キリンは1種でなく4種との報告、遺伝子解析で

5000頭未満の種も、保護政策に影響

2016.09.12
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ウガンダのマーチソンフォールズ国立公園で草をはむロスチャイルドキリン(ウガンダキリン)の群れ。これまでキリンは1種しかいないと考えられていたが、4種に分類できる可能性があることが明らかになった。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 最新の研究により、アフリカ大陸には4種のキリンがいる可能性が出てきた。

 従来、キリンは1種のみで、9亜種が存在すると考えられてきた。ところが今回、キリンの遺伝子を解析したところ、キタキリン、ミナミキリン、アミメキリン、マサイキリンの4つの集団には明らかな遺伝的差異があることが判明、9月8日に『カレント・バイオロジー』誌に論文が発表された。(参考記事:「珍しい白いキリンの写真を公開、タンザニア」

「キリンの亜種が遺伝的にこれほど明確に分かれていて、交雑していないとは思っていませんでした」と、論文の共著者でドイツ、ゼンケンベルク生物多様性・気候研究センターの進化生物学者であるアクセル・ヤンケ氏は語る。

「まったく見落とされていた」

 キリンのように目立つ動物について、こんな基本的なことさえ分かっていなかったのはなぜなのだろう?

「理由の1つは、キリンが科学的にあまり興味を持たれない生物だったことにあります。シロサイについての科学論文が2万本もあるのに対して、キリンに関する論文は400本しかないのです」とヤンケ氏は言う。

 世界の人々の注目は、絶滅の危機に瀕した動物や、ゾウのように激しい密猟にあっている動物、ライオンなどの肉食動物に集まりやすく、その中ではキリンは目立ちにくい。「キリンは地球上で最も背の高い動物ですが、完全に見落とされていたのです」(参考記事:「密猟象牙の闇ルートを追う」

 この15年間、世界がよそ見をしている間に、キリンの推定個体数は14万頭から9万頭前後まで激減した。一部の科学者はこれを「静かなる絶滅」と呼んでいる。

 キリンの専門家のジョン・ドハーティ氏は、今回の研究には関与していないが、電子メールで、「キリンに複数の種があると主張したのは彼らが最初ではありませんが、キリンの分類をめぐる論争はまだ決着していません。この議論に貢献する貴重な提案として、彼らの研究を歓迎します」と見解を述べた。

 ケニアのアミメキリンプロジェクトと英クイーンズ大学ベルファストに所属しているドハーティ氏は、研究チームが提案する分類は、遺伝学的データのみにもとづくもので、重要な身体的特徴やその他の要素を考慮していないと指摘する。その点を考慮すると、「今回の知見を決定的な成果として発表するのは時期尚早だったかもしれません」と言う。

 ただ、著者らが「アフリカ大陸全土でキリンの保護にのりだす緊急の必要性がある」と訴えている点にはドハーティ氏も強く同意する。

遺伝子を解読

 ヤンケ氏がナミビアのキリン保全財団から最初に連絡を受けたのは数年前のことだった。サハラ以南のアフリカ全域に分布するキリンの亜種はどれも同じように見えるため、亜種を区別するための遺伝子マーカーを開発してほしいという依頼だった。

 情報収集のためキリンに小型の矢を打って試料を採取する許可を受けていた同財団は、ヤンケ氏らに、アフリカ各地のキリンから採取した約200点の試料を提供した。

 ヤンケ氏はまず、試料のミトコンドリアDNA(細胞のミトコンドリアの中にある、母から子へと受け継がれるDNA)を調べて、キリンの亜種の間に「ホッキョクグマとヒグマほどの大きな差異」があることを明らかにした(この点についてドハーティ氏は、「遺伝子にどの程度の差異があれば種とされ、どの程度の差異なら亜種とされるという明確な決まりはないため、あまり良い比喩ではない」と指摘する)。

 次に核遺伝子(細胞の核にある遺伝子)を分析すると、「調べるほどに同じストーリーが見えてきました。私たちが別々のグループを見ているということです」とヤンケ氏。

 たとえば、一つのキリンのグループ内に共通して見られる変異は、別のグループに共通の変異とまったく違っていたのである。ヤンケ氏は当初、キリンを別々の種に分けることに抵抗を感じていたが、データは「絶対にそれでよい」ことを示していたという。(参考記事:「ガラパゴスのゾウガメに「新種」発見」

キリン保護に好影響

 キリン保全財団に協力している団体、米サンディエゴ・ズー・グローバルの保全生態学者デビッド・オコナー氏は、「すばらしいことです。科学でこんなに画期的なことは、めったに起こりません」と言う。

 科学的知識の不足のため、キリンの保護は長い間うまくいっていなかったが、今回の発見は、キリンを救う取り組みにとっても朗報だ。

 オコナー氏は国際自然保護連合(IUCN)の世界自然保護会議で、どのような種のキリンがいるかを知ることは、「現場で活動する私たちが仕事に優先順位をつけるのに役立ちます」と語った。

 オコナー氏は、種に名前をつけるだけでも、政府に対してキリン保護のためのリソースを割り当て直すよう圧力をかけられるかもしれないと言う。

 これに対してドハーティ氏は、「遺伝子解析のみにもとづくアプローチは、保全活動を強化するどころか台無しにすることもあります」と警告する。

 たとえば、この研究では、ソーニクロフトキリンと呼ばれる亜種はマサイキリンと一緒にされているが、この2つの集団は遠く離れたところで暮らしていて、それぞれの生息地で重要な役割を果たしている。ドハーティ氏は、2つのグループを独立に保護することで、それぞれの進化的可能性を守ることができると主張する。複数の亜種を1つの種にまとめてしまうと、「それぞれを保全することの重要性が理解されなくなるかもしれない」と懸念している。(参考記事:「ブルドッグが危機、遺伝的に似すぎ」

5000頭未満のキリンも

 今回特定された4種のうち最も危機的な状況にあるのはキタキリンとアミメキリンの2種である。

 コルドファンキリン、ヌビアキリン、ニシアフリカキリン(ナイジェリアキリン)の3亜種からなるキタキリンは、全部合わせても5000頭未満である。その多くがアフリカ中央部の政情不安定な地域にすんでいるうえ、コンゴ民主共和国ではキリンの尾がステータスシンボルとなっており、それを求める人々によりコルドファンキリンが殺されている。

動画:コンゴ民主共和国のガランバ国立公園で3頭の希少なコルドファンキリンが、尻尾目当ての密猟によって殺害された。触発された映画製作者が現場を訪れた。(解説は英語です)

 オコナー氏によると、アミメキリンも急激に減少していて、生息地の消失や密猟によりこの数十年で80%も減ったという。

 論文共著者のヤンケ氏は、国際自然保護連合(IUCN)はキリンの絶滅のおそれを「低危険種(Least Concern)」としているが、これまで1つの種とされていた約9万頭が4つの種に分割され、そのうちの2種が1万頭未満ということになれば、新しい保全状況を考えることになるだろうと指摘する。(参考記事:「パンダ「絶滅危惧種」解除は正当か、専門家に聞く」

「この研究がきっかけになって、キリンというユニークで重要な動物にスポットライトが当たってほしいと思います」とオコナー氏。「キリンは、アフリカ以外に生息地がない、アフリカを象徴する動物なのです」(参考記事:「キリンの殺処分に見る動物園の現実」

文=Christine Dell’Amore/訳=三枝小夜子

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