シリア難民、落ち着き場所は見つかるか

知らないうちにオーストリアからスロバキアに移送

2015.09.28
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ヨーロッパのイスラム化の阻止を主張するグループが組織する集会。こうした集会を極右政治家が支援している。(PHOTOGRAPH BY SAMUEL KUBANI, AFP, GETTY IMAGES )
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 9月中旬、スロバキアの首都ブラチスラバから車で1時間ほどのところにある小さな町に、24人の若い男性がバスで到着した。彼らの多くは、内戦の続くシリアからトルコに逃れ、エーゲ海を渡って、ギリシャ、マケドニア、セルビア、ハンガリーを経由し、1カ月以上かけてオーストリアにたどり着いた人々だ。(参考記事:「ハンガリー国境閉鎖で難民不安、写真家が撮影」

 シリアの首都ダマスカス郊外からやって来た24歳のマフムード・アロクラは「祖国でもっていたものを、すべて失いました」と言う。「兄弟や姉妹を亡くし、有り金をはたいてオーストリアを目指しました。それなのに、こんなところに連れてこられたのです」

 オーストリアへの滞在を希望するアロクラらが移送されてきたのは、スロバキアのガブチコボという町の難民キャンプだ。彼らはオーストリアのIDカードを誇らしげに見せてくれた。オーストリアに家族がいる人もいたが、オーストリアとスロバキアの取り決めにより、バスに乗せられ、スロバキアに連れてこられてしまった。一緒にシリアから逃げてきた家族と引き離されてしまった人もいる。

 数年にわたる内戦と過激派組織「イスラム国」(IS)の勢力拡大により、数十万人のシリア人が安全な暮らしを求めて国外に脱出し、難民として保護を求めている。こうしたシリア人と、中東や北アフリカの危険地域を逃れてきた数千人の難民の落ち着き場所をめぐって、EU加盟国に不安と混乱が広がっている。

 26歳のアブデルカリム・アロルフィは、難民収容キャンプの建物の崩れかけた階段に腰かけながら、「私はウィーンに行きたいんです」と言う。彼はオーストリアから移送される際に、兄の家族とはぐれてしまった。「ここは嫌な場所です。いつも警察官に見張られています」

スロバキアのガブチコボで荷物を受け取る難民たち。(PHOTOGRAPH BY IGOR SVíTOK, DEMOTIX, CORBIS)
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 難民キャンプとして使われている建物はスロバキア工科大学が所有するものだが、ひどく荒れている。以前もここに難民を収容していたが、6年前から使われなくなっていた。駐車場にはパトカーが1台停めてあり、数台のパトカーが巡回している。

スロバキアは難民受け入れに消極的

 ここ数週間、中東から西欧に流入する難民の数が「危機的水準」に膨れ上がっているが、スロバキア政府は難民の受け入れに消極的だ。

 7月末、スロバキアはオーストリアに滞在している難民のうち500人をガブチコボ難民キャンプに一時的に収容することに同意した。けれども8月初旬に地元で住民投票が行われ、97%近くの住民が難民のキャンプ滞在に反対票を投じた。

 8月中旬には、スロバキア政府が200人のシリア難民の受け入れに同意したが、当初は、受け入れるのはキリスト教徒の難民に限ると表明していた(英BBCによると、紛争前には、シリアのキリスト教徒の割合は約10%であったという)。

 ブラチスラバでは、スロバキアとヨーロッパの「イスラム化」に反対するデモが頻繁に行われている。難民たちがガブチコボに移送されてきた日の前日にも、1000人以上が抗議デモに参加した。今月は、極右政党である人民党がガブチコボで移民の受け入れに抗議する集会を計画して警察によって阻止されるという事件も起きている。

 9月22日には、EU法相・内相理事会でEU加盟国が12万人の難民を分担して受け入れる案が承認され、スロバキアのような小国でも約1万人の難民を受け入れなければならなくなった。スロバキアをはじめとする4カ国はこの案に反対票を投じており、スロバキアのロベルト・フィツォ首相は、この案の決定後も分担を拒否している。

 アロルフィは60日はスロバキアにいるつもりだと言うが、5日で出たいと言う人もいる。少し離れたところで携帯電話で話していたある男性は、話の途中でまわりの人々にアラビア語で「俺たちはどこにいるんだっけ?」と尋ね、数人が「スロバキアだよ」と教えていた。

 彼らは、自分たちがなぜスロバキアに連れてこられたのかわからないと言う。オーストリアでバスに乗せられたときにも、どこに行くかは知らされなかったそうだ。

 33歳のデワン・ムハンマドは、「まるで動物扱いですよ」と言う。「今日はここにいますが、明日はどこにいるかわかりません。これが私たちシリア人の現状なのです」。(参考記事:「戦火を逃れ 国境を越えるシリア難民」

内戦の続くシリアを逃れてはるばるオーストリアにやって来た難民グループは、知らないうちにスロバキアのガブチコボに移送されていた。ハンガリーとの国境に近いガブチコボの住民の多くはハンガリー人で、難民の受け入れに反対している。アブデルカリム・アロルフィ(写真右)とタレク・アブードは、ほかの多くの難民とともにオーストリアに難民申請を行い、認定されるのを待っている。(PHOTOGRAPH BY MEGHAN SULLIVAN)
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滞在は一時的か、それとも恒久的か

 難民たちが到着する前日、スロバキアのビリアム・チスラーク保健相はマスコミに対して、すべての移民が良好な健康状態でワクチン接種を受けている必要があると語った。同じ日に、ロベルト・フィツォ首相とロベルト・カリナク内相は、ドイツの支持が得られれば、スロバキアとチェコはドイツを目指す難民が安全に国内を通過できる道を作るつもりだと発表した。

 スロバキアの人口は550万人で、国民の多くは、社会的にも経済的にも大勢の難民を受け入れる余地はないと考えている。フィツォ首相は、現行の制度ではテロリストの侵入を防ぐことができないと主張している。18日には、ミロスラフ・ライチャーク外相が米国の公共ラジオ放送NPRのインタビューを受けて、豊かな暮らしを求めてシリアから脱出してくる人々を難民として保護するのはナンセンスだと語った。

 「ときどき、誰からも敬意を払ってもらえないような気がします」とアロクラは言う。「オーストリアでの状況は厳しいですが、友人や家族がいます。私たちがここに来たのは戦争のせいです。私はただ、姉の近くにいたいのです。近くにいるだけで安心できるのです。皆さんに家族がいるように、私たちにも家族がいます。皆さんに感情があるように、私たちにも感情があります。私たちを人間として見てくれれば、敬意を払ってくれるようになるでしょう」。

 スロバキア政府が提供する昼食を求めて難民たちがカフェテリアに向かうとき、ベビーカーに幼い孫を乗せた地元の女性が通りかかった。この状況をどう思うかと尋ねると、彼女は黙って肩をすくめた。

 彼女の町には、今後、もっと多くの移民がやってくるかもしれない。その滞在が一時的なものになるのか、恒久的に滞在して社会に加わってくるのかは、まだわからない。(参考記事:「シリア難民300万人を待つ過酷な現実」

文=Meghan Collins Sullivan/訳=三枝小夜子

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