ハタネズミ、妻を得て初めてメスの違いを認識

パートナーと添い遂げるため?それとも浮気のため?

2015.09.08
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オスのプレーリーハタネズミは、独身のうちはメスを見分けることができないが、パートナーを得ると脳に変化が起きて、メスを見分けられるようになる。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 セックスはカップルの関係を大きく変える。しかしオスのプレーリーハタネズミの場合、脳まで変わってしまう。

 プレーリーハタネズミは北米原産の毛の長い小型のげっ歯類で、哺乳類には珍しくほとんどの個体が一夫一婦制をとる。つがいの多くは同じ巣穴に住んで、一緒に子育てをし、パートナーと過ごすのを好む。(参考記事:「カップルへの酒の影響、オスメスで違い、ハタネズミで判明」

 そう聞くと、プレーリーハタネズミにも自分にぴったりな相手を選ぶための恋愛沙汰があると思いたくなるかもしれない。ところが、少なくともオスについては、そうではないらしい。

 オスのプレーリーハタネズミは、独身の間は個々のメスを見分けることができないが、いったんつがいになると自分のパートナーを非常に好むようになり、さらに、メスたちの匂いや外見、さらには行動までも区別できるようになるとする研究成果を、米コーネル大学のアレクサンダー・オフィール氏らの研究チームは、動物行動学の専門誌『Animal Behavior』10月号に発表した。

 こうした能力を得ることで、ハタネズミのオスは良き父、良き夫になれる一方で、浮気相手を見つけられるようにもなると同氏は言う。

 今回の研究には関与していないが、米キンゼイ研究所の所長でプレーリーハタネズミ研究の先駆者であるスー・カーター氏は、「いずれにせよ、交尾はプレーリーハタネズミに非常に大きな影響を及ぼすのです」と言う。「つがいになることで、生活が一変してしまうのです。人間だってそうでしょう?」

身に覚えがあるような

 数年前、オフィール氏の研究チームは、プレーリーハタネズミに関して驚くべき発見をした。独身のオスは、個々のオスを見分けることはできても、独身のメスについては、外見でも匂いでも個々の違いを見分けることができないというのだ。(参考写真:「恋のライバルに敗れて地味な色になったカメレオン」

 今回の研究には関与していない米マイアミ大学の生物学者ナンシー・ソロモン氏は「その論文を読んだときには、筋が通らないと思いました」と振り返る。一生を共にする相手を探すのだから、惹かれる相手を見分けられるのが当然だと思ったからだ。

 このおかしな研究結果を検証するため、オフィール氏の研究チームは、交尾の後、オスがメスを知覚する能力がどう変化するか調べた。

 まずチームは、ハタネズミのコロニーから交尾経験のない成体のオスを28匹集めた。そのうちの半数は研究室のメスとつがいにし、残りの半数はオスだけで飼育した。

 次に、それら両グループのオスを、ある独身のメスに、透明な壁越しに何度も会わせる。壁越しではあるが、オスたちはメスの姿も匂いも感じられる。何度も会うことで、オスたちがこの顔なじみのメスに対する興味を失うよう仕向けるのである。

 そうしておいて、「オスたちを一度も見たことのない別のメスと会わせました」とオフィール氏は説明する。「オスが新しいメスに興味を示せば、なじみのメスと初対面のメスを区別できていることがわかるからです」。げっ歯類のオスは、メスに興味を抱くと、相手ににじり寄って念入りに匂いを嗅ぐのだ。

 結果、独身のオスたちは、新しいメスにも特に興味を示さなかったのに対し、パートナーがいるオスたちは、新しいメスに強い興味を示した。

 オフィール氏は、「つがい形成によって、プレーリーハタネズミのオスが他者を認識する能力が変化したのです」と説明する。

 脳からはオキシトシンやバソプレシンなど、絆の形成にかかわるホルモンが分泌されているが、オフィール氏は、プレーリーハタネズミのオスがつがいを形成すると、こうしたホルモンが変化するのではないかと考えている。例えば、ホルモンの濃度や受容体の数が変化して、個々のメスを区別できるようになるのかもしれない。

 オフィール氏の前回の報告に疑念を抱いていたソロモン氏も、今では研究結果を信じているという。「独身のオスにとっては、相手はメスであればいい、という今回の報告書を読んで納得できました」(参考記事:「モテないオスにもチャンスあり、カエル研究で判明」

絆を深めるか、浮気に走るか

 人間からすれば、デートしていくなかでパートナー候補を見極められないというのは、困るような気がする。プレーリーハタネズミのオスはなぜ、つがいを形成してから初めてメスを見分けられるように進化してきたのだろうか?

 若いオスはパートナーを探すが、相手は誰でもいいようだ。ソロモン氏は、プレーリーハタネズミのオスは、個々のメスを区別することはできなくても、性的に成熟した(できれば体が大きな)メスであることは分かるのではないかと推測している。(参考記事:「ヨザルが示す愛の神秘」

 若いオスにとっては、選り好みのためにメスを見分ける能力よりも、脅威となるほかのオスを見分ける能力のほうが必要なのかもしれない。だが、つがいを形成したら、パートナーになったメスを見分けられないと、巣穴を守り、協力して子育てをすることなどできない。

 もう1つ、不徳な理由も考えられる。浮気をするためだ。

「同じ種の別の個体を正確に認識できれば、多かれ少なかれ浮気をする可能性が出てきます」とオフィール氏は言う。「よき夫になるためか、プレイボーイになるためか。どちらの説を推しますか?」

文=Rachel Becker/訳=三枝小夜子

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