蛍光に光るウナギの仲間を発見、世界初

2011年に偶然撮影された謎の魚をついに特定

2015.11.17
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すべてはこの写真から始まった。2011年、デビッド・グルーバー氏がカリブ海の英領リトルケイマン島で撮影した写真に、緑色に蛍光発光するウナギのような魚が写り込んでいた。(PHOTOGRAPH BY JIM HELLEMN)
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 ビデオで撮影された蛍光ウミガメに続いて、今度は緑色に蛍光発光するウナギの仲間だ。

 鮮やかな緑色に蛍光発光する魚が野生で初めて撮影されたのは2011年にさかのぼる。ナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラーで米ニューヨーク市立大学の海洋生物学者であるデビッド・グルーバー氏が、カリブ海の英領リトルケイマン島で撮影していた写真に、小さなウナギのような魚が写り込んだときだった。

 そのとき彼が撮影した蛍光発光するサンゴの写真のなかで、指ほどの体長の細長い魚はひときわ明るい光を放っていた。(参考記事:「色鮮やかに光るサンゴを発見、深い海なのになぜ?」

 グルーバー氏は「これを見た瞬間、はっとしました。サンゴのように明るく光る魚などありえなかったからです」

 この発見をきっかけに、海洋動物の生物蛍光に関する新たな研究が始まった。現時点で、生物蛍光を示す魚が180種以上発見され、驚くほど多くの海洋脊椎動物が光を操作して青一色の環境に色彩を作り出していることが明らかになっている。

 なお、生物が化学反応によってみずから発光したり、発光する細菌の宿主になったりして光を発する現象が「生物発光」と呼ばれるのに対して、「生物蛍光」は、生物に光が当たったときに別の色の光を放出する現象だ。(参考記事:「光る生き物の世界―さまざまな生物発光」

 今回、グルーバー氏の研究チームは、4年前に最初に見た光るウナギのような魚の正体を明らかにした。ここまでの道のりは容易ではなかった。

イワアナゴ(Kaupichthys hyoproroides)の蛍光は、満月の夜に繁殖のためのパートナーを探すのに役立っているのかもしれない。(PHOTOGRAPH BY DAVID GRUBER, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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「この種の魚が人目につくことはめったになく、見つけるのが非常に難しいのです」と彼は言う。「あのとき私が偶然撮影した写真は、この魚の野生の姿を捉えた最初の写真でもありました」

 11月11日に科学誌「PLOS ONE」に発表されたグルーバー氏らの論文では、蛍光を放つウナギの仲間が2種特定されている。1つはイワアナゴ(Kaupichthys hyoproroides)で、もう1つは、同じイワアナゴ属ではあるが、これまでに知られていない、学名もまだない魚だ(ちなみに、イワアナゴはウナギ目ウツボ亜目で、アナゴ亜目でもウナギ亜目でもない)。2011年に撮影された魚がどちらであったのかは分からない。

出会いは満月の下で

 写真撮影後の調査で、グルーバー氏らはバハマ諸島のリー・ストッキング島でこの2種のイワアナゴの標本を1体ずつ入手することができた。


蛍光発光するウミガメを発見(解説は英語です。撮影:David Gruber)

 グルーバー氏によると、イワアナゴの筋組織を分子レベルで調べた結果、未知の蛍光タンパク質が緑色の光を生み出していることが明らかになったという。彼のこの研究は、ナショナル ジオグラフィック協会/ウェイト助成金プログラムの支援を受けて行われた。(参考記事:「蛍光色に光る動植物」

 この蛍光タンパク質は、イワアナゴの進化の歴史のどこかで、イワアナゴの脳から筋肉へと移動し、そこで蛍光するようになったという。

 その後、イワアナゴの体の蛍光タンパク質は「強く選択」されるようになった。これは、蛍光に特定の機能が備わっていることを意味する。

 蛍光が果たす役割はまだ分かっていないが、グルーバー氏は、ふだん単独で暮らしているイワアナゴが繁殖時期に相手を見つけるのにこの光を利用しているのではないかと考えている。

「イワアナゴたちは、ある時期に隠れ家から出てきて繁殖しなければなりません」と彼は言う。「私は、満月の夜という仮説を立てています」。満月の青い光がイワアナゴを緑色に蛍光させるのだ。

 日本大学ウナギ学研究室のマイケル・ミラー氏も、イワアナゴが生物蛍光を利用して夜間にお互いを見つけ、産卵のための集団を形成するという見方に同意する。(参考記事:「ウナギ大海原の旅、衛星タグで初めて追跡」

 ミラー氏は本誌への電子メールで、「イワアナゴの捕食者の多くがそうした蛍光を見ることができないなら、イワアナゴの蛍光は、繁殖の可能性を高め、捕食されるのを避ける、すばらしい仕組みだと言えます」と指摘する。なお、彼は今回の研究には関与していない。

生物蛍光は、光に当たった生物が別の色の光を放出する現象だ。(PHOTOGRAPH BY DAVID GRUBER, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 ミラー氏は、研究チームがイワアナゴを発見したこと自体に驚いている。「イワアナゴが目撃されたり、捕獲されたりすることはめったにありません」と彼は言い、蛍光を発するイワアナゴは、主として緑色の蛍光を発するサンゴの中に隠れるために進化してきたのかもしれないと推測する。

小さな魚の大きなインパクト

 グルーバー氏は、海は青以外の色をブロックする「巨大な青色フィルター」だと言う。視覚が重要な役割を担っている魚などの動物は、生物蛍光を利用して、青い世界に青以外の色を作り出している。蛍光を発するイワアナゴは、このしくみを解明するためのモデルになると期待される。

 セントクラウド州立大学(米国ミネソタ州)の生物学教授マシュー・デイビス氏は、蛍光を放つ魚たちが作り出す光のショーは「クジャクの尾やヤドクガエルの皮膚のように驚異的で美しい」と言う。

 蛍光を発するイワアナゴが発見されるまで、海洋脊椎動物の生物蛍光を探し求めていた研究者はいなかった。

 デイビス氏は、その後の発見は「蛍光が海洋脊椎動物の進化に果たす役割の重要性について、私たちの認識を一変させました」と言う。

 今、どこに隠れているのかは知らないが、あの日、写真に写り込んだ小さなイワアナゴに感謝。

文=James Owen/訳=三枝小夜子

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