死後3カ月たったミズクラゲが生き返った!

分解した死骸からなんと幼生が出現、「びっくり仰天しました」と研究者

2016.03.08
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北緯70度から南緯40度の海に広く生息するミズクラゲ。再生など複数の戦略を用いて生き続ける。(PHOTOGRAPH BY MARTIN SHIELDS, ALAMY)
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 体に穴をあけられれば、ふさいで元どおりに。手足を切断されても、完璧に再生する。究極の再生能力を持つ彼はもしかすると不死身なのかもしれない。

 スパイダーマンやアベンジャーズなどを世に送り出したマーベル・コミックに登場する皮肉屋のスーパーヒーローで、2016年2月に北米で映画が公開された「デッドプール」は、そんな驚異的な能力をもっている。(参考記事:「再生能力を持つ生物、代表5種」

 しかし、科学誌「PLOS ONE」に最近発表された研究によると、デッドプールと同じどころか、それ以上の能力を持つ海洋無脊椎動物がいる。傘に四つ葉のクローバーのような形の内臓を透けさせ、縁を繊細な触手で飾りたてたミズクラゲだ。

 このクラゲはデッドプールのように再生するだけでなく、複数の特殊能力を持っている。同じくマーベル・コミックに登場するヒーロー、マルチプルマンことジェイミー・マドロックスのように自分自身のクローンを作り、映画『ベンジャミン・バトン』の主人公のように時間がたつにつれて若返るのだ。(参考記事:「小鳥が自ら腸を吸収し3日間飛び続けることが判明」

「死んだ蝶の羽根の残骸から幼虫が生まれるようなもの」

 ヒーローには相棒が必要だ。ミズクラゲ(Aurelia sp.)の相棒は中国の廈門(アモイ)大学で海洋生物学を学ぶ大学院生ホー・ジンルー氏である。2011年の春、彼は海からオスの稚クラゲを1匹採ってきて成体まで育てあげた。

 18カ月後、クラゲは年老いて死んだ。ホー氏は新しい水槽に新しい水をはって死骸を移し、注意深く、辛抱強く見守った。

 ミズクラゲは極域を除く世界の海に広く分布しているが、ホー氏が住む中国東部にはあまり生息していない。「私はサンプルを大切にしています。年をとっても飼育し続けます。奇跡が起こるのではないかと思うからです」。

 その奇跡が起きた。3カ月後、分解したクラゲの死骸から、より若い形態である「ポリプ」が不死鳥のように現れたのだ。「びっくり仰天しました」とホー氏。(参考記事:「厳選、世界のびっくり写真」

 もちろん驚いただろう。そんな現象は、これまで観察されたことがなかったからだ。(参考記事:「個体の冷凍保存、絶滅カエル再生計画」

クラゲたちの驚異の世界:クラゲは脳も心臓も血液も持たずに6億5000万年も生きてきた!(説明は英語です)

 典型的なクラゲの生活史をみると、まず受精卵が成長してプラヌラ幼生になって泳ぎ出し、適当な場所に付着してイソギンチャクのようなポリプになる。その後、成長した個々のポリプにいくつもの節ができ、各節が分離して、多数のエフィラ幼生として泳ぎ出す。エフィラ幼生は成長して稚クラゲになり、さらに成体のいわゆるクラゲになって、繁殖し、死んでいく。この生活史は蝶に似ていて、幼虫に相当するのがポリプだ。つまり、ホー氏が今回目撃したのは、死んだ蝶の羽の残骸から幼虫が生まれたような出来事である。

 ミズクラゲがスーパーヒーローに似ているところはそれだけではない。ホー氏がこのポリプをクラゲまで育てたところ、水槽の底に付着し、死にゆく代わりに、より若い段階であるポリプへと形を変えたのだ。まるで老人として生まれ、成長するとともに若返ったベンジャミン・バトンのように。

 一部の成体では、餌を食べ過ぎたり負傷したりすると、口の中に「たこ」ができた。たこの周りに小さなポリプがいくつもできて、それぞれが多数のクローンを作り、切り離して自由に泳ぎ出した。まるで自己増殖するマルチプルマン、ジェイミー・マドロックスのごとく。(参考記事:「夏にクラゲが大発生する理由は?」

がん細胞の増殖と似ている?

 ミズクラゲの衝撃的な変態が明らかになったのは今回が初めてだが、クラゲの変態については以前からよく研究されている。

 1990年代には、ペン先ほどの大きさしかないベニクラゲ(Turritopsis dorhnii)が成体とポリプの間を行ったり来たりしていることがイタリアの研究者によって発見され、「不老不死のクラゲ」と呼ばれるようになった。(参考記事:「最も高齢な動物たち、6つの例」

 ホー氏のミズクラゲがベニクラゲと同じように若返ったのか、あるいは、再生の極端な例だったのかはまだ分からない。両者を区別するためには、ミズクラゲが形を大きく変える間に細胞と遺伝子がどのような運命をたどるのかを調べる必要がある。

 その研究から、がん治療の新たなヒントが得られるかもしれない。ちなみに、デッドプールもがんの治療のためにDNAを変化させる処置を受けた結果、驚異的な再生能力を身につけたという設定になっている。

 不老不死のクラゲについて研究しているイタリア、レッチェ大学の生物学者ステファノ・ピラーノ氏は、「ベニクラゲでは、発生が進んだ成体がより未熟な段階であるポリプに戻る過程はコントロールされています」と言う。「おそらくがんも非常によく似た機構によって細胞を増やしますが、新たに増えた細胞に何をさせるかという規則がありません」。なお、ピラーノ氏は今回の研究には参加していない。

 クラゲでは、新たに増えた細胞の役割ははっきりしているので、それを解明できれば、がんの増殖をコントロールするやり方が明らかになるかもしれない。

 現時点で明らかなのは、ミズクラゲが生きる達人だということだ。「ミズクラゲの生活史は単純な円環ではなく、クモの巣のような形をしているのです」とホー氏は言う。

 スパイダーマンは、お株を奪われないようにご注意を。

文=Juli Berwald/訳=三枝小夜子

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