重力波、世紀の発見をもたらした壮大な物語

ノーベル賞級発見の手法と意義、天文学の新たな広がりを詳しく解説

2016.02.12
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このほど、2つのブラックホールが合体する際に発生した重力波が検出された。図はブラックホールの合体のシミュレーション画像。ブラックホールがお互いを飲み込む直前には、それ以外の宇宙全体よりも大きなエネルギーを放出する。(ILLUSTRATION BY SXS COLLABORATION)
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 100年におよぶ壮大な探し物に、ついに決着がついた。科学者たちはレーザーと鏡を使って、時空のさざ波「重力波」を直接観測することに成功した。

 この重力波は、地球から約13億光年の彼方で、2つのブラックホールが互いに渦を巻くように回転して衝突したときに発生した。ブラックホールの1つは太陽の36倍の質量を持ち、もう1つは29倍の質量を持っていた。(参考記事:「21年後に巨大ブラックホールが衝突へ」

 重力波は池に生じたさざ波のように宇宙を広がり、2015年9月14日、地球上に設置された4組の鏡の距離に、ごくわずかだが測定可能な変化を引き起こした。4組の鏡のうち2組は米国ルイジアナ州、もう2組はワシントン州に設置されている。

 ブラックホールどうしが合体する直前には、宇宙の全銀河のすべての星々が放出するエネルギーの総和の50倍も大きなエネルギーが放出された。

 2016年2月11日、今回の発見に関する記者会見で、カリフォルニア工科大学のデビッド・ライツィー氏は「宇宙が初めて重力波という言葉で私たちに語りかけてきたのです」と言った。LIGO(レーザー干渉計重力波天文台)という施設で観測を行っていた科学者たちは、2つのブラックホールが死んで合体するときに聞こえると予想されていた特徴的な「さえずり音」を聞いた。

 ルイジアナ州立大学のガブリエラ・ゴンザレス氏は、「私たちは重力波の音を聞き、宇宙の音を聞くのです。宇宙は目で見るだけでなく、耳で聞くものになったのです」と説明する。

 実は、LIGOのチームが重力波を検出したという噂は数週間前からソーシャルメディアで囁かれていた。正式な発表前からこれほど大きな関心が集まっていたのは、多くの人が重力波の検出をノーベル賞級の発見だと考えているからに他ならない。

時空のさざ波

2つのブラックホールが合体するときに発生した重力波が初めて捉えられた。

時空のさざ波

ブラックホール1

ブラックホール2

回転する巨人

2つのブラックホールが互いに渦を巻くように回転したのち合体する。距離が近づくほど、回転は速くなる。この過程で放出されるエネルギーは、アインシュタインが理論的に予言した重力波という時空のさざ波となる。

太陽質量

巨大なエネルギー

合体してできた大きなブラックホールの質量は、もとの2つのブラックホールの質量の和よりも小さい。太陽質量3個分の質量がエネルギーに変換され、重力波として放出される。

ブラック

ホール1

36

ブラック

ホール2

29

新しい

ブラックホール

62

重力

3

NG STAFF

SOURCE: LIGO

時空のさざ波

2つのブラックホールが合体するときに発生した重力波が初めて捉えられた。

回転する巨人

2つのブラックホールが互いに渦を巻くように回転したのち合体する。距離が近づくほど、回転は速くなる。この過程で放出されるエネルギーは、アインシュタインが理論的に予言した重力波という時空のさざ波となる。

ブラックホール1

ブラックホール2

時空の

さざ波

巨大なエネルギー

合体してできた大きなブラックホールの質量は、もとの2つのブラックホールの質量の和よりも小さい。太陽質量3個分の質量がエネルギーに変換され、重力波として放出される。

太陽質量

ブラック

ホール1

36

ブラック

ホール2

29

新しい

ブラックホール

62

重力

3

NG STAFF

SOURCE: LIGO

重力波、こうして検出した

 1916年にアインシュタインによって初めて予言された重力波は、一般相対性理論の中でもとりわけ奇妙な現象で、ブラックホールの衝突、中性子星の合体、恒星の爆発など、時空を伸び縮みさせるほどの激しい高エネルギー現象によって発生する。

 私たちは通常、時空の伸び縮みを感じない。時間は一様に流れているし、風景が伸び縮みすることもない。カリフォルニア工科大学のLIGOのチームを率いるアラン・ワインスタイン氏は、「それでも重力波は、今この瞬間にも私たちの体を通り過ぎています。これは確かなことなのです」と言う。

 重力波が地球を通り抜けているのは確実なのに、その影響をなかなか測定できなかったのは、「空間の伸び縮みが信じられないくらい小さいからです」とワインスタイン氏。2人の人間が1m離れて座っているところに重力波が通過すると両者の距離が変化するが、その大きさはわずか10の21乗分の1mであるという。これは、原子核を構成する陽子の直径のわずか100万分の1だ。

 けれども、LIGOのように2つの鏡を4km離れたところに設置すると、重力波によって陽子の直径の1万分の1の変化が生じる。「それなら測定できます」とワインスタイン氏。

LIGOの検出器では、レーザーと正確に並べた鏡を使って、重力波が引き起こす非常に小さな動きを検出する。(PHOTOGRAPH BY MATT HEINTZE, CALTECH/MIT/LIGO LAB)
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 LIGOは、L字型をした2基の同じ検出器を米国ルイジアナ州リビングストンとワシントン州ハンフォードに設置している。検出した信号が本物であるためには、両方の検出器でキャッチされなければならない。検出器は、L字型に直交するアームのそれぞれに鏡を設置したもの。通過する重力波は、時空を1つの方向に引き伸ばし、もう1つの方向に押し縮めて、検出器のアームの長さをごくわずかだけ変化させる。この変化をレーザーで測定するのだ。

 この検出器は地球上で最も感度が高く、重力波だけでなく、近くを通過するトラックや地震や6州も離れた場所での落雷の振動、GPS衛星からの信号、高層大気の電磁パルスなども検出してしまう。重力波の非常に小さい信号を検出するには、こうしたノイズをすべて除去しなければならない。

 LIGOの検出器は、数十年におよぶ計画立案と政治的ドラマを経て、2002年に観測を開始した。その後8年間観測を行ったが重力波を検出できなかったため、2010年にいちど閉鎖され、ノイズをもっと遮断できるように改良された。

 だから、2015年9月18日に改良型LIGOの観測が始まったとき、科学者たちは今度こそ何かを検出できるだろうと期待していた。

 ところが運命の不思議ないたずらで、彼らがすでに重力波を検出していたことが明らかになった。正式な観測が始まる前から検出器の運用が始まっていたが、その間にそれらしい信号を捉えていたのだ。問題の信号は先にルイジアナの検出器に到達し、7ミリ秒後にワシントンの検出器に到達した。

「この信号が入ってきたとき、本物だと確信しました。信じられないような幸運でした」とライツィー氏。

衝突するブラックホール

 重力波を観測できたら、アインシュタインの方程式を使って、どのような天体現象がその重力波を発生させたか推定することができる。今回の重力波を発生させたのは、2つのブラックホールの衝突であったようだ。この2つのブラックホールは合体し、太陽の60倍以上の質量を持つ1つのブラックホールを形成したという。

 巨大な恒星が死んで押しつぶされるときに形成されるブラックホールは、宇宙で最も奇妙な天体の1つだ。近づいてきた物質や光を圧倒的な重力で捉えてしまう高密度の「何か」としてブラックホールをイメージするのは簡単だが、正確には「もの」というより、時空が極端にゆがんだ底なし沼のようなものである。だから、2つのブラックホールが合体するときには、私たちの想像を絶するようなことが起こるのだ。(参考記事:「星を食らうブラックホール」

 ワインスタイン氏は、「ゆがんだ空間がぐちゃぐちゃにかき混ぜられて、刻々と変化していくのです」と言う。

お互いのまわりを渦を巻くように回転する2つの巨大なブラックホールから放出される重力波のコンピュータ・シミュレーション。(ILLUSTRATION BY C. HENZE, NASA)
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 今回LIGOが検出した衝突では、2つのブラックホールは数百万年から数十億年間、お互いのまわりをゆっくりと渦を巻いて運動していた。けれども両者が少しずつ近づいていくと回転速度が速くなり、ついに光速の半分近い猛スピードでお互いのまわりを回転し、膨大な量のエネルギーを重力波の形で放出するようになる。

 そしてついに2つのブラックホールが合体する。その直前、渦を巻いて回転するブラックホールは、宇宙全体のあらゆる放射の和よりも大きなエネルギーを放出する。ひとたび合体すると、新しいブラックホールは少し振動し、リングダウンと呼ばれる最後のあえぎ声を吐き出して静かになる。(参考記事:「ブラックホールの「げっぷ」が星形成を終わらせる」

 以上が、地球上に設置された鏡の距離のわずかな変化が語る壮大な物語だ。

 学術誌『フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)』に発表されたこのチームの原稿を見た米国国立電波天文台のスコット・ランサム氏は、「とんでもなくすばらしいデータです」と言う。「特段の統計的操作もせずに、検出器の『生』のデータに重力波を見てとることができるなんて、ほとんど誰も期待していなかったと思います」

 LIGOの科学者たちは、信号は本物だと確信している。彼らの見積もりによれば、これだけ本物らしい偽の信号は20万年に1度しか入ってこないという。LIGOは2015年10月12日にもブラックホールの合体により発生したと思われる候補信号を少なくとも1つ検出しているが、それが偽の信号ではないという確証はないという。

重力波を発見した科学者たち。シカゴ大学の物理学者ダニエル・ホルツ氏が、重力波の検出という快挙を成し遂げたLIGO共同研究チームの舞台裏を解説する。

新しい時代、新しい探査

 今回の発見により、科学者は初めて重力波を直接捉えることに成功した。けれども重力波の存在は以前から証明されていた。1974年、ジョー・テイラー氏とラッセル・ハルス氏が、連星パルサーという新しい奇妙な天体を発見した。連星パルサーの正体は、お互いのまわりを回る2つの中性子星である。このパルサーを観測した彼らは、回転の軌道がどんどん小さくなっていることを発見し、その原因は重力波が系からエネルギーを持ち去っているからであるとしか考えられないことに気づいた。

 この発見は重力波の存在を疑問の余地なく証明するもので、テイラー氏とハルス氏は1993年にノーベル物理学賞を受賞した。

 LIGOの研究チームによる今回の発見は、地球上で重力波を直接観測できたという点で新しい。これは天文学の新時代をひらく発見であり、天文学者が宇宙をより遠くまで見渡すことを可能にする。

 重力波で宇宙を見ることは、人類が初めて赤外線やX線やマイクロ波の目で宇宙を見たときに匹敵する画期的な出来事だ。人類は何千年も前から可視光で恒星や惑星を見て、その動きを観察してきた。けれども、初めて赤外線で見た宇宙は、星々が生まれてくる高温の塵の塊でいっぱいだった。X線で見た宇宙は星々の死骸だらけだったし、マイクロ波で見た宇宙はビッグバンの高熱の名残に満たされていた。観測に重力波を用いるようになれば、同じように天文学に革命を起こすことになるだろう。

 米プリンストン大学の天体物理学者であるテイラー氏は、「重力波は、電磁波ではよく観測できなかった遠方の天体や天文現象を調べる新しい手法です」と言う。「私たちは、ブラックホールという天体が存在するかもしれないと推定し、銀河の中心に巨大なブラックホールが存在している証拠を握り、今度は、こうしたブラックホールとは違ったタイプのブラックホールを直接測定する技術を手に入れたのです」

重力波の音:LIGOが観測する2つのブラックホールが互いに近づくにつれ、放出される重力波の周波数が高くなり、振幅も大きくなる。これを音に変換すると、特徴的な「さえずり音」になる。動画で最初に聞こえる音は重力波の正確な周波数で、次に聞こえる高周波数の音は人間の可聴域に合わせたもの。

観測の試み、続々

 これからの10年で、他の実験でも重力波が検出されるかもしれない。例えば、NANOGravという実験では、非常に短い周期で自転するミリ秒パルサーという天体を天然の重力波検出器として利用する。重力波がこうしたパルサーを通過すると、短時間だけ自転のタイミングを乱し、空全体にはっきりした痕跡を残すと考えられるからだ。

 恒星の質量の大変動によって発生する重力波を敏感に検出するLIGOとは違い、NANOGravでは、銀河の中心部分で回転している超巨大ブラックホールから発生する長波長の重力波を検出することができる。「私たちの観測装置は、太陽質量の数億倍から数十億倍の超巨大ブラックホールが、合体する数万年前に放出する周波数の重力波を高い感度で検出します」とランサム氏。(参考記事:「波長10億光年以上の重力波」

 もう1つ提案されている実験は、宇宙重力波望遠鏡eLISAの打ち上げだ。この宇宙望遠鏡は、あらゆる天体物理系で発生する重力波を検出できる。生まれたばかりの宇宙が急激に膨張したときに発生した原始の重力波を探しているチームもある。2014年、BICEP2の研究チームがそうした重力波を検出したと発表したが、その信号は塵によるノイズだったことが明らかになった。(参考記事:「宇宙膨張の決定的証拠を発見」「「宇宙誕生の重力波」はまだ証明されていなかった――小松英一郎氏緊急寄稿」

 重力波天文学が主流になるにはまだまだ時間がかかるだろう。けれどもその時代が到来したときには、これまで数学の領域にあった目に見えない極端な天文現象が観測可能な領域に出てきて、解き明かされるのを待つことになる。(参考記事:「謎に満ちた 見えない宇宙」

文=Nadia Drake/訳=三枝小夜子

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