫して、気候変動が実際に起きているかどうかを疑問視し、気候変動は大きな脅威をもたらすという主張を退けてきた。そして、気候変動と闘う現在の政策を尻目に、米国の化石燃料の復活を称賛し続けてきた。さらに、国際連合の気候変動プログラムのために拠出する金額を減らすと明言している。(参考記事:「温暖化で平均気温8℃上昇の予測、北極が熱帯に」

 気候変動に関するトランプ氏のこうした立場は物的証拠、ほぼ普遍的な科学界の合意、米国の軍事専門家委員会、国防総省の分析と逆行するものだ。

 しかも、トランプ氏は環境保護庁(EPA)の予算を削減し、オバマ政権の気候行動計画と関連政策を白紙に戻すと示唆している。関連政策には、国連のパリ協定への参加も含まれる。

 トランプ陣営のEPA移行チームを率いる企業競争研究所のマイロン・イーベル氏が電話取材に答え、トランプ陣営は化石燃料の増産を訴えると同時に、オバマ政権の気候政策を非難するという姿勢を崩していないと強調した。

「(トランプ氏は)エネルギーと気候の問題について、いくつかの約束を繰り返してきました。白黒はっきりさせる明確な内容だと思います」

【動画】ビル・ナイの「気候変動101」気候変動は実在する深刻な問題だ。この動画では、“サイエンス・ガイ”の愛称を持つビル・ナイ氏が気候変動の原因、地球への影響、今すぐ行動を起こす必要がある理由、私たち一人一人がどのように貢献できるかを解説している。(解説は英語です)

 イーベル氏は保守系シンクタンクの一員として、地球はほんの少しだけ温暖化しており、もしかしたら人間による影響もあるかもしれないという主張を展開している(ただし、人間による影響を評価することは不可能だと述べ、NASAや国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告を軽視している)。

 イーベル氏の主張によれば、気候変動が問題になるのは100~200年後のことで、当面はあらゆるエネルギーの利用拡大を目指すべきだという。さらに、企業競争研究所は化石燃料、再生可能エネルギーの区別なく、あらゆるエネルギーの助成に反対していると語る。

「われわれは風力も太陽エネルギーも愛しています」とイーベル氏。ただ風力や太陽エネルギーの業界を後押しする税控除に反対しているだけだと言い添えた。

 環境保護団体や科学者はトランプ氏とイーベル氏の見解に猛反発している。

 ナショナル ジオグラフィックの協会付き探検家で、“原始の海”プロジェクトを立ち上げたエンリック・サラ氏は電子メールで声明を寄せ、「特定の利害関係者に歩み寄るためだけに現在のエネルギー政策やエネルギー規制を撤回すれば、汚染によってさらに多くの命が失われることになります。最も恩恵を受けるのは中国です。米国が中国に後れを取った状態がこれから何十年も続くことになるでしょう」と訴えた。「最も苦しむのは誰でしょう? 米国の労働者です」(参考記事:「気候変動、最新報告書が明かす5つの重大事実」

パリ協定にも反旗

 気候変動は「米国の製造業を無力化する目的で、中国が中国のためにでっち上げたつくり話」だというトランプ氏の根拠のない主張は、オバマ政権の気候行動計画を廃止し、クリーンパワー計画を断念するという提案も伴っている。

 クリーンパワー計画はEPAが発案した賛否両論を呼んでいる規定で、米国内の発電所による二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに2005年の3分の2まで削減するという内容だ。パリ協定の目標を達成するには、この規定が鍵を握る。パリ協定は2015年後半に協議され、今年11月4日に発効した。

 195カ国が参加する重要な枠組みで、産業革命以前から2100年までの平均気温の上昇を2度未満に抑えるという目標を掲げている。現時点ですでに排出されているCO2だけでも、平均気温を1.5度上昇させることが“確定”している。

 トランプ氏はこのパリ協定を“キャンセル”したいと述べている。この高飛車な主張は、米国に定められた排出削減目標を放棄または無視するという形で実行される可能性が高い。そして、米国のリーダーシップの有無にかかわらず、パリ協定は実行に移される。たとえ米国が自身の目標を放棄または無視しても、全世界の排出量の55%以上を担う締約国55カ国以上が2016年末までに批准する見通しであり、発効は確実だ。(参考記事:「【解説】COP21「パリ協定」勝ち組になったのは?」

 調査会社ラックス・リサーチの試算によれば、トランプ氏が提案している政策を実行に移した場合、ヒラリー・クリントン氏が大統領になった場合よりも、2024年までの米国のCO2排出量は16%多くなるという。クリントン氏はオバマ氏の政策を引き継ぎ、2025年までに2005年の約70%まで排出量を減らそうとしていた。つまり、トランプ氏が大統領選挙に勝利したことで、2016~2024年のCO2排出量が34億トン増える計算になる。これはウクライナが同期間に排出するCO2の合計とほぼ同じだ。

 影響は排出量の増加だけにとどまらない。気候変動問題に関する米国の国際的な立場ははるかに大きなダメージを受けるだろう。オバマ政権はパリ協定を熱心に支持しており、米国の参加が迅速な批准の決定打となった。その米国が排出削減目標に背を向ければ、同様の行動に走る国が続出するかもしれない。

文=Michael Greshko/訳=米井香織

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