ホタルの発光原理に新説、余剰電子が関与

60年越しの謎を解明へ

2015.07.30
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Video courtesy of the American Chemical Society

 ホタルの腹部を、生物発光のブラックボックスと考えてみる。

 ブラックボックスに入る原料は、およそ60年前から知られている。酸素、カルシウム、マグネシウム、そして、ルシフェリンと呼ばれる天然の化学物質だ。

 出てくるものもわかっている。光子、つまり光だ。黄色、緑、オレンジ、そして青。揺らめきながら、夏の夜を彩る。(参考記事:写真家 宮武健仁「輝く光景」

 しかし、ブラックボックスの内部で起きている化学反応については、ずっと謎に包まれていた。「酵素とタンパク質が化学エネルギーを光に変えるのは、非常に基本的な現象です。私たちはずっと、その生化学過程の原理を知りたいと思っていました」と、米コネチカット大学のブルース・ブランチーニ氏は語る。ブランチーニ氏の研究グループは、最新の研究でそれを達成した。夏の発光に寄与する、余剰電子を持つ酸素を発見したのだ。

 最新の『Journal of the Americann Chemical Society』に発表された論文は、ホタルの生物発光に関与する化学物質について詳述している。

スーパーオキシドアニオンが関与

 ホタルが発光する原理についての従来の解釈は、ブランチーニ氏はじめ、多くの科学者を悩ませてきた。発光原料の中心になるのは、前述の原料のうち酸素とルシフェリンなのだが、これらがそのままで光を放ちながら反応することはないからだ。

 これらを理解しようとすればすぐに複雑になってしまうが、今回ブランチーニ氏の実験により、ホタルの発光に関与する酸素は、スーパーオキシドアニオンという特殊な形態であることがわかった。「スーパーオキシドアニオンは、余剰電子を1つ持った酸素分子です」

 この余剰電子の存在により、昔から考えられてきたような、酸素分子とルシフェリンとの化学反応が発生しうるのだ。このスーパーオキシドアニオンは、プランクトンから深海魚まで、自然界に存在するあらゆる生物発光の説明になる可能性を秘めているという。(参考記事:「光る生き物の世界」


ホタルと夜空が生み出す美しいタイムラプス動画。ゴッホの名作「星月夜」を思わせる。(video from filmmaker Vincent Brady)

医学への応用も

 ルシフェリンの医学的利用に関するポテンシャルを研究しているマサチューセッツ大学医学部の化学生物学者スティーブン・ミラー氏は、「私にとって、化学的に納得できる唯一の説明です」と言う。

 ブランチーニ氏の研究には参加していないミラー氏は、ルシフェリンと生物発光に関する研究を継続する重要性について述べている。なぜなら、医学への応用が可能だからだ。たとえば、ミラー氏が参加している研究チームでは今年、生きているラットの脳内にある特定の酵素を、ルシフェリンを使って検知することに成功した。いずれ、人間の脳にも応用できる可能性がある。

 ブランチーニ氏によると、ホタルのルシフェリンはすでに、人間の腫瘍の造影や、抗がん剤の開発に役立っている。「でも私たちは自然の原理を知りたいだけ。それが何かに応用できても、できなくても」(参考記事:「南米の光るゴキブリ、有毒昆虫を擬態」

【フォトギャラリー】光る生き物の世界

文=Jason Bittel/訳=堀込泰三

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