ジカ熱52カ国へ、胎児の脳組織を破壊と報告も

ブラジルで641件の小頭症を確認、4222件が調査中

2016.03.10
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ブラジル、レシフェの町ジャルジン・ジョルダン。小頭症の娘アリシ・ビトリアちゃんをあやすジョアオ・バティスタさん。ジカ熱による脳障害を起こしたアリシちゃんは毎日のようにてんかんの発作を起こし、28種類の薬を処方されている。
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 世界保健機関(WHO)の発表によると、ジカウイルス感染症は依然として拡大を続け、3月4日の時点で52カ国に達した。専門家の間では、胎児がかかる小頭症への懸念が高まっている。先天性の異常である小頭症とジカウイルスとの関連性は、これまでも指摘されてきたが、それをさらに裏付ける最新の研究結果も報告されている。(参考記事:「【解説】猛威振るうジカ熱、いま注意すべきこと」

 今のところ、小頭症が大流行しているのはブラジルと仏領ポリネシアだが、WHOの報告では、ジカ熱は既に、南北アメリカ大陸、カリブ、ヨーロッパ、太平洋諸島へまで拡大、コロンビアでも小頭症の新生児が見つかったと報告された。また、妊娠中にジカ熱流行地域へ渡航して感染し、小頭症の症状が確認された女性は、今のところスロベニアで1人、ハワイで1人見つかっている。

 流行が進行するなか、調査は二つの方向へ動いている。小頭症を引き起こしている原因を特定すること、そして感染防止と、感染した患者への支援に対する各国の体制を確認することである。

 ブラジルの保健省によると、国内で昨年ウイルスが発生して以来、641件の小頭症が確認され、合併症により139件の流産と死産も報告されている。ほかにも4222件が調査中で、疑いのあるケースのうち1046件は、小頭症の定義に当てはまらないとして除外された。

【フォトギャラリー】ジカ熱が流行する地域の現状

 3月初めに米ワシントンDCで非公式に開かれたミルケン研究所公衆衛生サミットで、米国疾病予防管理センター(CDC)のトーマス・フリーデン所長は、現在の状況が「大変な異常事態」であると発言した。これまで小頭症の原因として知られていた感染源は、風疹とサイトメガロウイルスの2種だけである。「それ以外で、胎児の深刻な発育不全を引き起こす病原因子は、過去50年以上にわたって発見されていませんでした。ましてや、蚊に刺されただけでこれほどひどい先天異常を持った子どもが生まれるなど、聞いたこともありません」

 米国では今のところ、新生児で異常が見つかったのは1件のみ。そのほか、流産が2件、人工妊娠中絶が2件報告されているが、CDCは今後この数字がますます増えるだろうと予測しており、原因究明を急いでいる。(参考記事:「ジカ熱の流行は中絶に対する考えを変えるのか?」

 CDCジカウイルス対策チームの「妊娠および先天異常グループ」の共同責任者を務める産科医デニス・ジェイミソン氏は、次のように説明している。「小頭症は、頭のサイズが普通よりも小さい状態のことを指すのですが、実際には、それに伴って深刻な脳の発達不全が起こり、組織が破壊され、いわば頭蓋骨の崩壊が起こってしまうのです」。そのため、研究者らは小頭症を様々な先天異常の集まりと考えるようになってきている。

 小頭症の原因は本当にジカ熱なのかという問題に関しては、小頭症児の脳組織からジカウイルスが発見されたという報告がある。「現時点では、ジカ熱が小頭症など妊娠中の異常を引き起こすとはっきり言うことはできませんが、毎日のように関連性を示唆する証拠は集まってきています」と、ジェイミソン氏は言う。

最新の研究結果

 ジカウイルスがどのように妊娠に影響を与え、脳障害を引き起こすのか。その謎に光を当てた2本の科学論文が、3月4日に発表された。米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」誌に発表された論文によると、リオデジャネイロに住む妊娠中の女性88人を調査した結果、ジカ熱の症状を訴え、超音波検査に同意した妊婦のうち29%に「胎児とその中枢神経系の発達に、いくつもの深刻な異常」が見つかったという(一部の妊婦は、超音波撮影に同意しなかったか、あるいは受けることができなかった)。

生後4カ月のアルトゥール・フェレイラ・ダ・コンセイカオ君は、母親が妊娠中にジカ熱に感染し、小頭症で生まれてきた。アルトゥール君の家族は、ブラジル、レシフェの町イブラに住んでいる。
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 感染時期は、妊娠初期だけでなく、あらゆる時期にわたっていた。まだ出産まで達していない女性もいるが、現時点では流産が2件、生きて出産が6件報告されている。新生児にも、まだ生まれていない胎児にも、小頭症だけでなく様々な異常が見られた。脳組織の石灰化、脳の構造異常、目の異常、内反尖足、そして普通よりも体の小さい胎児もいた。

 また、フロリダ州立大学、ジョンズ・ホプキンス大学、エモリー大学の共同チームは、研究室内で様々なヒトの細胞にジカウイルスを感染させた実験の論文を「セル・ステムセル」誌に発表した。ウイルスは、胎児の発達段階で脳の皮質(灰白質)を形成する細胞と似た細胞へ優先的に感染し、破壊している様子が観察された。最高90%の細胞に感染し、3分の1を破壊、残りの細胞の増殖も停滞させていることがわかった。攻撃された細胞には、ウイルスに対する免疫反応が備わっている様子はなかった。論文の著者は、研究はごく初期の段階にあるとしているが、なぜジカウイルスが胎児の脳組織を破壊しようとしているのかを理解するための第一歩になると期待する。

 米国でも、国内での感染拡大を予測して専門家たちが警戒感を強めている。

 「大変憂慮しています」と語るのは、妊娠女性と赤ちゃんを支援する非営利団体「マーチ・オブ・ダイムス」の取締役副会長及び医務部長を務めるエドワード・R・B・マケイブ氏だ。マーチ・オブ・ダイムスは、ジカ熱の緊急対策チームを結成し、英語とスペイン語で情報提供を行っている。「もっとリアルタイムで感染を特定する方法を考えなければなりません。感染した赤ちゃんがいれば今すぐ見つけ出して、家族や居住地域を特定し、感染の防止や感染経路について人々へ知らせ、蚊の駆除を行う必要があります」

生まれた赤ちゃんは今後どうなるのか

 米国では、公衆衛生への支援体制は州によって異なる。ウイルスの影響を受けて生まれた赤ちゃんがこれから成長するにつれて、医療サービスや支援にどれだけの予算があてられるのか、専門家たちは既に懸念しはじめている。

スラム街には、蚊の繁殖と感染症の拡大を助ける環境がそろっている。ブラジル、レシフェの町ピラーにある貧民街「ファベラ」に住むマリア・デ・ファティマ・ドス・サントスさん(20歳)と、小頭症で生まれた生後3カ月のエドゥアルダ・ビトリア・サントスちゃん。上の娘のビットリアちゃんは感染していない。
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「ジカ熱に感染した赤ちゃんのフォローアップを今後どのように行っていくのか、真剣に検討しはじめなければなりません。行動面や学習面の問題など、後から明らかになる問題を発見する必要があります。現在ブラジルで見つかっているような重度の小頭症から、もっと軽度の神経系異常まで、様々なケースが予想されます」

 米国にも、ジカ熱を媒介する蚊は存在する。有効なワクチンもなく、蚊の駆除対策も十分な体制が整えられていない現状で、感染が拡大すれば莫大な代価を支払うことになるかもしれないと、マケイブ氏は警告する。「ジカ熱に関連した小頭症が米国で問題になれば、公衆衛生システムは大打撃を受けるでしょう」(参考記事:「致死率30%の新興ウイルスが日本に定着している!」

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