絶滅危惧種ユキヒョウを脅かす気候変動と遊牧民

地球温暖化でモンゴルの遊牧民がユキヒョウ暮らす山麓へ

2015.12.08
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鎮静剤の投与後、メスのユキヒョウ「テンゲル」は追跡用のGPS首輪を着けられた。ユキヒョウは希少な上、年々生存を脅かされている。モンゴルで活動するWWFの研究者たちは、首輪を着けたテンゲルや他のユキヒョウから得られた情報が保護区域を決めるのに役立つと期待している。(Photograph by Hereward Holland)
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 日の光が西モンゴルの空から消えるころ、神聖なジャルガラン山の麓に「山の化け物」が襲いかかった。ユキヒョウだ。

「家畜たちがとても恐れているのが分かりました。何かから逃げていました。近づいてみると、私のヒツジのうち1頭をユキヒョウが襲っていたのです」と、翌日、ミャグマリャン・マムクー氏は移動式住居ゲルの中で話してくれた。

 このユキヒョウはマムクー氏が以前からよく知る、「テンゲル」と呼ばれるメスの成獣だった。「もちろん、最初は腹が立ちましたが、慣れてしまいました」と、お椀に入れたミルクティーを私に出しながらマムクー氏は言う。

 マムクー氏は1000頭を超す家畜を世話している。ほとんどがヒツジとヤギで、馬が数頭。「今週ユキヒョウにやられたのは、このヒツジで3頭目です」と、マムクー氏は言った。怒っている様子はない。ひどい年には30頭が襲われたこともあるという。

ジャルガラン山の麓でヒツジとヤギの群れを移動させる羊飼い。モンゴルの人口260万人のうち3分の1以上が遊牧または半遊牧生活を営んでいるが、牧草地は減少し続けている。(Photograph by Hereward Holland)
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牧歌的な風景は昔話に

 マムクー氏が暮らす西モンゴルのアルタイ・サヤン山脈には、こんな民謡がある。

 雪が解け、泉から水があふれ
 青々と草が育ち
 カッコウが歌う
 まさに神秘、古く美しきアルタイ・サヤン

 だが、このように歌われる牧歌的な安息の地は、すでに昔話と化しつつある。モンゴルの人口約260万人のうち、3分の1以上がマムクー氏のように遊牧または半遊牧生活を送っているが、それを支える牧草地が減少しているのだ。(参考記事:「草原を去るモンゴルの遊牧民」

 中国とロシアに挟まれたモンゴルは、世界で2番目に大きな内陸国だ。その地理的位置、もろい生態系、そして牧畜という生活様式ゆえに、地球温暖化の影響を最も強く受ける国の一つでもある。

 過去30年で、この地域の年間平均気温は2.1度上昇している。

 その結果が、広範囲な砂漠化だ。ヒツジやヤギの放牧に長く使われてきた標高の低い草地は、今や牧畜に適さなくなった。国連の砂漠化対処条約(UNCCD)によれば、過去30年で国土の約4分の1が砂漠化し、850の湖と2000の川が完全に干上がったという。

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