人を襲ったクマは殺されるべきか

米イエローストーン公園の決定が世界中で議論に

2015.08.25
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イエローストーン国立公園のハイイログマ。ハイカーを殺したとされる母グマは、先週安楽死させられた。(Photograph by Michael T. Sedam, Corbis)
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 米国のイエローストーン国立公園で子連れの母グマがハイカーを殺した。人を襲ったクマを生かすか、処分するか。公園の責任者は難しい判断を迫られた。

 先週から、同公園のオフィスには最高責任者のダン・ウェンク氏を「冷酷な処刑人」と呼ぶメールや電話が殺到している。その多くは野生生物を愛するがゆえに、ある母グマを救おうと、公園の決定を激しく非難するものだ。

 著名な霊長類学者で、イエローストーンのハイイログマ(グリズリー)を愛してやまないジェーン・グドール氏も、英国からウェンク氏にメッセージを送った。不幸にもハイカーと遭遇し、国際的な論争を起こすことになった母グマを助けてほしいと要請したのだ。

「国立公園局で40年間働いてきましたが、クマの処分の是非を巡る反応がこれほど感情的に、大量に寄せられたことはありません」とウェンク氏は話し、部下たちもこの件で精神的にまいっていると認めた。

 今回の事故で犠牲になったのは、モンタナ州ビリングズに住む男性ランス・クロスビーさん(63)だ。夏の間、医務員としてイエローストーンで働いていたクロスビーさんだが、8月7日、公園内のエレファント・バック・ループ・トレイル付近で亡くなっているのが見つかった。公園の中央あたり、イエローストーン湖の西側を斜面に沿って歩くルートだ。子連れのハイイログマに襲われて致命傷を負い、遺体は一部が食べられていた。

 発見直後の捜査員からの報告や、その後行われたDNA鑑定や法医学上の証拠から、クロスビーさんはトレイル外を散策中に襲われたことが分かった。また、攻撃的なクマに対する防御手段として効力を発揮する催涙スプレーも携帯していなかった。

 クロスビーさんが行方不明になった後、捜索隊は彼の遺体を泥の小山の下で発見した。獲物をあとで食べるために蓄えておくのは、クマによくある行動だ。

 問題は、なぜ今回の事件が起こったかだ。このクマは、本当に恐ろしい人食い動物だったのだろうか。

パークレンジャーが被害者の遺体を発見したのは、イエローストーン湖の近く。エレファント・バック・ループ・トレイルからほど近い、人気のバックカントリーエリアだった。8月9日、トレイルの入り口は一時的に封鎖された。(Photograph by Jim Urquhart, Reuters/Corbis)
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クマへの「裁き」をめぐって

 これまで大きな問題を起こしたことなど全くなかった人気の動物に、「死刑判決」を言い渡すか否か。公園の最高責任者であるウェンク氏は突如として、たった1人で重大な判断を下さなければならない立場に追いやられた。

 先週、ウェンク氏は、証拠を検討しクマ管理の専門家とも相談した結果、物議を醸すことになるであろう対応を8月14日に決定したと話した。それは、クロスビーさんを襲った疑いのある母グマを殺処分し、その子グマたちをオハイオ州のトレド動物園に送るというものだった。

「最初のプレスリリースでも、被害者が食べられていたことが分かれば、クマを安楽死させることも考えていると発表していました」とウェンク氏は話した。

 野生生物の写真家たちは、この母グマを背中に白い毛の筋があったことから「ブレーズ」(閃光)と呼んでいた。その生死が決まるまでの7日間で、一般の人々の関心は一気に高まった。ウェンク氏の決定への懸念は、ソーシャルメディアによってさらに拡散。7月に、ジンバブエのライオン「セシル」が米国のトロフィーハンターによって違法に射殺された際と同様の反響があった。(参考記事:「ライオン殺しの米国人、今後どうなる?」

 議論に加わった何千人もの人々の多くは、クマの殺処分に反対した。ハイイログマの縄張りだと分かっているイエローストーンでのトレッキングは自己責任なのだから、クマと遭遇して命を落としたとしても、クマに危害が加えられるべきではないという理由だ。一方、被害者を擁護する人々は、クマを安楽死させるべきだと強く主張した。

 ウェンク氏はこの激しい論争の渦中に放り込まれた。2011年から同公園の最高責任者を務める彼は、野生生物の強力な代弁者として知られている。著名な環境保護論者ダグ・ピーコック氏は、発信器付き首輪を付けるなどしてクマを解放すべきだったとしてウェンク氏を批判している。行動を追跡できれば、新たな犠牲者が出る不安を緩和できるからだ。ウェンク氏は、それは非現実的で、安全を保証できるものにはなり得ないと反論している。(参考記事:「ライオンはなぜ観光客を殺したのか」「ライオンと人は共存できるのか」

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