イルカ・クジラの「潜水病」、集団座礁の一因か

ハクジラ亜目の減圧症のリスクを解明した最新の研究より

2015.08.25
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米国ハワイ島コナ地区沖のコブハクジラ(Mesoplodon densirostris)。コブハクジラをはじめとするアカボウクジラ科のクジラの顎の脂肪は、窒素ガスを溶かし込む能力が高いことが明らかになった。(PHOTOGRAPH BY CHRIS NEWBERT, MINDEN PICTURES/NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 海中での生活に適応しているにもかかわらず、スキューバダイビングをしている人間と同じように、イルカやクジラも潜水病(減圧症)になる可能性が最新の研究で明らかにされた。

 減圧症とは、水中を急浮上して水圧が急に下がると、血液や体液に溶け込んでいた気体が気泡となって、血液や臓器の中にエアポケットを形成する現象だ。発症すると筋肉や関節の痛みを生じるだけでなく、死に至ることもある。ヒト以外の潜水する動物については、減圧症の研究は進んでいない。動物の組織中で、これらの気体がどうなるのかほとんど知られていないからだ。(参考記事:「海生哺乳類が長く潜水できる理由」

 今回、米ノースカロライナ大学ウィルミントン校の研究チームは、海洋哺乳類の組織(詳しく言うと、マッコウクジラハンドウイルカのように歯を持つハクジラ亜目が反響定位に使う顎の脂肪組織)が、減圧症の一因となる窒素ガスをどのように取り込むかを調べた。その結果、脂肪に溶け込む窒素ガスの量は脂肪の組成によって決まることと、脂肪の組成はクジラの種類ごとに異なることが明らかになった。(参考記事:「オキゴンドウ(ハクジラ亜目)の高度な反響定位能力」

 研究チームは、この発見と潜水する頻度や深さに関するデータとを組み合わせることで、クジラが減圧症になるリスクを見積もり、なかでもゴンドウクジラとアカボウクジラのリスクが高いことなどを8月19日付の科学誌「Journal of Experimental Biology」誌に発表した。

大量座礁との関係も?

 ハクジラ亜目のアカボウクジラは、クジラの中でも特に深く潜水し、その生態はよく知られていない。かつて科学者たちは、こうしたクジラは減圧症にならないと考えてきたが、データが集まるにつれて、そうとも言えない可能性が高まっている。(参考記事:「哺乳類最強の潜水能力?アカボウクジラ」

 2002年、カナリア諸島で14頭のアカボウクジラが集団座礁した。その死体を解剖したところ、減圧症の兆候である気泡が組織中に確認され、直前に周辺で行われていた海軍の国際軍事演習で使われたソナーとの関連が指摘されている。

 深海に潜水する動物の生理学を研究している米テキサスA&M大学の生物学教授アンドレアス・ファールマン氏は、今回の研究には参加していないが、「もし仮に、たとえばソナーがクジラの減圧症を引き起こしているとしたら、それを防ぐために何ができるのでしょうか?」と問いかける。(参考記事:「海軍ソナーからクジラを守る地上の戦い」「イルカと話せる日は来るか」「ダイオウイカを殺すソナーの騒音」

気体が多いほどリスクが高い

 ソナーの音波がクジラを驚かせて異常行動をとらせ、健康を害するしくみを解明するためには、クジラの体組織に溶け込める窒素ガスの量に関するデータが必要だ。

 そうしたデータは、これまで存在していなかった。研究者らは、オリーブオイルのほか、牛や羊の骨髄についてのデータは収集してきたが、海洋哺乳類は調べていなかったのだ。

 そこでノースカロライナ大学ウィルミントン校の大学院生ジーナ・ロナティ氏は、クジラやその他の海洋哺乳類の頭部を集めて、その脂肪を抽出した。

「こうした動物が減圧症になるかどうかを知るためには、脂肪にどれだけの量の窒素を蓄えられるかを明らかにする必要があります」と彼女は言う。「多くの窒素を蓄えられるほど、急浮上による影響がより大きい可能性があります」

地道だが重要な研究

 ロナティ氏によると、このプロジェクトを引き継いだ研究者は、より多くの種類の海洋哺乳類を対象として、血管系のガス交換について調べているという。彼女は、自分の研究がきっかけとなって、潜水時における海洋哺乳類の窒素ガス調整モデルが書き換えられることを期待している。

 ファールマン氏は、今回の研究結果は、船舶や気候の変化がクジラなどの海洋生物に及ぼす影響を見積もる際にも、役に立つかもしれないと考えている。

「彼らの研究はとても単純で細かいものに見えるかもしれませんが、非常に難しい計測を行う彼らの仕事は実に驚異的です」と彼は言う。「このような研究の積み重ねが、海洋哺乳類の潜水の生理を徐々に明らかにしていくのです」

文=Brian Clark Howard/訳=三枝小夜子

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