【解説】“高速電波バースト”、謎解明に一歩前進

1回かぎりだった現象が、はじめて繰り返し観測された意味は

2016.03.04
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天文学者たちが高速電波バーストを探したプエルトリコのアレシボ天文台の電波望遠鏡。単体の電波望遠鏡としては世界最大だ。(PHOTOGRAPH BY UNIVERSAL IMAGES, GETTY)
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 2012年11月、強力な電波がほんの一瞬だけ地球に届いた。「高速電波バースト」と呼ばれるこの突発的な現象は、エネルギーの極端な高さ、発生源の遠さ、そして、電波の発生源に関する手がかりすらなさそうな点で、ずっと科学者たちの大きな関心を集めていた。

 この高速電波バーストがそれまで観測されていたものと違っていたのは、1回かぎりの現象ではなかった点だ。

 2015年初頭、同じ未知の発生源から再び高速電波バーストが届いた。もう一度、またもう一度、さらにもう一度。結局、3時間の観測の間に空の同じ領域で10回の高速電波バーストが発生した。

 高速電波バーストがくり返して捉えられたのはこれが初めてだ。3月2日に科学誌「ネイチャー」に発表されたこの発見は、天文学者を10年近く悩ませてきた高速電波バーストの発生源について、ついに決定的な手がかりをもたらした。(参考記事:「重力波、世紀の発見をもたらした壮大な物語」

 オランダ電波天文学研究所の天文学者エミリー・ペトロフ氏は、「すばらしい発見です」と言う。「観測もデータもしっかりしています。非常に興味深く、きわめて重要な成果です」

 これまで、高速電波バーストは、超新星爆発、恒星が重力崩壊してブラックホールになるとき、恒星どうしの衝突など、1回かぎりの激しい天体物理現象により発生すると考えられていた。なぜなら、同じ場所で複数回のバーストが観測されることがなかったからだ。しかし、同じ発生源から高速電波バーストが繰り返し発生するなら、多くの仮説が否定されることになる。(参考記事:「銀河系外から謎の電波パルス」

 今回の論文の共著者である米国国立電波天文台のスコット・ランサム氏は、「高速電波バーストが4年前にこの領域で発生し、今回また発生したのですから、恒星の重力崩壊やブラックホールどうしの合体によって発生したわけではないことは明らかです」と言う。「発生源は、そう遠くない銀河にある『マグネター』だと思います。マグネターは、非常に若く、高速で自転している超強磁場中性子星で、ときどき激しく活動するのです」(参考記事:「電波天文学 見えない光で宇宙を探る」

マグネター(帯磁星)の想像図

はたして本当に存在する現象なのか

 2007年に初めて観測された高速電波バーストは、天文学者にとってきわめて厄介な問題だった。今回まとめて観測された10回を含め、これまでに20回あまり観測されているが、その多くが数十億光年の彼方から来ているようである。しかし、持続時間はわずか数ミリ秒であり、科学者たちは当初、高速電波バーストが本当に銀河系外から来ているのかをめぐって論争を繰り広げた。そんなバーストが本当にあるのか、地上の望遠鏡が作り出したノイズなのではないかという声さえあった。

 その後、ぽつぽつと観測の報告が入ってくると、天文学者たちは徐々に、バーストが本物であることや、非常に遠くから来ているであろうことを認めるようになった。ただ、その発生源は謎のままだった。

 最近、宇宙の大規模構造を研究している研究チームが、偶然、鍵となる新しい情報を含むバーストを捉えたことで、パズルの重要なピースがはまった。バーストは、非常に遠くから来ているだけでなく、高度に磁化された領域を通っていることが明らかになったのだ。これはマグネターから放出されている可能性が高い。

 このシナリオは新たな観測結果もうまく説明でき、発生メカニズムの解明につながるかもしれない。

「スピットラー・バーストに関するどうでもいい発見」

 くり返す高速電波バーストの1つめが発見されたのは2012年のことだった。正式な名称は「FRB 121102」とされたが、パルス状のX線を放出する天体であるパルサーを調べているときに、プエルトリコのアレシボ天文台でこれを発見したドイツ、マックス・プランク電波天文学研究所のローラ・スピットラー氏にちなんで「スピットラー・バースト」と呼ばれている。スピットラー氏らは直後に同じ領域を再び観測して、もう一度バーストが発生しないか待ってみたが、何も観測できなかった。オーストラリアのパークス天文台のチームも何十時間も発生を待ったが、高速電波バーストを捉えることはできなかった。(参考記事:「超大光度X線、発生源はパルサーだった」

 2015年の中頃、スピットラー氏らは、空振り覚悟でもう一度FRB 121102を観測してみることにした。彼らはアレシボ天文台の強力な電波望遠鏡を問題の領域に3時間向けて、スーパーコンピュータがデータを処理するのを待った。その後、処理データを見たカナダ、マギル大学の大学院生ポール・ショルツ氏は驚いた。高速電波バーストが1回どころか10回も観測されていたのだ。

「高速電波バースト研究の新しい章が始まったことはすぐに分かりました」とショルツ氏は言う。「すべてをひっくり返すような発見でした」。

 ショルツ氏は早速、研究チームの仲間にメールを送った。その際、仲間を驚かすために、わざと『スピットラー・バーストに関するどうでもいい発見』という件名をつけて、アレシボ天文台で10回のバーストを観測したことを報告したのだ。

「研究チームの興奮は容易に想像できます」とペトロフ氏。「この発見により、従来のモデルの多くが否定されます。少なくとも今回のバーストについては、激しい天文現象を起源とするモデルは除外されます。ほかの高速電波バーストについても同じことが言えるのかどうかは、今後の研究を待たなければなりませんが」

 面白いことに、バーストの発生ペースは安定しておらず、時間とともに劇的に変化した。6回のバーストは10分ほどの間に起きていて、それ以外の数回は数週間も間隔があいていた。「発生源そのものが変化しているのです」とランサム氏は言う。研究チームは、バーストは数億光年の彼方にあるマグネターのフレアから来た可能性が高いと考えているが、銀河系外のパルサーが発する強力なパルスである可能性もある。

 2007年に最初の高速電波バーストを発見した米ウェストバージニア大学のダンカン・ロリマー氏は、今後の観測によりバーストのタイミングが明らかになるのではないかと見ている。彼は、「そのうち周期性が現れてくると思います」と言うが、高速電波バーストは本物ではないのではないかと考える人がまだいるため、さらなる観測によりこの疑問を完全に打ち砕くことの方が重要だと考えている。また、すべてのバーストが繰り返し発生するのか、それとも一度きりのバーストもあるのかという問題も生じてくるという。

発生機構は1つではない?

 実は先週、高速電波バーストに関する論文が同じく「ネイチャー」に掲載されていた。今回のスピットラー・バーストが語るシナリオは、その別の高速電波バーストのものとは食い違っている。後者の報告では、2つの中性子星の激しい衝突合体によって高速電波バーストが発生したとされているが、その後の追跡観測により早くも疑問が投げかけられている。

 どちらの観測結果も本物であるなら、高速電波バーストが発生するメカニズムは複数存在する可能性がある。「高速電波バーストには2つの種類があり、少なくともその一部は、一度かぎりの激しい天文現象によって発生するのかもしれません」とランサム氏は言う。

 電波望遠鏡で観測する宇宙はまだよく解明されていない。ただし、ひとつ明らかなことがある――天文学の数千年の歴史をみれば、人類が新しい光で夜空を眺めるたびに、説明がつかず、想像もできないような複雑な現象が見えてくるということだ。

文=Nadia Drake/訳=三枝小夜子

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