北極温暖化でシギが小型化、南半球でも生存不利に

温暖化で絶滅リスクが高まる新たな事例、小型化は温暖化への適応と限らず

2016.05.17
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コオバシギ(Calidris canutus)の全長25センチほどだが、近年、気候変動により小型化が進んでいる。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)
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 浜辺に暮らすコオバシギは、毎年北極付近から南半球へ渡ってはまた戻ってくるタフな渡り鳥だ。しかしこの数十年は、生存の危機に瀕している。カニの卵などの主要な餌が、移動ルート沿いの餌場で減少しているのだ。(参考記事:「カブトガニの卵を食べるコオバシギ」

 この状況に警鐘を鳴らす国際研究チームの発見が5月13日付けの科学誌「サイエンス」に掲載された。それによると、全長25センチ程度のこの渡り鳥が絶滅に近づくペースは、気候変動の影響で早まっているかもしれないという。(参考記事:「渡り鳥 最後のさえずり」

 米ボストン近郊にあるタフツ大学の保全生物学者で、鳥類が専門のマイケル・リード氏は、「これまで考えられていたよりも、状況は厳しいものでした」と懸念する。「コオバシギはすでに絶滅の危険が高い種に分類されていますが、そのリスクは気候変動でさらに高まるでしょう」

 コオバシギは北極に近い高緯度地域で繁殖する。だが研究によれば、ふ化したひなの栄養状態が温暖化のせいで悪化し、体格やくちばしの小型化を引き起こしているという。こうした変化により、はるか南にある越冬地での生存率も低下しているという。

 オランダ、テセル島にあるオランダ王立海洋研究所の上級科学者で、研究チームを主導したヤン・バン・ギルス氏は、この研究成果について「追い詰められた種についての警鐘」だと話す。

「防ぐことのできない絶滅が我々を待ち受けているという、初の警告なのかもしれません」

 米国魚類野生生物局は2015年、絶滅危惧種法(ESA)に基づき、コオバシギのうち北米に生息する亜種(Calidris canutus rufa)を「生存を脅かされている種」(Threatened)に指定した。この種は南米のティエラ・デル・フエゴを越冬地としているが、そこへ向かう途中の主要な餌場であるデラウェア湾でカブトガニの卵が減少しているためだ。コオバシギの個体数が1980年以降75%も減少した地域さえある。(参考記事:「米国の鳥類、深刻な生息状況」

「小型化は温暖化に有利」ではなかった

 今回の研究では、ロシア北部で営巣し、西アフリカ、モーリタニアの熱帯の海辺で越冬するコオバシギの亜種(Calidris canutus canutus)が調査対象となった。研究チームは30年分以上の衛星画像を分析し、雪解けの状況とコオバシギのひなの成長に相関関係が見られるかどうか探った。

 すると、北極に近いコオバシギの繁殖地では、年に0.5日というペースで雪解けが早まっていることが分かった。現在、雪解けは33年前に比べて2週間早い。この変化が、コオバシギにとって不幸なめぐり合わせを引き起こしている。つまり、植物の開花が早まり、その植物を食べる昆虫の出現も早まる。そして、その昆虫を食べるコオバシギのひながふ化したころには時すでに遅く、昆虫の数はピークを過ぎているのだ。

 その結果、コオバシギの幼鳥は体が小さく、くちばしも短くなってしまった。その状態で越冬地に渡っても、体の大きな個体のように、水辺の砂に深くくちばしを刺して二枚貝やイガイを捕るのが難しく、不可欠のタンパク質をなかなか摂取できない。やむを得ず、彼らは海草をこれまでより多く食べるようになっている。(参考記事:「急激な温暖化に適応するヒメウミスズメ」

熱帯の越冬地で、深くもぐった二枚貝を長いくちばしで捕るコオバシギ。くちばしが短くなると、このような餌の捕り方ができなくなる。(PHOTOGRAPH BY JAN VAN DE KAM)
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 小型化したコオバシギの幼鳥の生存率は、体の大きな個体の半分だとバン・ギルス氏は話す。

 小さな鳥の方が体の熱を放散しやすいことから、最近まで体の小型化は気候変動への適応だろうと考えられてきた。(参考記事:「温暖化を味方にする動物は?」

「小型の動物の方が温暖化にうまく対応できるとされてきましたが」とバン・ギルス氏。「我々の研究では、小型化したほうが生存が難しくなっていた、という逆の結果になりました」

月にも行ける「ムーン・バード」

 米ノースカロライナ州ダラムにあるデューク大学の鳥類研究者、スチュアート・ピム氏は、長距離を移動する渡り鳥は、夏も冬も、また移動中も常に危険と隣り合わせだと話す。特にコオバシギの移動距離は、動物界でも有数の長さを誇る。

 近年、コオバシギは「ムーン・バード」として知られるようになった。南北アメリカでの移動ルートを18年以上にわたって記録された「B95」という番号が振られた個体のおかげだ。B95が飛んだ距離は推定51万5千キロに達し、月まで行った上に、帰り道の中間点まで戻ってきた距離に相当する。

 餌の捕り方も特徴的だ。コオバシギはほとんどノンストップで飛び続ける。多くの場合、飛び立ってから全行程の少なくとも半分に達するまで休まない。ようやく地面に降り立つと、次の出発までに、体がパンパンに膨れるほど大量の餌を平らげる。(参考記事:「小鳥が自ら腸を吸収し3日間飛び続けることが判明」

コオバシギとオオハシシギの群れ。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL S. QUINTON, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 コオバシギが生き残るためには、北極付近に早く戻り、昆虫が最も多い時期に捕食できるようになって、体格を保つ必要があるようだ。バン・ギルス氏によれば、一部には北上を早めている種もあるものの、状況が改善するほど早まってはいないという。

「熱帯から北方へ早く戻る集団が最もうまく適応できています」とバン・ギルス氏は話す。「しかし、越冬地と繁殖地はあまりに遠く、北極圏の夏の訪れが早いと予想することは、彼らには不可能です」

 コオバシギという種全体でも、北上を早めるという形での進化は難しそうだ。彼らは北の営巣地へ帰るタイミングを、地球全体の温度上昇ではなく日照時間の変化で判断しているからだ。

 タフツ大学の鳥類研究者であるリード氏は、生物の進化がそう単純ではない明らかな例として、競走馬の交配を挙げた。

「人は最高、最速の馬を生み出そうと、莫大な費用をつぎ込んでいます。ですがケンタッキー・ダービーの優勝タイムを過去40年分見ても、馬は速くなっていません。彼らには無理なのです」とリード氏。「コオバシギについても、早く北へ戻れるように進化しなければならないという要請がどんなに強くとも、そうなるような遺伝子の変異が起きない限り、やはり無理なのです」

文=Laura Parker/訳=高野夏美

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