「孔雀グモ」、派手な求愛は命がけの進化の産物

メスの選択でオスが進化し、魅力ないオスをメスが食べることも判明

2015.12.08
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「孔雀グモ(写真はMaratus volans)」のオスは、メスとつがうために命がけで奮闘しなければならない。(PHOTOGRAPH BY JURGEN OTTO
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「スケルトラス(骸骨風)」や「スパークルマフィン(きらきらマフィン)」などの芸名をもらった「ピーコックスパイダー(孔雀グモ)」のオスたちは、動物界で並ぶものがないほど華やかな歌とダンスのショーで知られる。だが新たな研究により、彼らのショーの主な聴衆(つまり彼らが求愛するメス)は、そう簡単には努力を認めてくれないことが明らかになった。(参考記事:「クジャクみたいに派手なクモの新種、3種を発見」

 12月1日に科学誌「英国王立協会紀要B」に発表されたこの研究は、動物界のオスたちが1匹のメスの愛を勝ち取るためにどんなに必死に競い合うかを端的に示すものだ。

 現在、さまざまな動物の求愛行動が知られているが、最近発見されたピーコックスパイダーの求愛行動は群を抜いて華やかで複雑だ。彼らの体の大きさを考えると、この事実はいっそう意外に思われる。ピーコックスパイダーたちは、5ミリにも満たない小さな体で、これだけ視覚と聴覚に訴えるパフォーマンスをやってのける。

 オーストラリア農業・水資源省の生物学者ユルゲン・オットー氏は、「哺乳類のように複雑な行動と、小さな体と、色鮮やかな模様の組み合わせは実に魅力的です」と言う。彼はダニの専門家だが、趣味で撮影したピーコックスパイダーの衝撃的な動画により、このクモを世界的に有名にした。「夢中にならずにはいられません」とオットー氏。(参考記事:「「青仮面」の新種のクモを発見」

スパークルマフィンと仲間たち Maratus volansをはじめ、多くのピーコックスパイダーが華やかなダンスショーを繰り広げる。最近発見されたばかりの色鮮やかなピーコックスパイダーをご覧ください。(Video courtesy: Jürgen Otto)

 論文の共著者であるオーストラリア、ニューサウスウェールズ大学のマイケル・カズモビッチ氏は、オスのピーコックスパイダーはメスを見つけた途端、「ほかのものは何ひとつ目に入らなくなる」と言う。クモは早速、科学者たちが「ランブル・ランプ」や「グラインド・レブ」などと命名した身振りを含む求愛ダンスを開始する。このダンスは地面を通してメスたちに振動を伝える。文字通りの「グッド・バイブレーション」だ。

 こうしてメスの興味を引くことができたら、オスは独特な色をした長い足を激しく振り動かしながら、腹部にある色鮮やかな扇のような部分を広げて見せびらかす。

メスが望むものは

 けれどもダンスは一人では踊れない。研究者たちは、この求愛の儀式にメスがどのように参加し、反応するのか、厳密には知らなかった。ピーコックスパイダーのメスは、美しい体を見せびらかし、小刻みにふるわせるオスに、何を求めているのだろうか? オスの鮮やかな色は、本当にパートナー探しと関係があるのだろうか?

 この点を確認するため、米カリフォルニア大学バークレー校の博士課程大学院生マデリン・ジラード氏は、オーストラリアのシドニーを訪れてピーコックスパイダー(Maratus volans)を集め、オスと交尾をしたことのないメスからなるペアを64組作った。そして、カズモビッチ氏が言うところの「求愛競技場」にそれぞれのペアを閉じ込めた。この競技場の床はストッキング張りで、周囲はカメラに囲まれている。

 ジラード氏は、この素朴な仕掛けを使ってオスのダンスの振動と足振りを検出しつつ、メスの反応を観察した。

 その結果、メスはオスの求愛ダンスに必ずしも見惚れるわけではないことが分かった。メスは、オスが最初に振動を伝えてくるときに、興味の有無に応じて、オスの方を向いたり、そっぽを向いたりする。なかには攻撃的な反応をするメスもいて、腹部をすばやく揺らしてオスを拒絶するものもいる。もっと悲惨なケースもあった。「気に入らないオスを食べてしまうメスもいます」とカズモビッチ氏。(参考記事:「交尾の後にメスの交尾器を壊してしまうクモを発見」

ダンスより見た目を重視

 今回実験を行った64組のカップルのうち、メスがオスのダンスを気に入ったのは16組だけだった。さらにこの16組について、メスの関心を引く上でそれぞれは若干異なる役割を果たしているものの、見た目がダンスの約2倍も重要であることが明らかになった。

 ピーコックスパイダーの求愛行動が視覚に訴えるものであることは、さして意外ではない。彼らはクモの巣を作らず、獲物に忍び寄って飛びかかるために視力が発達しているからだ。

 オーストラリア、マッコーリー大学のマリー・ハーバースタイン氏によると、「メスたちが色鮮やかで複雑な求愛行動をするオスをつがい相手として好んだ結果、茶目っ気たっぷりのオスが進化してきた」ことを明確に示した今回の研究は、研究者から高く評価されているという。「こうした関連が直接証明されることはめったにないからです」。見た目とダンスのように、複数の要素が関係する例は特に少ない。なお、ハーバースタイン氏は今回の研究には関与していない。(参考記事:「クジャクの目玉模様、進化の謎を解明」

 けれどもまだ疑問が残っている。メスたちがオスの色鮮やかな柄のどこを見ているのかは不明であり、そもそもなぜオスたちが派手になっていったのかも分からないままだ。「ダンスをするようになったのが先で、それから色が派手になっていったのでしょうか」とハーバースタイン氏は言う。「それとも、色と身振りと振動は同時に進化してきたのでしょうか?」

 ただ1つ明らかなのは、オスのピーコックスパイダーが、セックスのために命がけで異性にアタックしているということだ。

「メスは驚くほど大きな影響力を持っています」とカズモビッチ氏は言う。「メスの好みに合わなければ、オスは子孫を残せないだけでなく、命を奪われるおそれがあるからです」

文=Michael Greshko/訳=三枝小夜子

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