チェコの水中洞窟、深さ世界一の可能性

特殊装備で水深200m超へ、危険な潜水調査の全貌を聞いた

2015.09.09
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【動画】世界一深いとみられる水中洞窟の探検の様子

 チェコ東部のヘラニツェ深淵は世界で2番目に深い水中洞窟と考えられていた。2015年7月からポーランドの洞窟ダイバーチームが、この水中洞窟の調査を続け、同洞窟が世界一深いと考えられると発表した。同チームの活動には、ナショジオも支援している。 (参考記事:2010年8月号「水中洞窟 隠された過去」

 チームを率いるクシシュトフ・スタルナフスキ氏(47歳)は、「閉鎖式リブリーザー」(呼吸で排出した空気から二酸化炭素を取り除き、酸素を補充して再利用する循環式呼吸装置)による潜水の世界記録(283メートル)を持つダイバーで、ヘラニツェ深淵には1999年から潜っている。2014年2月、スタルナフスキ氏は、当時、洞窟の最深部と思われた深さ200メートルの地点に到達し、そこから「スクイーズ・パッセージ」と呼ばれる狭い隙間を通り抜け、さらにその奥に深い縦穴が続くことを発見。ケーブルをめいっぱいまで下ろしてみたところ、水面からの深さは384メートル以上あることがわかった。これは現在「世界一深い水中洞窟」とされているイタリアのポッツオ・デル・メッロにあと8メートルに迫るもので、ヘラニツェ深淵こそ世界一深い水中洞窟である可能性が高まった。

MANUEL CANALES AND KELSEY NOWAKOWSKI, NG STAFF
SOURCES: HRANICE KARST, CZECH SPELEOLOGICAL SOCIETY; KRZYSZTOF STARNAWSKI
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 2015年7月上旬に、スタルナフスキ氏はさらに長いケーブルを持ってもう一度潜ったが、どうやら前回の潜水のあとスクイーズ・パッセージが崩れたようで、その瓦礫が2番目の縦穴に落ち込んでしまっていた。ケーブルを縦穴に下ろしてみると、底までの深さは前回よりも浅く、370メートルであった。

 その後、チームはバルト海での潜水中にメンバーの1人が行方不明になったことから、しばらく活動を休止。しかし、最近になって再度ヘラニツェ深淵を調査することにした。そして8月21日、スタルナフスキ氏は測定器を下ろすのに適した新たな通り道を探すため、265メートルの深さまで潜った。これから数週間にわたる調査で、彼らはここが世界で最も深い水中洞窟であることを証明したいと考えている。

チェコにある水中洞窟の探索を行うポーランド人チームを率いるのは、潜水の世界記録を持つクシシュトフ・スタルナフスキ氏。今回の探索により、水中洞窟の深さの世界記録が更新されるかもしれない。
(PHOTOGRAPH BY BARBORA KUBACKOVA)
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 今回の探査と水中洞窟でのダイビングについて、スタルナフスキ氏に話を聞いた。

――バルト海で難破船の探査中に、チームメンバーのマチェイ・ヴィーロフスキ氏が行方不明になり、ヘラニツェ深淵の探索計画を一時休止していたそうですね。
 マチェイは私の教え子であり友人でした。ヘラニツェ深淵プロジェクトのサポートダイバーもしてくれていました。救助隊が彼の遺体を発見できなかったので、私たちは捜索に出ました。3日間探し続けましたが見つけられず、その後、ポーランド海軍も出動しましたが、成果はありません。今後もできるかぎり機会を見つけて捜索を続けるつもりです。

――あなたがヘラニツェ深淵が世界一深いと考える根拠は?
 たいていの洞窟は、落ちてくる雨によってつくられたものです。でも、この洞窟は火山のように、底から湧き出す熱い鉱水によって形成されている点がまったく違います。こういったタイプの洞窟は世界に三つしかありません。ここに潜るたびに新たな発見があります。

――洞窟の深さはどのように証明するのですか?
 最初は測鉛線を使っていましたが、今は特殊な電子測定器で測定を行っています。これは200メートルの長さのケーブルの先端に圧力センサーが付いたもので、潜水探査前にポーランドの中央度量衡局によるチェックを受けています。

――あなたの持つ潜水の世界記録は283メートルですが、300メートル以上の記録には挑戦されないのですか?
 リブリーザーは、炭酸ガスを吸い込む危険が伴います。どのくらいまで大丈夫なのか、限界は誰にもわかりません。私の前の世界記録保持者だったデヴィッド・ショーは、記録を作った約1年後の2005年に同じ場所で潜水をして命を落としました。二酸化炭素を吸い込みすぎたことが原因でした。

――高圧神経症候群(HPNS)とは?
 HPNSは水深150メートルくらいまで潜ったときに起こる障害です。水圧が脳の軸索(他の細胞へインパルスを伝える神経線維)を押しつぶすのです。最初は震えがきて、視野狭窄が起こり、やがて体全体に影響が出てきます。

――深く潜ると体に大変な水圧がかかりますが、減圧はどのように行うのでしょうか?
 深い水底で3~4分間いただけでも、減圧には6~7時間必要です。もし、すぐに水面に上がろうとすると、血液が沸騰して5分も経たずに死んでしまうでしょう。1度目は予備の空気を持ったサポートダイバーが待っている水深約130メートルで減圧を行います。最後は、水深10メートルで、グラスを逆さにしたような形の減圧室に入ります。本格的な減圧はこの時点で行われるため、ここで数時間過ごすことになります。ひどく退屈ですが、スタッフが食べ物、水、雑誌などを持ってきてくれます。ただし洞窟内の空気は二酸化炭素が多いので、リブリーザーは外さずに減圧します。

――それほど危険なダイビングを、なぜ続けるのですか?
 未知の世界を探検し、誰も限界を知らない領域へ踏み込むわけですから、装備自体も独自のものを設計、製作しなければなりません。すべてを自分の力で解決しながら未知を解明する――私には、そうしたすべてがおもしろく、エキサイティングなのです。

――次の目標はなんでしょう?
 ヘラニツェ深淵は、私の最大の関心事です。今はここが世界で一番深い水中洞窟であることを証明することしか考えられません。ただ成功しても、それに満足することはできないでしょう。その後はまた新しいプロジェクトを探すと思います。

【ナショジオのまとめ】ナショジオだから行けた!究極の洞窟
詳しくはこちら(Photograph by Carsten Peter)

文=Mark Synnott/訳=北村京子

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