シリアの遺跡を破壊しているのはISだけではない

米国の研究者が1450カ所の衛星画像から分析

2015.12.01
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6月の政府軍の空爆で深刻な被害を受けた、シリアのマアッラト・アン=ヌウマーンにある考古学博物館。16世紀の隊商宿を利用していた。(PHOTOGRAPH BY GHAITH OMRAN, AFP, GETTY IMAGES)
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 過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員がシリアの遺跡を破壊・爆破する映像が、世界を震撼させている。だが、米国の考古学者が改めて衛星画像を分析したところ、その目立った行動によって、被害の実態認識があいまいになっているかもしれないという。

 チームは紛争地域にある1450カ所の遺跡の衛星画像を分析、およそ4分の1が2011年に始まった内戦で略奪・破壊されていることがわかった。

 略奪や破壊に遭った遺跡のうち、半数以上はクルド人勢力に続いて台頭した反政府勢力の支配地域にある。いっぽうIS(別名ISIS、ISIL)が主張する破壊は全体の4分の1で、残りがアサド大統領の制御下にある地域の遺跡での破壊だった。(参考記事:「「イスラム国」が破壊した文化遺産」

「略奪件数は、シリア政府やISの支配地域よりも、クルド人や反政府勢力の支配地域の方がはるかに多いのです」と、分析チームを率いる米ダートマス大学の考古学者、ジェシー・カサナ氏は言う。

 自治政権が機能していない地域で略奪が急増する傾向なのは、驚くような結果ではないと、カサナ氏は11月に米国アトランタで開催された会合で語った。シリア北部アレッポなどの紛争地域では、IS支配地域以上に深刻な打撃を受けているのだ。

IS侵攻後の9月に破壊されたシリアのパルミラにあるベル神殿。約2000年前に建立されたものだ。広い基壇の中央に神殿があったが(上)が、跡形もなくなってしまった(下)。(PHOTOGRAPH BY DIGITALGLOBE, GETTY IMAGES)
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 シリアには、新石器時代の集落から中世のモスクまで、6500以上の遺跡がある。遺跡の被害の度合いを「小規模」「中程度」「大規模」に分類すると、IS支配地域の遺跡が受けている被害は、シリアのほかの地域に比べて「大規模」な可能性が高いという。「ISが認めたであろう組織的な略奪が行われている証拠である、という見方もできます」とカサナ氏はつけ加えた。

 しかし、遺跡を一掃するというISの宣伝活動よりもむしろ、混乱状態にある地域の方が問題は深刻だ。統制が機能していないため、遺跡を掘り返して美術品を世界市場で売りさばく集団や個人が後を絶たない。さらに、紛争地域の軍事行動が、文化遺産を危険にさらしている。(参考記事:「専門家に聞く、「イスラム国」遺跡破壊のねらいは?」

 例えば、シリア各地に点在する古代集落跡は、戦闘の拠点にされることがある。カサナ氏のチームは、シリア政府の支配下にあるテル・ジファールなどの遺跡に駐屯地を建設するブルドーザーを追跡した。テル・ジファールにおける略奪には、政府軍が許可を出したり、関与したりしていることがわかっている。

「ISの過激な手段は、当然のことながら世界中を憤慨させました。しかし、それはまた、この地域の遺跡が置かれた状況に対する誤解にもつながっています。私たちは、誰が責任をとるのか、どう対処すればいいのか、という点に着目しています」と、カサナ氏は言う。

 分析はまだ継続中だが、米アーカンソー大学の考古学者エリース・ロージェ氏も、シリアでは過去5年で、紛争前の数十年に匹敵する件数の略奪が起きているとつけ加えた。

認められた略奪

 皮肉なことに、IS支配地域での略奪の割合が低いのは、このテロ組織がシリア北部と東部に対して一方的に出した命令が背景にあるようだ。「彼らには、略奪を制限したり、略奪の許可をもたない者を罰したりする制度があるんです」とカサナ氏は言う。

 今年の5月、米国の特殊部隊は、シリア東部の村を急襲すると、銃撃戦の末にIS幹部のアブ・サヤフを殺害。美術品(多くは偽物)と、ISが古美術品取引に関与していることを示す書類を押収した。

 米国務省が公開した書類によると、サヤフ幹部はIS組織で遺跡関連を担当。シリア国内における略奪の許可を出していたという。

シリア軍による11月7日の攻撃後、瓦礫を掘り返すアレッポの住民たち。ここにはかつて、中世の建築物が多く残る、中東を代表する古代都市だった。(PHOTOGRAPH BY IBRAHIM EBU LEYS, ANADOLU AGENCY, GETTY IMAGES)
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 IS幹部たちは、9月の総会で次のような覚え書きを確認している。「いかなる同胞も、遺跡を掘り返すこと、押印のある許可証なくして一般人に許可を与えることを禁じる」

 許可を受けた者は、利益の20%をISに収めることになる。これは、伝統的なイスラムの「戦利品」代で、破れば罰せられる。押収した覚え書きによると、4月までの4カ月間で、ISは総額125万ドルの売却益から税金として26万5000ドルを受け取っていた。

「これは氷山の一角に過ぎません」と、ISの資金の流れを監視している米国務省担当官、アンドルー・ケラー氏は言う。9月のスピーチで同氏は、ISは「売却税をただ受け取るだけでなく、最大限の利益を得るために、積極的に取引をコントロールしています」と語った。ケラー氏は、ISは2014年半ばから、古美術品の売却で数百万ドルを得ているとみているが、正確な数字はわかっていない。

 米国政府は現在、こうした略奪ネットワークを断ち切るために動いており、その一環としてシリアからの古美術品の流出を阻止する重要な情報には、最高500万ドルの懸賞金を出すとしている。(参考記事:2015年3月号特集「ISから逃れて国境を越える」

文=Andrew Lawler/訳=倉田真木

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