【動画】アマゾンの孤立部族を保護へ、ブラジル政府

先住民が暮らす密林が、違法伐採などで危険な無法地帯となっている

2016.05.27
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2013年に公開されたこの映像(英語)には、アマゾンの密林で外部との接触を避けて暮らす先住民、カワヒバの人々の姿が収められている。

 アマゾンの熱帯雨林でも特に危険な地域に暮らす孤立部族を保護するため、ブラジル政府は中西部の広大な土地を「カワヒバ・ド・ヒオ・パルド先住民居住区」に指定する大統領令を発令した。

 今後、居住区に物理的な境界を設ける地道な作業が待っているが、先住民の権利保護に取り組む活動家たちはこの決定を歓迎している。カワヒバの人々は狩猟採集民で、数十年もの間、木材や鉱物資源を狙う侵入者たちから逃げるようにして森の中で暮らしてきた。(参考記事:「森林伐採の危機、アマゾン孤立部族」

大統領が職務停止前に署名

 今回発令された大統領令は、これだけではない。悪化する経済危機と汚職問題で職務停止処分が決定したばかりのジルマ・ルセフ大統領とユージニオ・アラゴー法務大臣は、職務停止の前にできるだけ多くの先住民居住区を指定するため、11の大統領令にあわただしく署名した。その中で、ブラジルの現代社会とまったく接触することなく孤立を続ける部族が住む地域は、カワヒバだけである。

「これで、カワヒバに希望が出てきました」と語るのは、先住民の権利保護に取り組む団体「サバイバル・インターナショナル」のキャンペーン・ディレクター、フィオナ・ワトソン氏だ。同団体は、先住民が住む土地を森林伐採やその他の外部業者から保護するよう政府へ働きかけている。「重要な一歩です。もう後戻りすることはないでしょう」

ブラジルは孤立部族が世界最多

 ブラジルは、外部との接触がまったくない孤立部族が世界で最も多い国だ。彼らの保護を担当する政府の孤立先住民局は、ブラジルの広大なアマゾン地域に27の孤立部族が存在することを確認しており、ほかにも数十はいると推測している。ブラジルに次いで孤立部族が多いのはペルーで、14~15の部族が確認されている。(参考記事:「非接触部族」マシコ・ピロ族、頻繁に出没の謎

 アマゾン中央部マト・グロッソ州北西端に位置するカワヒバには、推定25~50人が暮らしているが、長年にわたる外部との衝突や、侵入者を避けて常に移動を強いられる厳しい生活環境により、その数は減少しているとみられる。居住区の境界線を決定するために裁判所が命じた人類学的な調査によれば、彼らは小さな家族集団を作って、4120平方キロの密林を定住することなく移動し続けているという。

緑色の線で囲まれた地域が、カワヒバ・ド・ヒオ・パルド先住民居住区。(CHARLES PREPPERNAU, NG MAPS. SOURCES: ESRI; IUCN AND UNEP-WCMC 2015, WDPA; HANSEN/UMD/GOOGLE/USGS/NASA)
[画像のクリックで拡大表示]

 これほど広大な土地をわずか数十人のために居住区として指定することには、反対意見も多い。地元業者は、この決定の撤回や居住区の範囲縮小を求めると主張しているが、ブラジルの憲法には、先住民が境界線内で伝統的生活を維持する権利をもつことが明記されている。(参考記事:「アマゾンの闘う先住民 カヤポ」

 職務停止の直前にいくつもの大統領令に署名したルセフ大統領だが、1985年に軍事独裁政権が崩壊して以降、承認した先住民居住区の数はどの大統領よりも少ない。ブラジル議会では、強い影響力をもつ農業団体のロビー活動によって、先住民の土地と文化の保護政策を転換させようとする動きが高まっており、保護活動家は危機感を抱いている。

無法地帯と化した森林

 違法伐採や公有地の無断利用が蔓延し、熱帯雨林や先住民を保護する政府への不満が拡大して、カワヒバはブラジル国内で最も危険な無法地帯と化している。政府関係者によると、周辺の森林で貴重な硬木をほぼ伐採し尽くした業者が、カワヒバの豊富な森林に目を付け始めているという。

「カワヒバへの侵入行為が頻繁に起こるようになっています。侵入者は強引で何者も恐れず、やりたい放題です」と、国立先住民保護財団(FUNAI)で顧問を務めるエリアス・ビジオ氏は話す。

 FUNAIの孤立先住民局の元局長でもあるビジオ氏によれば、法務省の今回の決定によって侵入行為はさらに激しさを増し、報復のおそれもあるため、カワヒバの監視や保護の担当者は万一に備えて警戒を強めているという。

「侵入行為が増えるであろうことは承知しています」とビジオ氏は話す。「カワヒバの人々やFUNAIへ対する報復もあるかもしれません。伐採業者は、先住民居住区の指定が自分たちにとって甚大な損失になると感じているのです」

 政府が警戒を強める一方、伐採業者も監視の目をくぐり抜けてカワヒバに不法侵入し、新たな方法を使って貴重な木材を運び出そうとしている。小道をたどって徒歩かオートバイで森林へ入り、マホガニーやブラジルナッツノキといった貴重な硬木を切り倒す。そして最後の最後に重機を投入して、木材の運搬路を造るのだ。(参考記事:「失われる“赤い黄金” マホガニーの森」

「彼らは目立たないように、うっそうとした林冠の下に小さな空き地を造り、そこに木材を集めるのです」。ブラジル環境・再生可能天然資源院(IBAMA)でマト・グロッソ州北西部を担当するエバンドロ・セルバ氏は説明する。「木材を運び出す準備が整ったら、トラクターを使ってトラックが通れる道を造ります。あっという間のことです」。IBAMAの職員が到着する頃には、木材もろとも姿を消している。

減らない違法伐採

 カワヒバの先住民居住区の一部は、マト・グロッソ州でも特に森林破壊が深刻な地域であるコルニザと重なっている。ペドロ・タキース州知事は、2015年にパリで行われた国連気候変動会議で各国代表を前に、マト・グロッソ州での伐採と開墾の92%が違法だと訴えた。ブラジル全体では森林伐採が近年になって大幅に減っているが、マト・グロッソ州ではその流れに逆らうように、2015年も違法な伐採や開墾が減ることはなかった。タキース州知事は、2020年までに違法伐採を完全になくすと明言している。(参考記事:「消えゆくアマゾンの森」

 ほかにも、公有地の森林を無断で更地にして偽の権利書を作成し、土地を売り飛ばすといった違法業者も暗躍している。FUNAIのビジオ氏のチームは、カワヒバの居住区へ15キロほど入り込んだ道の先に、測量の旗が整地目的で立てられている区画を発見した。

先住民の小屋を発見

 カワヒバ居住区を長年パトロールしてきたFUNAIの少数チームがいる。彼らは侵入者に常に目を光らせ、移動を続ける先住民の健康状態を確かめ、接触しないように注意しながら彼らの存在を記録し続けている。2015年6月、チームはカワヒバの狩人たちが造った簡素な差し掛け小屋を発見した。(参考記事:「接触」の定義、アマゾン未接触部族

 現場責任者のジャイール・カンドー氏が居住区内のFUNAIの連絡所からインターネット電話で報告したところによれば、先住民たちはチームの到着直前に逃げていったという。わずかな持ち物だけが残され、たき火の跡はまだくすぶっていた。小屋には10人ほどがいたのではないかと、カンドー氏は推測している。「内部はきれいに片づけられていました。すぐ近くにいて、私たちのことを見ていたに違いありません」(参考記事:「バナナを栽培、アマゾン孤立部族」

 この発見で先住民たちが無事に生活している様子がわかったのは喜ばしいが、その後部隊はわずか10キロほどしか離れていない場所で、広範囲にわたって木が伐採されている区画を発見した。違法業者の作業現場だ。IBAMAの協力を得て伐採行為は差し止められ、業者は追放された。「何とか追い出すことはできましたが、IBAMAや警察が常駐していなければ、またいつでも戻ってくるおそれはあります」と、カンドー氏は語る。

 カンドー氏は5年前、森の中で木の陰に隠れ、目の前を通り過ぎるカワヒバの狩人たちの映像を撮影した。2013年に孤立先住民局がこの映像を公開すると、地元政治家たちは、居住区の開発を禁止するためにFUNAIが先住民を使ってやらせ映像を作ったと批判した。

 政府関係者によれば、カワヒバ・ド・ヒオ・パルド先住民居住区を囲む329キロの境界線を設けるのに数カ月かかるという。行政手続きの遅れや政治論争によって泥沼にはまるおそれもあり、そうなればこの土地と先住民は命の危険すら伴う侵入行為に、今後もさらされ続けることになる。(参考記事:「石油開発に揺れる熱帯雨林」

【2016年6月号特集】ペルー 先住民たちの豊かな森へ

文=Scott Wallace/訳=ルーバー荒井ハンナ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加