推進剤は火星で製造、最新版「火星の帰り方」

無事、地球に帰るまでが火星探査。だが、薄い大気がNASAを悩ませる

2015.10.08
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NASAのエンジニアは、映画『オデッセイ』(日本では2016年公開予定)に描かれているような火星の厳しい気候にも耐えうる宇宙船を設計しなければならない。(PHOTOGRAPH TWENTIETH CENTURY FOX)
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 NASA(米航空宇宙局)のエンジニアにとって、火星は惑星サイズのハエトリグサだ。

 約束された科学的発見を餌に私たちを惹きつけ、そこに降り立った瞬間、過酷な気候と重力が宇宙飛行士をとらえて離さない。

 だが、それはあってはならないことだ。宇宙飛行士をもうひとつの星に置き去りにするためだけに、数十億ドルを投じることを世間は許さないだろう。NASAの火星探査計画において何よりも重要なパートは、間違いなく火星からの帰還である。(参考記事:「火星への有人飛行が意味するもの」「MAVENに続け、各国の火星探査計画」

 そのためにNASAが作ろうとしている宇宙船「マーズ・アセント・ビークル」(MAV:火星上昇機)は、手ごわい課題を抱えている。火星表面から上昇するための推進剤をあらかじめ満タンにしておくと、重すぎるために地球から打ち上げて火星に安全に着陸させることができないのだ。

 代案として、MAVを宇宙飛行士が到着する数年前に火星に送っておくという方法がある。一足先に火星に着いたMAVは、その薄い大気から推進剤を作り出す。

 MAVはその後、塵の嵐や過酷な紫外線放射に耐え、運用可能な状態を保たなければならない。そして、ついに離陸を迎えると、数日かけて宇宙飛行士を軌道周回機へと運ぶ。最終的に飛行士らは、軌道上で待つ宇宙船に乗り移り、地球への帰還を果たす。

 つまりMAVのミッションは、地球外の惑星表面から宇宙船を打ち上げて軌道に乗せることだ。

 しかも、チャンスは1度しかない。

はじめての大規模遠征隊

 火星へのミッションは、人類にとって初の宇宙への大規模遠征隊となる。宇宙飛行士と積荷を火星に運ぶために、5機もの宇宙船が必要になると考えられている。

 一部の積荷は、複数のパーツに分割されており、宇宙飛行士が到着した後に組み立てられる。しかし、MAVはそうはいかない。NASAジョンソン宇宙センターのシステムエンジニア、ミシェル・ラッカー氏は、「塵の舞う火星で、宇宙服を着て、とりわけ手にミトンをはめてエンジンの積載作業をしたい人はいないでしょう」と理由を説明する。

 NASAによると、MAVは同ミッションにおける「分割できない最大のペイロード」であり、重量は18トンになる見込みだ。ちなみに、これまでに人類が火星表面に送った最も重い物体は、1トンの探査車「キュリオシティ」である。

 火星への着陸は、地球のときよりも難しい。特に、何トンもある物体の場合はなおさらだ。その理由は、着陸カプセルが基本的に空気抵抗を利用して減速するからである。

 火星の大気圏の濃さは、地球の100分の1しかない。ラッカー氏に言わせれば、火星への大気圏突入時にカプセルが燃え尽きることはあっても、十分な減速は期待できないのだ。

火星大気は、摩擦熱が生じるほどには十分濃いが、パラシュートを使ってMAVとその着陸機のような巨大な物体を減速するには薄すぎる。
MATTHEW TWOMBLY, CHIQUI ESTEBAN, NG STAFF SOURCES: Bong Wie/Iowa State University, Ames; Space.com

 そのためNASAでは、極超音速インフレータブル空力減速機(HIAD:巨大な円錐状の膨張式熱シールドで、減速システムとしても機能する)などの技術開発に取り組んでいる。

 火星大気突入時にこの熱シールドが配備され、着陸機は極超音速から超音速まで減速する。その後ロケットエンジンを始動して、着陸を制御する。(参考記事:「NASAが開発中の火星着陸船」

膨張式のシールドのおかげで、MAVは音速の2.5倍から3倍まで減速する。その後、シールドは分離。以後、下降モジュールに搭載したロケットエンジンを使いながら高度を下げる。
MATTHEW TWOMBLY, CHIQUI ESTEBAN, NG STAFF SOURCES: Bong Wie/Iowa State University, Ames; Space.com

 宇宙飛行士マーク・ワトニー氏は次のような計算をしている。着陸には、5から7トンの推進剤を必要とする。一方、MAVが火星から離陸して重力圏を脱し、宇宙飛行士と積荷を地球帰還機に輸送するためには、33トンの推進剤が必要だ。

 こんな量を事前に送ることはできない。だから、現地で推進剤を作り出す必要があるのだ。

次ページ:火星の厳しい環境に耐えつつ推進剤をつくるには

人類の火星への旅は、もはや夢物語ではない――。
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