アマゾンで「沸騰する川」を発見

伝説か、事実か? 若き研究者が真相を探るため、密林に分け入った。

2016.03.16
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川の水の温度は最高で94℃に達する。沸点には少し届かないが、卵をゆでるには十分で、川に落ちた生き物の命を奪う。(PHOTOGRAPH BY ANDRES RUZO, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 まるで地球の中心から湧き出しているように「沸騰する川」が、そこに落ちた生き物すべての命を奪う…。ナショナル ジオグラフィックが支援する若き研究者アンドレス・ルソ氏は、ペルー人の祖父からこの話を聞かされた。果たして、この話は真実なのか。地球物理学者になった彼は、そうした川の存在を科学によって説明できるかどうか確かめようと決意した。ルソ氏の著書『In The Boiling River: Adventure and Discovery in the Amazon』(沸騰する川:アマゾンでの冒険と発見)には、この謎を解き明かすため、ペルーのジャングルの奥深くに分け入った体験が詳述されている。米国ダラスの自宅から取材に応えてくれた。

――沸騰する川はどこにあるのですか?

 南米ペルー・アマゾンの中央部、低地のジャングルの奥深くにあります。まず、リマから飛行機で約1時間かけて、ペルー・アマゾン中央部で最大の都市プカルパを目指します。プカルパから車で赤土の道を2時間走ると、アマゾン川の支流にあたる幅300メートル超のパチテア川にぶつかります。そこから船外機付きのカヌー「ペケペケ」に乗り換え、30分ほど川をさかのぼれば、沸騰する川の河口に到着です。

プカルパはペルー・アマゾンの物流の中心地。急速な成長によって、沸騰する川を含む生態系が脅威にさらされている。(PHOTOGRAPH BY ADAM LEE, ALAMY)
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 この川が興味深いのは、最初は冷たい流れなのですが、それが急に熱くなり、やがてだんだんと冷めていくことです。水温は27℃程度から、最高でおよそ94℃になります。熱い温泉もいくつかあり、それらが川に注ぎ込むことで、驚くほど高温になるのです。(参考記事:「別府の温泉 「地獄」でゆで卵」

 川は全長がおよそ9キロあり、水が温かいのは下流の6.24キロです。特に乾期は、命を奪うほどの高温になります。小さな哺乳類や爬虫類、両生類が川に落ち、ゆでられてしまうことも珍しくありません。

現地では昔から、沸騰する川にはとてつもなく大きい霊的な力が宿ると伝えられている。写真のシャーマンは蒸気の精のために、「岩やジャングル、そして万物の祈りを創造主にささげる」音楽を奏でている。(PHOTOGRAPH BY ANDRES RUZO, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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――この川の成り立ちに関しては、大きく分けて3つの仮説があったそうですね。3つの内容と、どれが正しかったかを教えてください。

 私はこの川に初めて来たとき、何より自然の現象なのかどうかが気になりました。これほど大規模な地熱系が存在するには、3つの要素が必要です。巨大な熱源、大量の水、そして、地下深部から地表に温水をもたらす経路です。

 1つ目の仮説は火山活動に関係しているというもの、2つ目は火山とは無関係の自然現象だという仮説です。そして3つ目の仮説は、この川は自然の産物ではなく、油田の事故が原因というもので、私はその可能性を本気で恐れていました。この川はペルー・アマゾンで最も古い現役の油田から2~3キロしか離れていません。石油や天然ガスではなく温水しか出なかった採掘地が放棄された可能性もありましたし、石油や天然ガスの採掘で地熱系が破壊された可能性も考えられました。その最悪の例が、インドネシアのジャワ島で起きた泥火山の噴出事故です。4万人以上が移住を余儀なくされ、現在も噴出が続いています。(参考記事:「泥火山の噴出は天災?それとも人災? 泥に埋もれた村」

 しかし、実際は自然の現象でした。火山とは無関係で、地熱によって温められた水が地下深部から極めて速いスピードで上昇してきているのです。

沸騰する川の成り立ちに関して、天然ガスを採掘する企業が誤って地熱系を破壊したという仮説もあった。実際、インドネシアのジャワ島では2007年にそうした事故が起きている。米国ニューヨーク市のセントラル・パークの2倍にあたる範囲が泥流に覆われ、4万人以上が移住を余儀なくされた。(PHOTOGRAPH BY JOHN STANMEYER, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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――「ジャングルにとって最大の脅威は、“先住民”であることを忘れてしまった先住民です」というシャーマンの言葉が、著書で引用されています。この言葉の意味を教えてください。

 アマゾン川流域は米国の面積の90%ほどもあります。多様な文化、言語、民族、動植物がはぐくまれており、問題もさまざまです。ペルー・アマゾン中央部のこの場所では、開発によってジャングルが脅威にさらされています。プカルパはとても大きな都市で、近代化と物流の中心地です。現在も拡大を続けています。そして、大企業は悪、先住民は善、というあまりに単純化された論調が浸透しています。残念ながら、この単純化がペルー・アマゾンの真の問題に対処する障害となっています。(参考記事:「違法伐採めぐりペルー先住民殺害」

 確かに、石油や天然ガスの開発会社のなかには、やり方が強引な会社もあります。しかし同時に、とても信頼できる企業もあります。これは先住民にも言えることです。古い伝統やジャングルの扱い方を忘れ、私利を追求するだけの人々もいます。最近はアマゾン川流域でも、皆がこぞってiPhoneを欲しがり、Facebookを利用しています。

――沸騰する川があるジャングルの保護にとって地元の石油会社の取り組みが重要だ、とも著書に書かれています。これはどういう意味でしょうか?

 沸騰する川の流域をGoogle Earthで見れば、石油・天然ガス会社のメープル・エナジーが保護している場所が唯一残された手つかずのジャングルだとわかるでしょう。こうした会社が環境問題を無視すれば、多額の罰金が科され、利権を失うことすらあります。

 この流域の森林破壊の99%が、高値で売れる大木が目当ての地元住民による伐採です。木を切り倒すと、ジャングルにガソリンをまいて火をつけ、牛の放牧を始めます。もしその場所にガス管があれば、間違いなく大問題になります。企業がジャングルを守るのは自社の利益のためですが、(企業には)心からジャングルを気にかけている人も大勢います。シャーマンたちでさえ、石油会社や天然ガス会社は良き隣人だと言います。(参考記事:「失われる“赤い黄金” マホガニーの森」

ペルーは金の産出量が中南米で最も多い。ペルー・アマゾンの低地にあるマドレ・デ・ディオス県では、金の採掘によって、豊かな熱帯雨林が切り株だらけになってしまった。(PHOTOGRAPH BY MARIO TAMA, GETTY)
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――科学的な探究から始まり、今は流域の保護に取り組んでいますね。活動の詳細を教えてください。また、この場所の未来は明るいと思いますか?

 2人のシャーマンのコミュニティーと連携し、流域の国定記念物への指定とジャングルの再区分を目指しています。現在、この流域のジャングルは法的に開発可能な区域となっているため、森林の伐採を止めることはできません。この区分を見直し、環境に配慮した活動のみを許可するよう求めています。(参考記事:「アマゾンでダムの建設ラッシュ、今後も数百カ所に」

 ここは地質学的にも文化的にも特別な地域です。昔ながらの知恵がこの地域に根づいています。ジャングルで伐採されずに残っているのは、油田やシャーマンによって守られている範囲だけです。その結果、広大なジャングルに分布していた動植物が、この小さなオアシスに身を寄せるようになりました。つまり、この地域は生物学的にも重要な意味をもっているのです。ここはジャングルに残された最後のとりでなのです。

文= Simon Worrall/訳=米井香織

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