「退化」は進化の一環、新たな力を得た動物たち

飛翔を捨てて泳ぐペンギン、土中を高速移動するヘビなど

2016.10.12
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ナイチンゲール島(南太平洋にある英国の海外領土)のイワトビペンギン。ペンギンの祖先は、約6000万年前に飛ぶ能力を失った。(PHOTOGRAPH BY TUI DE ROY, MINDEN PICUTRES, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 ヌタウナギは、その名のとおりウナギに似たヌルヌルした海洋動物だ(ウナギの仲間ではない)。視力はほとんどなく、おもに嗅覚と触覚を頼りに海底を動き回っている。

 このほど、ある研究者が約3億年前のヌタウナギの化石を詳しく調べ、ヌタウナギは大昔は視力があったが、退化でその目が失われたことを明らかにして、生物学界に衝撃を与えた。

 この発見は、目の起源に関する通説に異議を申し立てるものだ。現生のヌタウナギは、古代のヌタウナギとほとんど変わっていないため、科学者たちは長らく、視力をもたない現生のヌタウナギの目は、無脊椎動物の原始的な「眼点」と、ヒトをはじめとする脊椎動物の「カメラ眼」の途中段階に位置づけられると考えていた。(参考記事:「不思議な目の進化」

 ところが、英国レスター大学のサラ・ガボット氏が、古代のヌタウナギの化石を電子顕微鏡で観察したところ、その目の中に色素を含む構造物が残存しているのを発見した。ガボット氏らが学術誌『Proceedings of the Royal Society B』8月号に発表した論文によると、この構造物があるなら、古代のヌタウナギはものの形を識別することができただろうという。

「驚いたことに、古代のヌタウナギの目は無数の小さな球形や楕円形の構造物からできていました。数ミクロンの大きさのミートボールやソーセージみたいなものが、ぎっしり並んでいたのです」とガボット氏。現生のヌタウナギにはこのような構造物はなく、「目があるべき場所には透明な物体がくっついています」という。

【動画】粘液でサメを撃退するヌタウナギ:ヌタウナギの防衛戦略が初めて記録された。サメに噛みつかれたヌタウナギは、体表にある数百個の孔から大量の粘液を分泌した。サメは粘液を口に詰まらせ、ヌタウナギを放した。(音声は英語です)

 保存状態の非常によい古代のヌタウナギにあった網膜組織は、ヌタウナギの目が退化したことを示している。退化は進化の反対の概念ではなく、進化の一環だ。進化というと何かを獲得していくイメージがあるが、実際には喪失していくことも含まれる。ある能力を保持するためのコストがメリットよりも大きくなると、その能力は低下する。そして、目を保持するコストは非常に高いようだ。(参考記事:「ヌタウナギの粘液が環境志向の繊維に」

 洞窟にすむ魚やカニ、サンショウウオの中には、退化によって視覚や目の構造を失ったものがいる。昨年発表された、洞窟にすむ魚の研究によると、この魚が目と脳内の視覚情報を処理するために消費するエネルギーの量は、総エネルギー消費量の5~17%を占めている可能性があるという。また、昨年発表された別の論文でも、洞窟にすむ魚と明るいところにすむ仲間の魚を比較したところ、魚の安静時のエネルギー消費量の15%が、視覚に使われていることが明らかになった。(参考記事:「洞窟の魚が目を失ったのは、省エネのためだった」

 退化するのは目だけではない。以下で、その他の退化の例をいくつか紹介しよう。

飛べないペンギン

 ペンギンの祖先は飛ぶことができたが、大型の恐竜が絶滅するとすぐにその能力を失った。現在知られている最古のペンギンの化石は約6000万年前のものだが、すでにずんぐりした翼を持つ、飛べないスイマーになっていた。現生のペンギンにも、翼の骨、発達した胸筋を支えるための竜骨突起、羽毛など、飛ぶことのできる仲間たちの特徴が残っている。ペンギンは、飛ぶ能力と引き換えに体を大きくして、環境によりよく適応できるようになった。(参考記事:「フォトギャラリー:みんな大好き!ペンギン写真」

 米国コネチカット州にあるブルース博物館の古脊椎動物学者で、進化生物学者でもあるダニエル・クセプカ氏は、「飛ぶ能力を失ったことは、ペンギンの進化にとって画期的な出来事だったと思います」と言う。ペンギンは、飛ぶのをやめることで、水中で力強く泳げる大きな筋肉と、密度の高い強靭な骨、短くて硬い翼を手に入れた。「体が大きくなったことで、熱を蓄えやすくなり、より深く、長く潜れるようになったほか、大型の獲物を狙えるようにもなったのです」とクセプカ氏。

脚のないヘビ

オーストラリアに生息する猛毒のヘビ、デザートデスアダー。アリススプリングス砂漠公園で撮影。(PHOTOGRAPH BY JASON EDWARDS, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 ヘビの祖先に脚があったことを示す証拠はたくさんあるが、彼らが陸上にすんでいたのか海にすんでいたのかは、まだわかっていない。新しいところでは2015年に、ヘビの祖先は陸上で穴を掘ってすんでいたという説がオンラインの学術誌『Science Advances』誌に発表された。

 研究チームは精密なCTスキャンを用いて、水生、陸生、地中生のヘビとトカゲと類縁種の化石について、内耳の3次元バーチャルモデルを比較した。現在の地中生のヘビは、捕食者や獲物が作り出す地面の低周波の振動を聞きとる特殊な構造を持っているが、ヘビの祖先の化石にも、これに似た構造があることがわかった。つまり、ヘビの祖先は地中生で、体をくねらせて土の中を進みやすいように脚が退化したと考えられる。(参考記事:「【動画】「ニセのクモ」で鳥をだまして食べるヘビ」

排泄器官のないアブラムシ

キョウチクトウアブラムシ。オハイオ州コロンボで撮影。(PHOTOGRAPH BY DAVID M. DENNIS, ANIMALS ANIMALS, EARTH SCENES, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 昆虫の多くは、水分の調節、窒素の排出、解毒、免疫にかかわるマルピーギ管という排出器官を持っているが、アブラムシにはこれがない。アブラムシの排泄系はあまり研究されていないが、これまでの研究によると、ほかの昆虫のマルピーギ管の遺伝子に似た遺伝子は持っているようだ。けれどもなんらかの理由で、アブラムシの進化の過程でマルピーギ管自体は失われてしまった。考えられる原因は、アブラムシが植物の樹液を餌にしていることである。樹液は組成が均一で、単純な分子からできているので、マルピーギ管のような特殊な器官は必要ないのかもしれない。

歯をなくした鳥

オーストラリアカタグロトビ。(PHOTOGRAPH BY ROY TOFT, NATIONAL GEOGRPAHIC CREATIVE)
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 鳥類は恐竜から進化した。恐竜と鳥類のつながりを示すものとして有名な始祖鳥などの古代の鳥類は、歯と鉤爪のある指を持っていた。幸い、今はどんなに獰猛な鳥にも歯はないが、鳥類が歯を失った理由は全くわかっていない。一説によると、飛ぶために体を軽くする必要があったので、歯がどんどん小さくなり、最終的にくちばしに役割を譲ったという。けれども2014年に科学誌『サイエンス』に発表された研究は、歯の喪失は初期のくちばし形成とほぼ同時期に起きていることを明らかにして、この仮説を退けた。(参考記事:「巨大な古代鳥類:ノコギリ状の“歯”」

 鳥たちがどんな理由で歯を失ったにせよ、いくつかの研究によると、歯を失うのにたいした遺伝子変化は必要なかったようだ。昨年、生物進化を扱う科学誌『Evolution』に発表された研究では、研究者たちはニワトリの胚を操作して歯を生やすことに成功している。遺伝子の発現をわずかに変化させるだけで、ぐっと恐竜に似た顔になったという。

文=Jenny Morber/訳=三枝小夜子

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