【解説】ホーキング博士らの超高速宇宙探査計画

アルファ・ケンタウリってどんな星?着いたら何をする?などなどやさしく解説

2016.04.18
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アルファ・ケンタウリは、南半球からよく見える青みがかった明るい星で、地球から約4光年のところにある。(PHOTOGRAPH BY ESO)
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 シリコンバレーで活躍する億万長者のロシア人が、理論物理学者のスティーブン・ホーキング博士をはじめとする友人たちと協力して、地球から最も近い恒星へ超小型の宇宙船を飛ばそうとしている。4月12日、起業家のユーリ・ミルナー氏らが発表したその「ブレイクスルー・スターショット(Breakthrough Starshot)」というプロジェクトがそれだ。この夢のある冒険については、知りたいことがいろいろあるのではないだろうか。そこで、基本的な内容をQ&A形式で解説してみたい。(参考記事:「ブラックホールは存在しない? ホーキング氏が新説」

――ブレイクスルー・スターショットとはどんな計画?

 目標は、切手サイズの超軽量宇宙船「ナノクラフト」を、地球に最も近い恒星系であるアルファ・ケンタウリに送り込むことだ。この宇宙船は「スターチップ(StarChip)」と名付けられ、カメラ、推進システム、ナビゲーション・通信機器が搭載される。シリコンバレーは、こういうものを小さく作って、チップの上に組み込むのが得意だ。宇宙空間に放出された宇宙船は、化学燃料を燃やすのではなく、レーザー推進によってアルファ・ケンタウリをめざす。

――ちょっと待って。レーザー推進って?

 恒星から恒星までの距離は非常に長く、恒星間航行を実現するにはどのような形でも光速の数分の1程度まで宇宙船を加速する必要がある。スターショット計画では、スターチップに1辺が1メートルほどの極薄の帆を取り付け、地上からこの帆に向かってレーザーを照射することにより、光速の20%の速度を実現しようとしている。似たようなものに、太陽から放出される光子を受けて穏やかに加速していくソーラーセイル(太陽帆)があるが、スターショット計画では、地上に建設したレーザーアレイから1000億ワットのレーザーを照射して強力に推進するという。(参考記事:「NASAがソーラーセイル探査機、広がる可能性」

参考動画:レーザー推進のイメージCGアニメーション

 光速の20%と言えば途方もない速さだが、それでもアルファ・ケンタウリに到達するには約20年かかる。宇宙船は、アルファ・ケンタウリの横を猛スピードで通過しながらスナップ写真を撮影し、地球に送信することになる。

――途中でなにかに衝突したらどうなる?

 光速の20%という猛スピードで飛行するナノ宇宙船は、ごく小さな塵の粒子に衝突しただけでも、いろいろ困ったことになる可能性がある。最悪の場合、完全に壊れてしまうかもしれない。とはいえ宇宙空間にはほとんど何もないので、プロジェクトチームは衝突の可能性は低いと考えている。(参考記事:「「光速の10%でそっとくっつける」超重元素合成」

――よかった!それで、最初の画像はいつ見られるの?

 明言するのは難しい。打ち上げは20年後あたりになるだろう。現時点では、このプロジェクトに真剣に取り組むことが決まったにすぎない。スターショット計画は1億ドルを投資したギャンブルのようなもの。追加の資金がなければそこで終わりになってしまう。最終的にスターチップのような宇宙船を打ち上げる際には、数10億ドル規模の費用がかかることになる。

――アルファ・ケンタウリを訪れるためだけに、これほどの投資を行うのはなぜ?

 アルファ・ケンタウリへの挑戦は、恒星間航行という壮大なビジョンの最初の一歩にすぎない。4.37光年(約41.3兆km)の彼方にあるこの星は、宇宙的視野では地球の「すぐ隣」にあるのだ。

 正確には、アルファ・ケンタウリは、大きい順にA星、B星、プロキシマと呼ばれる3個の恒星からなる三重星系なので、見るべきものはたくさんある。このうち、小さく、薄暗く、赤みを帯びたプロキシマは、地球からの距離が4.24光年で実は少しだけ手前にある。A星とB星はお互いのまわりを約80年に一度のペースで周回していて、太陽に似ているため、科学的にはプロキシマよりも興味深い。

――アルファ・ケンタウリに惑星はある?

 あるかもしれない。2012年には、科学者チームが、アルファ・ケンタウリB星のまわりを周回する岩石惑星を発見したと発表している。B星の運動を詳しく観測したところ規則的なふらつきがあり、惑星の重力に引っ張られていると思われるというのが、その根拠であった。残念ながら、その後の観測でB星のふらつきは確認されていない。(参考記事:「最も近い恒星系に地球大の惑星を発見」「太陽系から最も近い太陽系外惑星が消えた!」

――アルファ・ケンタウリは肉眼でも見える?

 南半球からはよく見える。肉眼では、美しい南十字星の隣に、1個の青みがかった明るい星として見える。アルファ・ケンタウリは全天で3番目に明るい星で、ケンタウルス座の一部である。北半球では地平線すれすれの高度になるので見るのは難しいが、時刻と位置が正確に分かっていれば、テキサス州南部からでも見ることができる(日本でも沖縄では見える)。

――アルファ・ケンタウリは写真にはどのように写るの?

 スターショット計画のチームは、まだ仕事を与えられたばかりだ。スターチップは、地球から太陽までわずか1時間で行けるような猛スピードで宇宙空間を駆け抜けることになる。そこからアルファ・ケンタウリを撮影したとしても、現状の技術では、大きくて明るいしみにしかならない可能性がある。プロジェクトチームは、高速撮像が可能な光学カメラの開発を計画しているが、それが実現できなければ、宇宙船はすばらしいピンボケ絵はがきを送ってよこすことになるだろう。待ち時間も長い。写真のデータを光速より速く送ることはできないため、地球に到達するのに4年以上かかる。

――それは残念。ところで、宇宙空間にレーザーアレイを配置すれば、もっと簡単になるのでは?

 実は、数十年前に最初に提唱されたレーザー推進システムは宇宙空間に配置するものだった。物理学者でSF小説家でもあったロバート・フォワード氏は、当時、宇宙空間にレーザーアレイを設置して宇宙船を加速する方法を研究していた。地球の大気は光を吸収するため、地上に設置したレーザーアレイはあまり効率がよくないからだ。

 けれども、スターショット計画のレーザーアレイは地上に設置される予定だ。地球周回軌道上に1000億ワット級のレーザーを打ち上げるには莫大な費用が必要になるだけでなく、政治的な問題に発展するおそれがある。「補償光学」の発達も理由の1つだ。これは大気のゆらぎによる像の歪みを補正する技術で、すでに天文学者によって広く利用されている。この技術を利用すれば、地球の大気の影響を最小限に抑えることができる。スターショット計画では、レーザーの力を最も高めるために、チリのアタカマ砂漠のように海抜が高く乾燥した場所にレーザーアレイを設置することも検討している。(参考記事:「世界最高の性能を誇るすばる望遠鏡」

――こうした新技術は、もっと身近な宇宙探査にも役立つ?

 そうかもしれない! 成功すれば、同じようなナノ宇宙船を土星の衛星エンケラドスや冥王星に送り込めるだろう。2015年にNASAの探査機「ニューホライズンズ」がほぼ10年がかりで到達した冥王星には、光速の20%で飛行する宇宙船なら1~3日で行ける。(参考記事:「土星探査機カッシーニ、エンケラドスの間欠泉に突入」

文=Nadia Drake/訳=三枝小夜子

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