シンデレラのガラス靴、ヒール高は1.3cmまで

スーパーマンや吸血鬼など物語の主人公に科学者が助言

2015.12.28
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計算の結果、シンデレラのガラスの靴は砕けてしまうことが分かった。これでは恋は実らない。(PHOTOGRAPH BY AF ARCHIVE, ALAMY)
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 真夜中の鐘が鳴り、シンデレラは王宮の舞踏会から走り去る。残されたのはガラスの靴が片方だけ。王子はこの靴を持って王国中を探し回り、ついに靴がぴったり合う女性を見つけ出して結婚した。誰でも知っているおとぎ話だ。

 しかし、物理学を専攻する学生たちが、ガラスの靴にかかる負荷を計算して耐久性を評価したところ、シンデレラの幸せは、もろく砕け散っていた可能性が高いことが分かった。

 彼らによると、シンデレラが両足でじっと立っているときには、下向きの力は左右のガラスの靴に均等に分散している。しかし、歩いたり走ったりすると、下向きの力がすべて片方の足にかかってしまう。

 結論は? ヒールの高さが1.3センチ以上になると、ガラスの靴は割れてしまう。だから、シンデレラが王子の心をつかみたいなら、ハイヒールではなくフラットシューズを履くべきだ。(参考記事:「裸足で走る方が足への負担は軽い」

 英レスター大学が発行するオンラインジャーナル『Journal of Physics Special Topics』には、こうした物語の中のキャラクターに対する助言がいくつも掲載されている。学生同士が査読し合った論文だ。

 この課程を担当する物理学教授のマービン・ロイ氏は言う。「現実の世界は一つしかありません。比較的単純な問題はすでにネタが尽きているものも多いですが、フィクションに目を向ければ、検証できる問題がいくらでもあるのです」

1978年の映画で、スーパーマンは地球の自転方向を逆転させるという大きな過ちを犯した。(PHOTOGRAPH BY AF ARCHIVE, ALAMY)
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 フィクションを科学的に論じるのは、学生だけではない。古くから、一流の科学者たちが奇抜な論文を書いている。高名な海洋学者のカール・バンゼ氏は、「人魚:その生物学、文化、死」という論文を発表しているし、オックスフォード大学数学研究所のトマス・ウーリー氏も、拡散方程式を利用してゾンビの移動パターンを予測できることを示している。(参考記事:「カタツムリのゾンビ」

 好奇心の赴くままに行った研究が、予想外の洞察をもたらすこともある。ロイ氏がその例として挙げるのが、1990年代に発表されたコーヒーリング(コーヒーの滴が乾くときに、縁の部分に粒子が集まってできるリング状のしみ)に関する論文だ。「科学者たちがコーヒーリングの研究をしていたとき、多くの人が『それがどうした?』と思ったはずです。しかし今や、彼らが考案したモデルは、自己集合するナノ粒子などの技術に利用されています」

 ブログ「Deep-Sea News」(深海ニュース)の編集主任を務める海洋学者クレイグ・マクレーン氏は、「科学者も一般市民も、科学者が楽しむことを批判します」と言う。「けれども私は、楽しむために科学者になったのです。博士号のおかげでゴジラの体内で作られる尿の量を計算できるようになるのですから、オタクで結構だと思っています」

 マクレーン氏の精神で、ジャーナルに発表されたばかりの論文をいくつか紹介しよう。

スーパーマンは地球の向きを変えられる

 1978年の映画『スーパーマン』で、ヒロインのロイス・レーンの死を嘆くスーパーマンは、高速で飛行して地球の自転方向を逆転させるという方法で過去に行く。

 もちろん、こんな方法でタイムトラベルをすることは不可能だが、惑星の自転方向を逆転させることなど物理的に可能なのだろうか?(参考記事:「南極の湖でタイムトラベル」

 実はできる。アインシュタインの一般相対性理論によれば、運動する物体は光速に近づくほど質量が大きくなる。スーパーマンが高速で飛行し、その相対論的質量が平常時の1370万倍になれば、地球の自転の向きを変えるほどの大きな重力場が生じるからだ。

 あいにく、そのような重力場ができたとしても、地球は近くにある小惑星を引き寄せてしまい、地球自体が滅んでしまう。「だから、映画には『絶対にまねしないでください』という注意書きをつける必要がある」と学生は警告する。

サンタクロースは猛スピードでプレゼントを配るので、私たちより年をとるのが遅い。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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サンタクロースの若さの秘訣

 アインシュタインの相対性理論によれば、静止している人に比べて運動している人の時間はゆっくり流れる。

 この現象はサンタクロースにどんな影響を及ぼすか? 世界中の子どもたちに一晩(12時間)でプレゼントを配るためには、サンタクロースは光速の0.76%のスピードで移動しなければならない。その間、サンタクロースの時間は他人よりゆっくり流れる。

 1821年に初めて絵本に登場して以来、194年にわたってクリスマスイブにプレゼントを配り続けているサンタクロースは、時間の遅れにより、じっとしていた人より242秒分だけ若いことになるのだ。(参考記事:「もうすぐクリスマス、働くサンタクロース」

吸血鬼は「飲みすぎ」に注意

 吸血鬼がスマートに食事を楽しみたいなら、飲む血液の量は人間の全血液量の15%未満にすることだ。それ以上飲むと被害者の心拍数が増加し、首筋の動脈(外頸動脈)に開けた穴から血液が噴出し始める。ジュースを飲んでいたストローが、いきなり消防用ホースに変わってしまうような変化だ。

 流体力学に基づいた計算によると、吸血鬼が人間の外頸動脈から全血液量の15%を飲むのに要する時間は6.4分なので、時間になったらすぐに逃げ出すべきだという。(参考記事:「セルビアで「吸血鬼警報」、その真相は」

ヒーローの靴は燃えない

 テレビのヒーロードラマ『フラッシュ』では、超高速で移動できるスーパーヒーロー「フラッシュ」の靴が摩擦熱で発火するシーンがある。

 靴底がゴムだった場合、摩擦熱でゴムが燃え出すには秒速6911メートルで走る必要がある。しかし現実の世界では、靴のゴム底は秒速394メートルに達した時点で完全に磨耗してしまう。(参考記事:「ゴム景気で変わるアジア」

悪事を成功させる方法

 007シリーズ『ダイ・アナザー・デイ』で、悪の天才グスタフ・グレーブスは、太陽光を利用してレーザー光線を作り出す人工衛星「イカルス」を使って世界を危機に陥れた。イカルス衛星のソーラーパネルはどのくらいの大きさだろう?

 レーザー光線を発生させるために必要なエネルギーと、レーザー光線で地表を攻撃する際に受ける大気の影響を考慮すると、ソーラーパネルの大きさは4870平方メートルは必要になる。これは競泳用プールの4倍近い面積だ。(参考記事:「世界最大の水上メガソーラー、日本で建設」

「宇宙で組み立てる方法なら、この大きさの衛星でも製造できる可能性はある」と学生は結論づけている。「しかし、何度も打ち上げなければならないため、資金調達は非常に難しいだろう」。悪人もクラウドファンディングに頼るしかない?

文=Mark Strauss/訳=三枝小夜子

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