オスが出産、タツノオトシゴの健気な愛の営み

夫婦は毎朝愛を深め一生を添い遂げる、オスが子どもを産む唯一の動物

2016.06.30
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ダンスをするラインドシーホース(Hippocampus erectus)の夫婦(Photograph by George Grall, National Geographic Creative)
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 タツノオトシゴの恋愛の秘訣をご存知だろうか。この幻想的な魚の毎朝の日課は、多くの人間の夫婦にとっても参考になるかもしれない。

毎朝夫婦でダンス

 夫婦の愛を深めるために、「タツノオトシゴのオスとメスは毎朝一緒に何度もダンスをします」とアマンダ・ビンセント氏は話す。ビンセント氏はカナダ、ブリティッシュコロンビア大学の海洋生物学者で、タツノオトシゴを保護するグループであるプロジェクト・シーホース創立者の1人だ。

 タツノオトシゴの夫婦は踊りながら色を変え、ときに尾をからませる。米フロリダ自然史博物館のジョージ・バージェス氏によると、体を固定するためにタツノオトシゴは尾を巻きつけて海草などをつかむという。人間の赤ちゃんが大人の指をつかむような感じらしい。

子育てはオスの役目

 このダンスによって、お互いの生殖能力も判断する。タツノオトシゴはヨウジウオと同じ科に属し、どちらも「オスが子どもを産むという繁殖戦略」を取るとバージェス氏は話す。(参考記事:「ヨウジウオ、魅力のないメスの子を流産」

 ビンセント氏は、「メスの胴体の下から突き出たペニスのような」産卵管を「独創的な梱包装置」と表現する。この産卵管を使って、メスは洋ナシのような形の卵をオスの育児嚢(いくじのう)の中に産みつける。育児嚢の中にはひだがあるため、表面積は見かけよりずっと広く、すべての稚魚を柔らかい組織で抱き込める。(参考記事:「ハイエナの雌に「ペニス」、雌雄どう判別?」

 ビンセント氏は「育児嚢の大きさが大さじ半分ぐらいしかない」細身のオスから1572匹の稚魚が産まれたことを確認している。(参考記事:「一気に2000匹!タツノオトシゴのオスの出産シーン」

2000匹の稚魚を産むタツノオトシゴのオス

 オスが自由に動き回る小さな稚魚を出産するころには、メスは「次の卵を準備」しており、すぐにまた交尾を行う。

 身ごもるオスは「子どもたちの父親が自分であることを当然わかっています」とビンセント氏。オスがここまで熱心なのはそのためかもしれない。(参考記事:「レア、動物界のベストファーザー」

オスの育児嚢から飛び出してくるタツノオトシゴの稚魚(Photograph by George Grall, National Geographic Creative)
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タツノオトシゴを守れ

 現在知られているタツノオトシゴは40種ほど。その大きさや外見はさまざまだ。もっとも小さいデニスピグミーシーホース(Hippocampu denise)のサイズは2センチほど。こぶだらけのオレンジ色の体は西太平洋のサンゴにカムフラージュするにはもってこいで、変装の名人というタツノオトシゴの評判を見事に証明している。

インドネシアの西パプアで撮影された世界最小のタツノオトシゴ、デニスピグミーシーホース(Hippocampu denise)(Photograph by Waterframe, Alamy)
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 オーストラリアとニュージーランド近郊に生息するビッグベリーシーホース(Hippocampus abdominalis)は大型の種で、体長は30センチを超える。

 野生のタツノオトシゴの寿命は1年から5年ほどだ。しかし残念なことに、この神秘的な生き物の数は減ってきている。

 多くのタツノオトシゴが暮らす海草が茂る海域は、「文明から目と鼻の先」(バージェス氏)にあるため、汚染や堆積の影響を受けやすい。

 バージェス氏は、ラインドシーホース(Hippocampus erectus)と呼ばれるタツノオトシゴが生息するフロリダ半島周辺で、「世界有数の美しさを誇る海と、そこで暮らす生き物たちが消滅しつつあるのを見てきました」と言う。

 ビンセント氏によると、タツノオトシゴの生息数減少の大きな要因になっているのは、伝統薬のための乱獲、水族館やペットのための捕獲、エビのトロール漁による混獲などだ。

 野生のタツノオトシゴを目撃するという幸運に恵まれた方は、iSeahorse.orgにご報告いただきたい。この神秘的な魚の状況を科学者たちが把握することに貢献できる。

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文=Liz Langley/訳=鈴木和博

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