クモが赤やオレンジ色を見分ける仕組みを解明

目の細胞にフィルターを発見

2015.05.21
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
H. pyrrithix の雄は鮮やかな色と目を引くダンスで交尾相手を誘う。(Photograph by Daniel B. Zurek)
[画像のクリックで拡大表示]

 クモ、とりわけハエトリグモの中には、派手な色をした体を激しく動かしてダンスを踊るものがいる。その目的は、雌をひきつけること。つまり、彼らは必然的に、燃えるような赤や鮮やかな緑色を見分ける能力を持っていると考えられる。

 しかしハエトリグモの目がどうやって色を見分けているのかについては、これまでよくわかっていなかった。

フィルターを使っていた

 ハエトリグモの一種(学名 Habronattus pyrrithrix)が、8つの目のうちの2つを使って、緑色の光と紫外線(UV)を認識していることは以前から知られており、おそらくは赤とオレンジ色も見分けているだろうと推測されていた。そうでなければ、雄に赤い模様がある理由が説明できないからだ。そしてついに先日、上記の H. pyrrithrix を使った実験により、ハエトリグモが色を認識する仕組みが判明した。彼らは目に備わったフィルターを使っていたのだ。

 5月18日に学術誌「Current Biology」のウェブサイトに公開された論文によると、H. pyrrithrix の目のうち、緑色の光を感知する目の細胞の前に、赤いフィルターが付いていることが分かったという。このフィルターは、劇場の照明にかぶせて光の色を変えるフィルターのようなものだが、色素でできていて取り外しはできない。

 この作り付けのフィルターのおかげで、H. pyrrithrix は緑色と紫外線に続く第3の色を認識する能力を得ているわけだ。(参考記事:「クジャクみたいに派手なクモの新種、3種を発見」

「原理上、彼らは人間よりも広い範囲の色を見ることができます」。論文の共著者である米ピッツバーグ大学の進化生物学者ネイト・モアハウス氏は言う。なぜなら H. pyrrithrix は「我々に見える光のスペクトルに加えて、紫外線も感知するからです」

Habronattus 属のハエトリグモの仲間には、鮮やかな体色を持つものが多い。(Photograph by Daniel B. Zurek)
[画像のクリックで拡大表示]

人間が2つの目で行う作業を4つの目で

 同大学の感覚生態学者ダニエル・ズーレック氏によると、H. pyrrithrix 程度の大きさの生物は通常、視力、目の空間解析力、感度のうち、どれかをある程度犠牲にしなければならないという。

 クモの小さな目には、人間が持つような高度に発達した視覚に必要な要素(たとえば2つ以上の色を認識する特殊な細胞など)をすべて詰め込むことはできないからだ。

 ところが、ハエトリグモはこうした犠牲を回避する方法を編み出した。人間が2つの目で行っている作業を、4つの目に振り分けたのだ。

「クモが持つ8つの目には、それぞれ特殊な能力が備わっています」とモアハウス氏は言う。たとえば動きを感知したり、周囲を広範囲に見渡したりといった能力だ。

 今回の研究では、8つの目のうち中央にある2つに焦点が当てられた。これらは模様や色を見分けるのに適した目だという。実験においては、たとえば目を薄くスライスして高感度の顕微鏡で観察するなど、さまざまな手法が採られた。

 ズーレック氏によると、フィルターの発見は完全に予想外だったそうだ。

雌の前でディスプレイ行動をする H. pyrrithrix の雄。(Photograph by Daniel B. Zurek)
[画像のクリックで拡大表示]

フィルターを使いこなす動物たち

「フィルターは色を見分けるのに非常に適した方法です」とコーネル大学の神経動物行動学者ギル・メンダ氏は言う。

 たとえば鳥や爬虫類は「油球」と呼ばれるフィルターを通して色を見ているし、蝶もまたフィルターを使っている。

 しかしクモの目にフィルターが見つかったのは今回が初めてだ。(参考記事:「【動画】死闘! ミツバチ VS. ハエトリグモ」

 この新たな発見により、さまざまな研究の可能性が開かれるだろうとメンダ氏は言う。たとえば彼が興味を持っているのは、脳内のプロセスがどのように動物の特定の行動を生み出すのかということだ。ハエトリグモが赤を認識できることが判明した今、クモの脳がこの情報をどう処理するのかを研究するのもおもしろいだろう。

 ズーレック氏は言う。ハエトリグモの色の認識についての研究は「ようやく入り口に立ったところです」

文=Jane J. Lee/訳=北村京子

  • このエントリーをはてなブックマークに追加