量産される絶滅危惧種アジアアロワナの危険な誘惑

違法取引に異例の高額、「龍魚」はなぜ人々を魅了するのか

2016.07.21
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アジアアロワナは「龍魚」とも呼ばれ、赤い体色と硬貨のような形をしたうろこから、中国では幸運と富をもたらすと信じられている。(COURTESY OF EMILY VOIGT, VIA QIAN HU CORPORATION)
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 世界で最も高価な観賞魚とされるアジアアロワナについて調べ始めた当初は、まさか自分が怪しげな商取引や密輸入の世界に足を踏み入れることになるとは思ってもみなかったと、エミリー・ボイト氏は言う。世界15カ国をめぐり、首狩り族や内戦の危険にさらされながらも、時に武装した兵士に守られながら運搬されるアジアアロワナを追い求めた末、野生にすむこの魚の持つ魅力とその危険な誘惑とは何かを発見するに至った。

 ナショナル ジオグラフィックは、ニューヨーク州に住むボイト氏の自宅へ電話インタビューを申し入れ、彼女の最新刊『The Dragon Behind the Glass: A True Story of Power, Obsession, and the World’s Most Coveted Fish(水槽のなかの龍:権力と執着、そして世界で最も切望される魚をめぐる実話)』について話を聞いた。

エミリー・ボイト氏の著作。(COURTESY OF SIMON & SCHUSTER)
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――別名「龍魚」とも呼ばれるアジアアロワナは、ほとんどの読者にとってはなじみのない魚ですが、なぜここまで価値が上がってしまったのでしょうか。

 アジアアロワナは世界で最も高価な観賞魚で、東南アジア原産の熱帯淡水魚です。野生では体長90センチに成長することもあり、恐竜の時代から生きている獰猛な捕食者です。金属のようなうろこは大きく、硬貨のような形をして、あごからはひげが突き出ています。うねるように泳ぐ姿は、中国の旧正月のパレードで目にする紙製の龍を思わせます。その姿形から幸運と富をもたらす魚と信じられ、人々は何としてでも手に入れたいと思うようになりました。

 100年以上の歴史を誇る米国ウエストミンスター・ドッグショーの魚版ともいえるアクアラマ国際魚コンテストに参加した時、希少なアルビノのアロワナ10匹が警察車両に載せられ、武装した警備員に囲まれながら登場しました。何者かによって水槽に毒を入れられるのを防ぐためです。私の聞いた限り、1匹の魚につけられた最高額は30万ドル。中国共産党の幹部が買い取ったと言われています。(参考記事:「1.3億円相当、センザンコウのウロコ4トン押収」

――本の中で「龍魚は、大量生産される絶滅危惧種という、現代特有の矛盾を最も劇的に示している例だ」と書いていますが、詳しく説明してください。

 私も理解するのに時間がかかったのですが、米国にアロワナを輸入することは禁じられているのに、実際にはここ数年で200万匹近くが国境を越えて運ばれています。東南アジアにある養殖場は、まるで刑務所のように、コンクリートの壁に囲まれ、警備犬と警備塔、有刺鉄線で保護されています。すべて魚のためですよ。(参考記事:「猛毒かけ捕獲、米輸入熱帯魚の7~9割」

野生のアジアアロワナは、ボルネオ島の森林奥深くにわずかに残るのみだ。ほとんどの魚は、養殖場で育てられている。写真の養殖場は、ケニー・ヤップ氏が所有するシンガポールのチエンフー社のもの。(COURTESY OF QIAN HU CORPORATION)
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 アジアアロワナは野生ではほとんど姿を消してしまったのに、養殖場では毎年のように数十万匹が育てられている。大きな矛盾だと思いませんか。この魚の歴史は、近年の野生生物保護の歴史を物語っていると言えます。1970年代、国際社会では協力して絶滅危惧種を保護しようという動きが高まり、初めのうちはとにかく何でも取引を禁止すべきだとされていました。アジアアロワナの場合も同様でした。当時アジアアロワナは、普通の食用魚でした。近くの沼から釣ってきてその日の夕食に食べるような魚で、とりたててごちそうというほどのものでもありませんでした。骨が多く、味は淡白です。けれども、食物連鎖の頂点に立ち、繁殖が遅いことから、国際自然保護連合のレッドリストに載せられ、国際取引が禁じられました。ところが、それが裏目に出てしまいます。取引が禁止されたことで珍しい魚だと思われるようになり、観賞魚の取引においてこの魚の市場が生まれ、価値を釣り上げてしまったのです。(参考記事:「フォトギャラリー:世界最大の「サイ牧場」を撮影」

――アジアアロワナを追う旅は、魚とはおよそ関係のなさそうなニューヨークのブロンクスからスタートしていますね。ジョン・フィッツパトリック警部補と、ニューヨーク州の違法野生生物取引について教えてください。

 ニューヨーク市の珍獣ペット取引を記事にしようとしていた時、ジョン・フィッツパトリック警部補に取材する機会がありました。すると、とても信じられないような話が次々と飛び出してきました。市内のトライベッカ地区にある高級ロフトで1300匹のカメを飼い、自分のベッドすら置けない男。ハーレムの狭いアパートでトラとワニを一緒に飼っていた男など。

 ちょうどその日、個人売買のサイトでワニを売りに出していた男がいたので、警部補についてサウスブロンクスまで行きました。ワニは見つかりませんでしたが、その道中で超高額な違法観賞魚が市内へ運び込まれ、頭を悩ませているという話を繰り返し聞かされました。私はその時は魚に興味がなかったので、大した関心を抱きませんでしたが、後になってもう少し掘り下げてみることにしたのです。(参考記事:「「赤い象牙」もつサイチョウ、密猟で絶滅の危機に」

――さらに本の中で「人間という種は、他のほぼ全ての脊椎動物を手懐け、育てたいという衝動に駆られる奇妙な生き物だ」と書いています。人はなぜ魚をペットとして飼おうと思うのでしょうか。

 これが私にとって大きな謎でした。なぜアジアアロワナがこれほど高価なのかというだけでなく、そもそもなぜ人は水槽に魚を入れようなどと考えるようになったのでしょうか。E・O・ウィルソンの言う「バイオフィリア(生命愛)」にも通じるところがありますが、他の動物とつながりを持ちたいという生まれながらの欲求が人には備わっているのです。私自身はアロワナを飼いたいと思ったことはありませんが、野生のアロワナを探しに行きたいという思いにすっかりとらわれてしまいました。そこから私の人生の数年間が完全にとらわれてしまい、15カ国を旅してアロワナを追い求めることとなります。この欲求は、観賞魚を飼いたいと願う気持ちと根本的には同じなのだと思います。それは、野生とつながりを持ちたいという欲求なのです。

――そこへ、この本の中で最も個性的な人物「ケニー・ザ・フィッシュ」が登場するわけですが、彼は一体何者なのでしょうか。

 ケニー・ヤップ氏、通称「ケニー・ザ・フィッシュ」は、アジア最大級の観賞魚養殖場を経営しており、大事な部分を魚で隠したヌード写真を撮ることで、シンガポールで物議をかもしている人物です。

自分の所有する人工池で泳ぐケニー・「ザ・フィッシュ」・ヤップ氏。著者エミリー・ボイト氏によると、ヤップ氏は「アジアにおける華やかな観賞魚界の中心的人物」だという。(COURTESY OF QIAN HU CORPORATION)
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 観賞魚産業に挑発的なイメージチェンジをもたらしたことで注目を集め、彼を支持するファンも多いです。観賞魚取引の闇の部分を色々と話に聞いていたので、この地域で横行している魚の窃盗に関してヤップ氏に尋ねたところ、「何の話ですか?魚を盗むなど、簡単なことではありませんよ。宝石を盗むのとはわけが違います」という答えが返ってきました。

――旅はやがて、ボルネオにすむという伝説のアロワナ「スーパーレッド」へと焦点が絞られていきます。人里離れたインドネシアのセンタラム湖まで、どのようにしてたどり着いたのでしょうか。

 アジアで6週間、魚の世界にどっぷりとつかった後、自分の結婚式を控えていたのにも関わらず、帰国のフライトをキャンセルして、ボルネオ島の奥深くにいるというこの魚にどうしても会いたくなってしまいました。ところがそこへ行くまでに、魚マフィア、イスラムのテロリスト、それに湖沼地帯に住む首狩りの伝統を持つイバン族など恐ろしい人々に遭遇する危険があると警告されました。(参考記事:「ボルネオ島の貴重なカルストに迫る中国企業」

 魚については知識も経験もありませんでしたが、幸いなことに熱帯魚界のインディ・ジョーンズとして知られるハイコ・ブレア氏に案内してもらうことができました。

「熱帯魚界のインディ・ジョーンズ」として知られるハイコ・ブレア氏は、新種の魚を求めて世界中を飛び回っている。(PHOTOGRAPH BY EMILY VOIGT)
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 やっとのことでセンタラムへ到着してみると、ちょうど季節的に湖の水位が下がっていて、ボートでこぎ出すには深さが足りず、かといって歩いて入るには深すぎるという状況でした。不幸なことに最悪の時期だったのです。

――飛行機、ジープ、カヌーに乗ってアロワナを追い、15カ国を旅してきた中で、最高の瞬間、そして最低の瞬間はどんな時でしたか。

 旅の間、一度も楽しいと思ったことはありませんでした。心が痛むことばかりでした。最も惨めな思いをしたのは、ミャンマーでアロワナを追いながら、内戦で立入禁止となった区域へ忍び込まなければならなかった時でした。喉から心臓が飛び出すかと思うほど怖い思いをしました。逆に大きな感動を覚えたのは、何といってもアマゾンの熱帯雨林へ入った時のことです。南米を訪れるのは初めてでしたが、文明から遠ざかって森林の中で何日も過ごしました。アマゾン盆地は、米国本土と同じ広さです。とても大きな川だと頭で理解はしていても、実際に現地へ行き、その支流のひとつに入ろうとすれば、誰もがきっと圧倒されることでしょう。

インドネシアのスシロ・バンバン・ユドヨノ元大統領は、このアロワナに2億ルピア(約162万円)を支払った。写真は、ジャカルタの展覧会で展示された時のもの。(PHOTOGRAPH BY ADEK BERRY, AFP/GETTY IMAGES)
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文=Simon Worrall/訳=ルーバー荒井ハンナ

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