リスを殺すプレーリードッグは繁栄、米研究

競合相手を殺した個体は、子の生存率が高まる

2016.03.28
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殺したばかりのワイオミングジリス(Urocitellus elegans)をくわえるオジロプレーリードッグ(Cynomys leucurus)。(PHOTOGRAPH BY JOHN HOOGLAND)
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 米国西部のやせた土地でジリス(地上で生活するリス)が殺された。犯人は、あどけない顔をしたプレーリードッグだった。(参考記事:「都会のプレーリードッグ」

 オジロプレーリードッグ(Cynomys leucurus)は、米国コロラド州、ワイオミング州、ユタ州、モンタナ州に生息する社会性のげっ歯類だ。このプレーリードッグがワイオミングジリス(Urocitellus elegans)をかみ殺し、血まみれの死体を放置することが、新たな研究によって明らかになった。

 ジリスを殺したことのあるプレーリードッグの子は、殺したことのない個体の子よりも健康で長生きした。おそらく、餌をめぐって競争関係にあるジリスを両親が排除したからだと考えられる。

 草食性のほ乳類が競争相手を殺す場合があることは以前から知られていたが、その死体を食べずに放置することが確認されたのは今回が初めてだ。

 この論文の執筆者の1人である米メリーランド大学環境科学センターのジョン・フーグランド氏は、「43年におよぶ私の研究生活において、最も刺激的で、不可思議で、今後に大きな影響を与える発見かもしれません」と言う。「この結果にあぜんとしています」

事件発生

 殺人事件と同じく、今回の発見のきっかけとなったのは、静かな土地に放置された死体だった。現場は、コロラド州西部のアラパホ国立野生生物保護区内の低木で覆われた一帯だ。フーグランド氏と学生たちは、2003~2012年に、この場所でプレーリードッグの観察に打ち込んでいた。

「毎年4カ月間、私たちはプレーリードッグ漬けの日々を送ります」と、ナショナル ジオグラフィック協会から支援を受けているフーグラント氏は言う。「毎朝早く、プレーリードッグが目を覚ます前にコロニーの近くの観察台に入り、夕方に最後のプレーリードッグが巣穴に入るまで、一日中彼らの行動を観察するのです」

【動画】警戒するプレーリードッグ。危険が迫ったとき、オスたちは自分の身を守るだけだが、メスたちはコロニーを守るために周囲を警戒する。(解説は英語です)

 2007年の調査シーズンに、フーグランド氏はオジロプレーリードッグが若いげっ歯類を攻撃しているのを見つけた。最初は、別のプレーリードッグの子を殺しているのだろうと思った。これはさして意外な行動ではなかった。オジロプレーリードッグでは子殺しはまだ1度も目撃されていないが、他の種類のプレーリードッグではよく見られるからだ。(参考記事:「【動画】衝撃、子グマを食べるホッキョクグマ」

 けれども死体をよく見てみると、オジロプレーリードッグではなくワイオミングジリスだった。ジリスは、プレーリードッグと同じ種類の草やウチワサボテンを食べる。

「私はすぐに無線機を取り出して、学生たちに伝えました。『他にも殺していないか、見張るんだ!』」

ジリス殺しと子孫の繁栄

 それから5年間、フーグランド氏と学生たちは101件のジリス殺しと62件の疑い例を記録した。ほとんどの殺しは、若いジリスが巣穴から出てきて餌探しを始める5月に発生していた。

 ジリスを殺したプレーリードッグは47匹だった。オスもメスもいたが、すべて成体だった。なかでも「最高の殺し屋」とあだ名をつけられたプレーリードッグは4年間の観察期間に9匹のジリスを殺していた。1日に7匹の若いジリスを殺した個体もいた。

 そこで、ジリスを殺したプレーリードッグと殺さなかったプレーリードッグの子の生存率を調べると、不可解な殺りくには理由があるらしいことが明らかになった。ジリスを殺したプレーリードッグの子は、殺さなかった個体の子よりも生存率が高かったのだ。おそらく餌がより多かったためだと考えられる。

 衝撃的だったのは、この殺し行動が、唯一、プレーリードッグの子の生存率向上に貢献しているらしいことだった。「普通はメスの健康状態や寿命といった要因が子の生存率につながるのですが、プレーリードッグにはそれが当てはまらないのです」と、論文の共同執筆者である米タルサ大学のチャールズ・ブラウン氏は語る。「ジリスを殺すことには、非常に大きな利益があるようです」

殺しのための殺し

 3月23日付で『英国王立協会紀要B』に発表されたこの研究は、種間競争(餌などの共通の資源をめぐって異種間で起こる競争)に関するこれまでの理解に一石を投じるものだ。

 種間競争により一方が他方を攻撃し、殺してしまう場合もあることは、以前から知られていた。一部の動物は、食物連鎖の同じレベルにある競争相手を食べる。米ウィスコンシン大学マディソン校のジョン・オロック氏によると、ネズミなどの草食性のほ乳類でも、場合によっては肉、卵、鳥を食べるほか、共食いをすることもあるという。(参考記事:「カバを食べるカバ ――共食いする動物たち」

 しかし、オジロプレーリードッグは殺したジリスを食べない。

 フーグランド氏の説明によると、オジロプレーリードッグはジリスの胸部や脳をかじることがあるが、これは息の根を止めるためにすぎない。ジリスが完全に死んでしまえば、プレーリードッグはその死体を放置し、あとは近くにいる鳥たちが片付ける。

「プレーリードッグは、栄養を摂取するためにジリスを殺すのではなく、殺すために殺すのです」とオロック氏。なお、彼は今回の研究には参加していない。

動機はなおも闇の中

 科学者たちは、プレーリードッグがジリスを殺す現場は押さえたものの、その動機を完全に解明できたわけではない。証拠から明らかになったのは、ジリスを殺したプレーリードッグの子は長生きするということだけだ。

 けれども、ジリスを殺したプレーリードッグは、たまたま植物が豊かな地域に住んでいたため、周囲にジリスが多く、餌をめぐる競争が激しかったのかもしれない。こうした可能性を否定するには、さらなる研究が必要だ。

 今回の研究成果は、プレーリードッグやジリスを含むあらゆる種類の草食動物にとって、種間競争は餌の苦労をもたらすばかりではないことを示している。血が流れる結果になることも少なくないのだ。(参考記事:「ジリスと記念写真、カナダ」

文=Michael Greshko/訳=三枝小夜子

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