セグロウミヘビ、「漂流」で太平洋を横断か

クジラに匹敵する移動距離、唯一の外洋性ウミヘビ

2016.08.29
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コスタリカのグアナカステを後にするセグロウミヘビ(Hydrophis platurus)。小さな体とは裏腹に、とても長い距離を移動する。(Photograph by Adrian Hepworth, Alamy)
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 手足がなく細長い体の爬虫類が、海流に乗るだけで大洋を旅していることを示す新たな証拠が見つかった。

 唯一の外洋性のヘビで毒をもつセグロウミヘビ(Hydrophis platurus)が、海流に乗って何千キロも移動でき、おそらくは10年以上にわたり合計3万2000キロにもおよぶことがコンピューター・シミュレーションで示されたのだ。少なくとも理論的には、フィリピンからハワイの東まで、またはメキシコからインド洋西部のモーリシャス島まで、海に浮かんで移動できたことになる。この論文は8月23日付けの科学誌「Biology Letters」に掲載された。(参考記事:「サメが広大な海を回遊できる理由が明らかに」

「驚きました。このヘビは実に小さな種だからです」。そう話すのは、フランス国立科学研究センターの生物学者で、論文の共著者であるフランソワ・ブリシュー氏だ。

 セグロウミヘビの体重は100グラムから200グラムほど。「大きさでは比較になりませんが、移動距離ならクジラに匹敵します」(参考記事:「絶滅寸前のコククジラ、最長移動距離を樹立」

 マンゴー1個ほどの重さしかないセグロウミヘビは、信じられないような能力の持ち主だ。噛めば人を殺せるほどの毒を持ち、3時間半もの間呼吸を止めて水中に留まり、へら状の尾を使って水中を巧みに泳ぐこともできる。陸上にあがることはないが、脱水状態になっても何か月も生き延びられる。(参考記事:「【動画】ヘビの驚異の能力、高速アタック」「【動画】「ニセのクモ」で鳥をだまして食べるヘビ」

広すぎる生息域の謎

 しかし、そういった能力があるからといって、どうやってこの種が原産地の東南アジアから南北アメリカやアフリカまで移動してきたのかを説明することはできない。陸生、海生を問わず、ここまで広範囲に分布するヘビは他にいない。(参考記事:「アジアで大量に水揚げされるウミヘビ」

 さらにややこしいのは、セグロウミヘビを追跡するのが難しい点だ。1970年代に、ある科学者が100匹近くのヘビにタグをつけるという実験を行ったが、再捕できたのは4匹だけだった。

 その一方で、ブリシュー氏のグループは、コスタリカ沖の海上で漂流物の中にたくさんのセグロウミヘビがいるのを目撃していた。これは、ヘビが海流に乗って運ばれている可能性を示唆するものだ。

 そこで、彼らは海流のシミュレーションを行うコンピューター・プログラムを使い、セグロウミヘビの生息が確認されている28か所に1万匹以上の“仮想ヘビ”を浮かべ、それが移動する様子を追跡してみたところ、10年間海流に乗った後でも、12%の“仮想ヘビ”が生き残ることが明らかになった。さらに、コンピューター・シミュレーションでのヘビの分布と、現在のヘビの生息範囲もよく一致していた。

いまも漂流中?

 この結果は、遠く離れているにもかかわらず、太平洋の東と西に生息するウミヘビが遺伝的に近い理由も説明できる。ヘビの漂流には、遺伝子の混合を促進するという意味もあるのではないかとブリシュー氏は言う。

 爬虫類が長距離を漂流して海を越えることは、科学の世界ではすでに知られている。ほとんどを陸上ですごす爬虫類でさえ、そのような移動をすることがあるが、ただしそれは大陸間の距離が今より近かった時期に起こっていたことだ。爬虫類のデーターベースサイト「The Reptile Database」の管理人を務める米バージニア・コモンウェルス大学の教授、ピーター・ユエツ氏によると、太平洋東部のフィジー島のイグアナは南米原産であり、ワニはアフリカから海を渡って南北アメリカ大陸にやってきたという。(参考記事:「マダガスカルの哺乳類は大陸から漂着」「イリエワニ、ボディーサーフで海を渡る」

 このような壮大な旅があったことを考えると、今回の研究結果にも説得力があるように思えるとユエツ氏は言う。しかし、同氏は「少しばかり疑問を持っている」とも話す。ウミヘビのデータの大半は海岸近くで目撃されているものに基づいており、広い海で実際に起こっていることは、海岸で起こっていることとはまったく違う可能性もあるためだ。

 たとえば、熱帯地域のヘビは冷たい水には順応できないことが知られている。

 しかし、ブリシュー氏は、今回のシミュレーションによって、ほとんどのセグロウミヘビは冷たい水に長時間さらされることなく10年間漂流できることがわかったと答えている。

「ここまで生存率が高いとは思っていませんでした。……そして、(シミュレーションでヘビが)本当に長い距離を旅することができたのも意外でした」

文=Traci Watson/訳=鈴木和博

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