新種のヒト属ホモ・ナレディ発見に驚きと疑問の声

歴史的発見か、勇み足か。年代特定が大きな争点に

2015.10.05
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ホモ・ナレディは部分的に原始的な特徴を残しているが、その顔や頭骨や歯には、ヒト属に分類できるだけの現代的な特徴が見られる。アーティストのガーチ氏は、ホモ・ナレディの骨をスキャンしたデータをもとに、700時間以上かけて頭部を復元した。毛髪には熊の毛を使っている。

ホモ・ナレディは部分的に原始的な特徴を残しているが、その顔や頭骨や歯には、ヒト属に分類できるだけの現代的な特徴が見られる。アーティストのガーチ氏は、ホモ・ナレディの骨をスキャンしたデータをもとに、700時間以上かけて頭部を復元した。毛髪には熊の毛を使っている。

 新種のヒト属(ホモ属)と考えられるホモ・ナレディ(Homo naledi)の化石が南アフリカで発見されたという9月10日のニュースに、科学者たちは畏怖の念を抱くとともに苛立ちを覚えている。彼らを驚嘆させたのは、発見された化石の数だ。その数は1500個以上で、少なくとも15体分になる。すべての骨は、ヨハネスブルクから北西に約50キロのところにあるライジング・スター洞窟の奥の地下空洞で発見された。(参考記事:「小顔のヒト属新種ホモ・ナレディを発見、南ア」

 米ミズーリ大学医学部の古人類学者キャロル・ウォード氏は、「これほど大量の化石人骨は見たことがありません。本当に驚きました」と言う。一方で、ウォード氏を含めた科学者たちは、年代などの重大な情報が得られていない段階で発表に踏み切った研究チームに失望の色を隠せない。

 ホモ・ナレディには、原始的な特徴と現代的な特徴が奇妙に入り混じっている。脳は類人猿並みに小さいのに、体は小柄な現代人くらいあるのだ。肩や胴、木登りしやすいよう曲がった指は類人猿に似ている一方、足はきわめてヒトに近い。この複合的な特徴からすると、ホモ・ナレディが200万~300万年前に存在した、ヒト属の起源に近い種であると考えられる。

 とはいえ、化石の見た目のみで年代を推定するのは非常に危険だ。現代的な形に進化した骨格にも、原始的な祖先から引き継いだ特徴はある。今回発見された化石も、その形態が示す年代よりもずっと新しいかもしれないし、(可能性は小さいものの)ずっと古いかもしれない。

 東アフリカでは、年代を特定できる火山灰層が「タイムスタンプ」の役割を果たすことから、320万年前のアウストラロピテクス「ルーシー」をはじめとする有名な化石人骨の年代を正確に特定できた。対して、南アフリカの洞窟で発見される化石人骨は、年代を特定しにくいことで知られていており、同じ場所で見つかる絶滅動物の化石の種類から年代を推定することが多い。ところが、ホモ・ナレディの化石が見つかった洞窟からは、フクロウの骨が1個とげっ歯類の歯が数個しか見つからなかった。(参考記事:「人類発祥の地は東アフリカか、南アフリカか」

 化石の年代が明らかになるまでは、実際にどれほどの科学的価値があるかは分からないと言う科学者もいる。米ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の古生物学者ウィリアム・ジャンガーズ氏は、「年代が分からなければ、これらの化石は人類史を書き換える発見ではなく、単なる骨董品です」と批判する。「化石が系統樹のどこに入るかは、年代によって違ってきます。幹のどこから生えていたのか分からないかぎり、ただの小枝にすぎません」

 著名な研究者の中には、この化石が新種のものであるとする論文の結論を疑う者もいる。米カリフォルニア大学バークレー校のティム・ホワイト氏はAP通信に、「論文の記述から考えると、この化石は原始的なホモ・エレクトス(Homo erectus)のものです。19世紀に発見された種ですよ」と語っている。

各部の特徴から見えてくるもの(大きな解説イラスト
ホモ・ナレディの全体像をつかむため、数体分の骨を組み合わせて1体の骨格を作った。肩、腰、胴は原始的な化石人類に近く、下肢には現代人に近い適応が見られる。頭骨と歯には両方の特徴が混在している。
SKELETON: STEFAN FICHTEL
SOURCES: LEE BERGER AND PETER SCHMID, UNIVERSITY OF THE WITWATERSRAND (WITS), SOUTH AFRICA; JOHN HAWKS, UNIVERSITY OF WISCONSIN-MADISON

ライジング・スター洞窟は共同墓地だったのか

 この化石についての論文は、南アフリカ・ウィットウォーターズランド大学の古人類学者で、米ナショナル ジオグラフィック協会付き研究者であるリー・バーガー氏らが、学術誌「eLife」に発表したものだ。英ロンドン自然史博物館のクリス・ストリンガー氏は、同時に発表された論文で、研究チームが年代推定をまったく試みることなく発表に踏み切ったことに疑問を呈している。例えば、放射性炭素年代測定法では5万年前以前の年代を特定できないが、少なくとも5万年前より古いかどうかは確認できるはずだ。

 バーガー氏と共同で化石の分析を行った米ウィスコンシン大学のジョン・ホークス氏は、「私たち自身も、化石の年代を知りたいのです」と言う。しかし、化石人骨と関連づけられる動物の骨がない以上、化石人骨そのものを使って放射性炭素法やその他の方法で年代を測定するしかない。その場合、年代測定の過程で骨を損傷してしまうかもしれない。「化石について詳しく記述した論文を発表するまでは、化石を損傷するおそれのある研究をするわけにはいかないと判断しました」

 化石人骨があった地下空洞にほかの動物の骨がなかったのは、そこが地表から簡単に行ける場所ではなかったからだろう。実際、この地下空洞は、真っ暗で曲がりくねった洞窟を100メートル近く進んでから、さらに狭くて長い穴を降りていった先にある。

 こんな場所に、15体分もある大量の骨が、どのようにして集まったのだろうか? バーガー氏のチームはある仮説を立てているが、これには多くの疑問が投げかけられている。

 バーガー氏らは、ホモ・ナレディが100メートル近い洞窟を通って仲間の亡骸を運んでから、狭くて長い穴に落としていたと考えている。その際には、たいまつや原始的なランプで通路を照らし出す必要があったはずだ。多くの科学者は、ゴリラと同程度の脳しか持たない種が、そんなに複雑な行動をするはずがないと見ている。(参考記事:「ヒトはなぜ人間に進化した? 12の仮説とその変遷」

 初期のヒト属の専門家である米ジョージ・ワシントン大学のバーナード・ウッド氏は、「おそらく別の説明があるのでしょう。それが何かは、まだわかりませんが」と言う。ジャンガーズ氏も「『まだ手がかりはない』と言うよりも、ごく小さな脳しか持たない生物が、仲間の遺体を1カ所に捨てていたことを弔いの『儀式』と呼ぶほうがニュースになりますからね」と語っている。

 しかし1つだけ、全員が同意している点がある。洞窟内で、今後もっと多くの手がかりが見つかるだろうということだ。これまでに見つかっている骨のほとんどは、広さ1平方メートルほどの限られた区画からのみ発掘されている。初期の調査から、骨はまだ数百個から数千個は残されていると考えられているが、当面は発掘を再開する予定はなく、研究チームは複数の実験的な方法を使って、化石の年代測定に全力で取り組んでいる。

 年代測定の結果が出るまでは、科学者たちは今回の驚くべき発見の意義について頭を悩ませることになる。発掘された骨の数だけでも、彼らを当惑させるには十分だ。

 米アリゾナ州立大学人類起源研究所のドナルド・ジョハンソン氏は、「多くの古人類学者は、彼らを妬ましく思っているでしょう」と言う。ルーシーの化石を発見した彼は、同僚の妬みがどんなものかをよく知っている。(参考記事:「最古の女性“アルディ”が変えた人類進化の道」

※ホモ・ナレディ発見についての詳細は、9月30日発売の『ナショナル ジオグラフィック日本版』2015年10月号で図解や写真を含めて詳しく紹介します。

『ナショナル ジオグラフィック日本版』2015年10月号

文=Jamie Shreeve/訳=三枝小夜子

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