「スター・トレック」のワープは実現可能か?

人類は光の速さを超えて移動することができるのか

2016.11.08
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2013年の『スター・トレック イントゥ・ダークネス』で描かれたU.S.S.エンタープライズは、ワープ・ドライブによって銀河を高速移動する。(PHOTOGRAPH BY CBS, GETTY IMAGES)
[画像のクリックで拡大表示]

 映画『スター・トレック』の世界では、有名なワープ・ドライブ(ワープ航法)のおかげで、銀河系の横断がいとも簡単だ。このフィクションのテクノロジーを使えば、人類やその他の文明は何百年もかけることなく、わずか数日で恒星間を移動できる。(参考記事:「『スター・トレック』がつくった未来」

 現実世界では、そこまでの高速移動は不可能だ。なぜなら、宇宙の仕組みを説明するアインシュタインの特殊相対性理論によると、光速より速く移動するものは存在しないから。

 現行のロケット推進システムはこの法則に縛られているものの、野心的なエンジニアや物理学者が数多く、スター・トレックの宇宙移動に少しでも近づくための概念設計に取り組んでいる。

「現在もっとも先進的な恒星間旅行のアイデアでさえ、最寄りの恒星まで数十年から数百年の移動時間がかかります。壁は、特殊相対性理論、それに超高速で移動するための技術不足です」と言うのは、恒星間飛行に向けた取り組みを専門とする非営利団体イカルス・インターステラーの創設者であるリチャード・オバウシー氏だ。

「光より速く移動できる宇宙船を作ることができれば、銀河の探査と人類移住の可能性が開けます」

原子力エンジン、レーザー推進

 宇宙はあまりにも広大なため、天文学者は通常、光が1年間に進む距離を意味する光年を用いて距離を表現する。1光年は、およそ9.5兆キロに相当する。

 太陽系にもっとも近い恒星は、4.23光年離れたプロキシマ・ケンタウリである。つまり、光速で移動したとしても、片道4.23年かかる計算だ。非常に遅く感じられるかもしれないが、それでも実現したなら、現代のテクノロジーに比べたら多大なる進歩と言えるだろう。

 これまでにもっとも高速で地球から飛び出して行った宇宙船はボイジャー1号で、時速約6万2100キロだった。このスピードだと、プロキシマ・ケンタウリまで7万年以上かかることになる。(参考記事:「太陽系から最も近い地球型惑星発見、過酷な環境」

 それでも、過去にさまざまなチームが、少なくとも光速の何分の1かの速度に到達する方法を提案してきた。

 1950年代には、米国の防衛業者ジェネラル・アトミクスの研究者らがオリオン計画を考案した。この宇宙船は、原子爆弾によって動く。連続する核爆発を制御して宇宙船を高速で推進させ、何百トンもの貨物と8人の宇宙飛行士を火星や太陽系の外に高速輸送できるという内容だった。

 このテクノロジーを恒星間旅行に適応させる方法を示す青写真も作られていた。しかし、核パルス推進と名付けられたこの方法は、1963年核実験禁止条約によってすべての実験が取りやめとなった。

大マゼラン雲と呼ばれる天の川銀河の伴銀河。高速推進テクノロジーが実現すれば、このような銀河系のご近所さんを訪問できるようになる。(PHOTOGRAPH BY NASA, ESA)
[画像のクリックで拡大表示]

 2016年4月に発表された意欲的なプロジェクト「ブレイクスルー・スターショット」は、比較的爆発の少ない方法で恒星間飛行を実現すようという取り組みだ。理論物理学者のスティーブン・ホーキング氏や億万長者が運営するこのプロジェクトは、4.3光年離れた三重星系、アルファ・ケンタウリに切手サイズの宇宙船団を送ることを目指している。(参考記事:「【解説】ホーキング博士らの超高速宇宙探査計画」

 このほんの小さな宇宙船には、薄くて軽い帆が取り付けられる。その帆に地球軌道からレーザーを当てることで、宇宙船を推進させるという技術だ。レーザーによって、宇宙船は光速の20%にまで加速される。つまり、およそ20年かけて目的地に到着することになる。

 小さな宇宙船団の多くはアルファ・ケンタウリに到達できないかもしれない。しかし、いくつかは生き延び、はるか遠くの三重星の軌道を周回する惑星付近を飛び、未知の世界のデータを送り返してくる可能性がある。(参考記事:「NASAがソーラーセイル探査機、広がる可能性」

「恒星間飛行の分野を一気に推し進めるアイデアに、民間のお金が使われることがとにかくエキサイティングです。今後もこのようなことが続くといいですね。ブレイクスルー・スターショットには工学的な課題が複数ありますが、どれひとつとして克服できないものとは思えません」と、オバウシー氏は語る。

超光速を可能にする理論も

 もちろん、真のブレークスルーは、ワープ・ドライブの実現だ。それには、理論的設計に追いつくテクノロジーが不可欠である。(参考記事:「科学に基づいてないとダメだ!――『スター・トレック BEYOND』のジャスティン・リン監督に聞いてみた」

 1994年、メキシコの理論物理学者ミゲル・アルクビエレ氏が、スター・トレックファンに希望の光を与えた。氏は、アインシュタインの特殊相対性理論に反しない、超光速航法の説を唱えたのだ。

 宇宙船そのものを光速まで加速させるのではなく、宇宙船周辺の時空構造をゆがめてしまえばいいのでは? アルクビエレ氏は、時空間にバブルを作る計算を提示した。バブルは、その後方が拡大し、前方が収縮することで推進する。この理論にしたがえば、宇宙船はバブルに沿って運ばれ、光速の10倍以上の速度までの加速が可能になる。

 机上ではシンプルだが、実現のためには、あまり理解の進んでいない変わった形態の物体を利用する必要がありそうだ。さらに、バブルを作ってコントロールするには、未解決の問題が無数に存在するとオバウシー氏は言う。

 それでも、とこう付け加えた。「15世紀にいくら考えても、21世紀のテクノロジーの素晴らしさを予想することはできなかったでしょう。同様に、27世紀の人類がどのようなテクノロジーを習得しているかなんて、誰にもわかるはずがありません」(参考記事:「スター・トレックが描く異星人は科学的に正しいか?」

スター・トレック
オフィシャル宇宙ガイド

価格:本体2,400円+税
アンドリュー・ファゼーカス 著
サイズ:248mm×194mm
240ページ、ソフトカバー

ナショジオストア   アマゾン

文=Andrew Fazekas/訳=堀込泰三

  • このエントリーをはてなブックマークに追加