トラ147頭を飼う寺院がトラを闇取引、タイ

特報:タイガー・テンプル闇取引レポート(その1)

2016.02.09
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タイガー・テンプルにある瞑想センター。(Photograph by Steve Winter, National Geographic)
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 タイの首都バンコクから北西へ車で3時間。私は今、トラ観光で知られる「タイガー・テンプル(トラ寺)」にいる。向かいに座っているのは、オレンジ色の僧衣をまとった若い僧侶ジャクリット・アピスティパンサクール氏だ。

 彼の背後には豪華な祭壇がそびえ、中央に金箔で覆われた大きな仏像が鎮座している。祭壇の左右には象牙が飾られ、寺院の創設者プーシット・(チャン)・カンティタロ院長の写真や壁絵も並ぶ。トラと一緒に描かれているものもある。ジャクリット氏はこの院長の秘書だ。

 現在この寺院は、147頭ものトラを飼育しており、この動物と触れ合いたい人々が集まる観光名所となっている。バスいっぱいに詰め込まれた観光客は、トラの子どもをなでて餌をやり、おとなのトラと遊び、散歩をさせ、トラの頭を膝に乗せて写真を撮る。この施設は年に300万ドル相当(およそ3.6億円)の収入を生んでいるとみられている。

 タイガー・テンプルについては、以前から批判があった。元職員や動物保護の活動家は、トラが虐待されていると訴えていたのだ。トラは叩かれ、ろくな食事を与えられず、獣医の診察も受けられず、狭いコンクリートのケージに押し込められて、運動をしたり外に出たりする時間はほとんどもらえない、というのが彼らの主張だった。一方、僧たちはこれを否定してきた。

 そして今、タイガー・テンプルに対し、新たな告発の声が上がっている。この寺院がトラの違法取引に関わっているというのだ。

消えた3頭のトラ

 2015年12月、私は写真家のスティーブ・ウィンター氏とともにタイガー・テンプルを訪れた。およそ1年前にここで起こったできごとについて調査するためだ。我々の情報源によると、2014年12月末、成長した3頭の雄のトラが寺院から消えたという。その3頭とは、7歳のダオヌア、3歳のファークラム、5歳のハッピーだ。

 院長は我々との面会を拒否した。私がジャクリット氏に、あのトラはどこへ行ったのかと尋ねると、彼はあたりを見回してこう告げた。「ここにいますよ。すべてのトラは今も、完全にタイガー・テンプルの中にいます」

タイガー・テンプルの僧侶で、院長の秘書を務めるジャクリット・アピスティパンサクール氏。(Photograph by Steve Winter, National Geographic Creative)
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 消えた3頭のトラにはマイクロチップが埋めこまれ、政府にも登録されていたと、長年ここで働いてきた獣医のスムチィア・ビィサスモンコルチィア氏は言う。絶滅の危機にある動物を保護している場合、そうした処置を取ることがタイの法律によって義務付けられている。

 ところが2015年2月、スムチィア氏は職を辞し、当局へ訴え出た。3頭のトラから摘出したマイクロチップを提出したのだと、国立公園・野生動物・植物保全局の副局長、アディソン・ヌッチタムローン氏は語る。

 4月、政府当局者が寺院を訪れ、トラがいなくなっていることを確認した。このときの調査により、13頭のトラにマイクロチップが装着されていないことが新たに判明し、また冷凍庫の中からは1頭のトラの死骸が見つかった。

各国のNPOが告発

 そして現在、オーストラリアの環境保護NPO「Cee4life(シー・フォー・ライフ)」が、少なくとも2004年以降、同寺院ではトラが違法に運び出されたり、持ち込まれたりしていることを示す新たな証拠を見つけたと主張している。同団体は、2015年12月に「タイガー・テンプル・リポート」という報告書をタイ当局とナショナル ジオグラフィックに提供し、今年1月下旬になって公にも発表した。

 この報告書に含まれている1999年と2000年の獣医記録によると、寺院に元からいたトラのうち4頭は「野生個体を捕獲」したもので、また2004年の書類には、ナンファという名の雌は「ラオスから輸入」されたとある。

 院長の署名がある2005年の契約書には、寺院にいる雄と、商業目的でトラの繁殖を行っているラオスの組織が所有する雌との交換について詳細が記されている。寺院のアドバイザーから匿名で入手した音声テープには、院長とスムチィア氏が、いなくなった3頭のトラについて話し合っている会話が録音されている。

 トラの生体(あるいは毛皮や骨、体の部位など)を、国境を越えて取引することは、タイの法律と、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES、通称ワシントン条約)の両方に違反している。

コンクリートのケージに閉じ込められたタイガー・テンプルのトラたち。野生動物の保護活動家は、以前からこの寺院が動物を虐待していると訴えてきたが、僧侶たちはこれを否定している。(Photograph by Sharon Guynup)
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 消えたトラたちがその後どうなったのかについては、いまのところ何も明らかになっておらず、誰ひとり告発も起訴もされていない。しかし当局は近日中に、トラたちをタイガー・テンプルから、国が管理する野生動物用の施設へ移すとしている。

 タイガー・テンプルがトラを闇市場で取引しているのではないかという疑惑が持ち上がったのは、2008年、ナショナル ジオグラフィックが、英国の野生動物保護団体「ケア・フォー・ザ・ワイルド(Care for the Wild)」の研究について誌面で紹介したときのことだ。同じころ、「国際トラ連合(International Tiger Coalition)」という団体が、同寺院は「トラの保護に対してなにひとつ貢献していない」と述べている。(参考記事:特集「消えゆく王者 トラ」

 そして先日発表された「Cee4life」による報告書「タイガー・テンプル・リポート」の内容もまた、熱心にトラを保護し、和気あいあいと暮らすという同寺院のイメージとは、相容れないものであった。

飼育下のトラが闇取引に

 国連薬物・犯罪事務所によると、野生動物の違法取引は、銃やドラッグの取引や人身売買と同様の、国境をまたいだ犯罪ネットワークに関わりがあり、そのビジネスは世界中で年間190億ドルを生んでいるという。

 トラ由来の製品は、闇市場でたいそうな高値がつく。商業目的でのトラの繁殖とはつまり、ブタやニワトリのようにトラを飼育することだ。トラは最終的に殺され、その体の部位が売却される。

 タイガー・テンプルのような飼育施設のトラが違法に出回ることは、トラたちの飼育環境の良し悪しといった問題をはるかに上回る大きな問題をはらんでいると、英国ロンドンのNGO「EIA(Environmental Investigation Agency)」のスタッフで、トラに詳しいデビー・バンクス氏は言う。なぜなら飼育個体や体の部位が闇市場で流通すれば、需要が刺激される。つまり、インド、スマトラ、タイなどの森やジャングルで、さらに多くのトラが殺されることを意味するからだ。(参考記事:「絶滅危機のトラがインドで増加。成功例となるか?」

 CITESによる2014年の報告書には、トラの体の部位は「以前のように医薬品というよりも、エキゾチックな贅沢品として消費されることが増えている」とある。トラの骨を使った酒(トラの頭骨を米酒に浸して作られる)や見事なトラの毛皮(高級なインテリアとして使われる)は、中国のエリート層にとってステータスシンボルとなっている。(参考記事:「トラ減少で希少なウンピョウが新たな標的に?」

つづく:トラ寺院、闇取引のからくり(特報:タイガー・テンプル闇取引レポート(その2))

文=Sharon Guynup/訳=北村京子

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