タイガー・テンプルの強制捜査で発見された、瓶詰めにされた子トラの死骸。(Photograph by Molly Ferrill)
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 疑惑のトラ観光寺院「タイガー・テンプル」から、トラが姿を消そうとしている。

 タイ・バンコクから北西へ3時間の距離にあるこの寺院では、15年前から動物虐待と違法取引を指摘する声が上がっていたが、5月30日、タイ当局はついに強制捜査に着手、寺院にいる計137頭のトラの移送を進めている。

 タイガー・テンプルは、トラと触れ合える施設として世界的に有名になった。ここを訪れた観光客は、トラに餌をやり、水浴びをさせ、紐をつけて散歩をさせて、その様子を写真に収めることができた。同寺院はこの事業により、年間およそ300万ドル(およそ3.2億円)の収入を得ていたとみられる。

 しかし保護団体や同寺院の元職員は以前から、トラが不自由な囲いに閉じ込められ、十分な餌をもらえずに虐待されているとの声を上げていた。トラの違法取引が行われているとの指摘もあったが、同寺院の僧らはこうした疑惑を否定してきた。ナショナル ジオグラフィックでも、寺院のトラが3頭殺されたという内部からの告発に関する記事を掲載した。(参考記事:「消えた3頭のトラ、タイガー・テンプルの闇取引」

冷凍庫から40頭の子トラ

 5月30日、タイの国立公園・野生動物・植物保全局(以下、野生動物局)は、500人態勢でトラの移送を開始した。6月1日、寺院に放たれていた6頭のトラに鎮静剤を投与して運び出した当局者らは、その後、あるボランティアからの情報を元に施設内を調べていたが、そこで驚くべきものを発見した。業務用の冷凍庫から、40頭の子トラの凍結した死骸が出てきたのだ。トラは生後1~7日程度の大きさだと、野生動物局の副局長アディソン・ヌッチタムローン氏は言う。

 同局の動物保護部門の責任者、トゥエンジャイ・ヌッチタムローン氏によると、トラの誕生と死亡は政府への届出が義務付けられているが、タイガー・テンプルでは何カ月もの間、子トラは目撃されておらず、報告も出されていなかったという。同寺院ではまた、秘密裏に違法なトラの繁殖が行われていた。(参考記事:「【動画】野生復帰したトラに子ども、初めて確認」

子トラは観光客に人気が高い。2015年12月に公表された報告書は、同寺院がトラを「スピード繁殖」させていると告発した。(Photograph by Steve WInter, National Geographic Creative)
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 6月2日、この寺院の院長秘書を務めていたジャクリット・アピスティパンサクール氏が、2頭分のトラの皮、トラの歯10本、トラの皮の小片を入れた御守りを大量に積み込んだ車で寺院を出ようとしたところを逮捕された。またロイターは、絶滅危惧種の動物を材料に用いた違法な製品を所持していた僧2人、信者2人が、共犯者として身柄を拘束されたと報じている。当局は3日までに、野生動物の違法取引で5人を告発した。

 おそらくはこの先、同寺院でのトラの扱いについての批判が改めて噴出し、政府がもっと早くトラの保護に乗り出さなかったことに対する保護団体からの抗議も激しさを増すだろう。トラは寺院で飼育されてはいたものの、法的には政府の所有物だ。当局が寺院にトラがいることを把握した2001年の時点で、寺院は適切な飼育許可を得ていなかった。

 寺院を閉鎖してトラを保護するよう求める声は日増しに高まっていたが、これはそう簡単なことではなかった。タイガー・テンプルが人気の観光施設だったほか、熱心な仏教国であるタイでは寺院への介入は慎重を要する問題だからだ。

 野生動物局のアディソン氏によると、寺院の僧らは当局の捜査に対する妨害を行っているという。当初の計画では、一晩に30~40頭ずつをまとめて保護し、すべてのトラを政府の施設に移送することになっていた。ところが5月30日、寺院職員らが、観光客がまだ残っているエリアに数十頭のトラを放ったため、この日保護できたのは8頭に留まった。

 けが人は出なかったものの、トラを放して役人を故意に傷つけようと画策し、一般市民を危険にさらしたとして、野生動物局は寺院を提訴した。寺院職員は施設内の他の場所でもトラを放って当局の捜査を妨害したが、2日の時点で、102頭のトラの政府施設への移送が完了している。

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