謎のゼリー玉が大量漂着、その意外な正体とは

米東海岸で報告相次ぐ。実は温暖化対策の救世主?

2015.07.27
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最近、米国東海岸に大量に漂着しているゼリー状の塊は、クラゲの卵ではなくサルパという動物だ。(PHOTOGRAPH BY CHRIS COMBS, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 海岸に打ち上げられたクラゲは世界中どこでも見られる。場所によっては、10億匹ものクラゲが砂浜を覆い尽くすこともある。けれどもこの夏、米国の東海岸を訪れる人は、ぎょっとするような光景を目にすることになる。親指の先ほどの大きさの透明でプルプルした樽型の生物が、海岸に無数に打ち上げられているのだ。(参考記事:「10億匹の青いクラゲが大量死、米国西海岸で」

 このゼリーの玉は「サルパ」という動物だ。外見からしばしばクラゲの卵と勘違いされるが、分類学的にはクラゲよりヒトに近い。

 米国マサチューセッツ州、ウッズホール海洋学研究所の副所長で研究部門長であるラリー・マディン氏は、サルパとクラゲの共通点は、ゼラチン質の体を持ち、海中を漂っていることぐらいしかないと言う。

 また、ニュージャージー州、モントクレア州立大学の海洋生物学・沿岸科学プログラム長のポール・ボローニャ氏は、大量のサルパが海岸に打ち上げられるのは風向きや海流が変化したせいであり、定期的に起こる現象だと説明する。

 7月11日と12日にメリーランド州オーシャンシティーで発生した大量漂着もこれだった。マディン氏によると、マサチューセッツ州のケープコッドにもサルパが漂着しているという。

 似たような生物としては、7月15日にニュージャージー州アトランティックシティーの海岸に打ち上げられて話題になったカツオノエボシがある。ボローニャ氏のもとには、去年ニュージャージー州の沖合で多数のハコクラゲを見かけたという報告も届いている。カツオノエボシハコクラゲは猛毒を持つので非常に危険だが、サルパは無害なので安心されたい。

奇妙なセックスライフ

 マディン氏の説明によると、サルパはホヤなどと同じ尾索動物というグループに属している。尾索動物には、クラゲにはない「脊索」という原始的な脊椎がある。サルパは、長くつながったクローン個体を「産む」ことができ、近年の研究により、この特性が地球温暖化防止の切り札になる可能性が示唆されている。(可愛いすぎる!ホヤの壁紙はこちら

インドネシアのバリ島付近の外洋を漂うサルパ。多数の個体が連鎖している。(PHOTOGRAPH BY REINHARD DIRSCHERL, ULLSTEIN BILD/GETTY IMAGES)
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 サルパは、南極大陸付近から北極のすぐ南までの広い地域に、約50種が分布している。海岸でよく目撃されるのは指先ほどの大きさのものだが、体長約30cmにもなる種もある。

 サルパのライフサイクルには、出芽という方法で無性生殖する時期がある。1匹のサルパが雌雄同体のクローンを多数作るのだ。クローンはしばらくずっとつながったままで、15mもの連鎖をつくる種もいる。マディン氏によると、なかには車輪状や二重らせん状になるものがあるという。

 やがて、サルパの連鎖はばらばらになる。自由になった単独個体はまず、卵を1つ持つメスになる。この卵を前の世代のオスたちが受精させて、メスの体内で胚に育つ。次に、「母親」になったメスの体内で精巣が形成され、これが「前の世代のオス」として、近くにいるほかのサルパの卵を受精させるが、その間も体内では胚が成長を続けている。ついには母親の体内から赤ちゃんサルパが飛び出し、新たにクローンの連鎖を作るべく成長する。(参考記事:「再生能力を持つ生物、代表5種」

 マディン氏は、サルパは有性生殖により異なる遺伝物質を組み合わせることで集団を健全に保ちつつ、無性生殖により速やかな繁殖を可能にしていると指摘する(参考記事:「プランクトンの群生を3Dでマッピング」)。

気候変動対策の切り札

 近年、世界中の海で、藻類ブルームと呼ばれる植物プランクトンの大発生が問題になっているが、サルパにとって藻はごちそうだ。サルパは藻をさかんに食べて赤ちゃんサルパの連鎖を産み出す。マディン氏によると、サルパの糞は密度が高くペレット状で、1日1000mのペースで海中を沈むという。

 この糞が気候変動対策の切り札になる。サルパが食べる藻は、大気中の二酸化炭素を取り込んで育つ。そして、サルパはその炭素を含む藻を食べる。したがって、排泄する糞に含まれる炭素は、大気中に戻ることなく海底に沈んでしまうので、事実上、地球の炭素循環から除去される。

 ボローニャ氏のたとえを借りれば、サルパは炭素を大きな容器に詰め込んで、海の底に素早く沈めているわけだ。「大気中の二酸化炭素の量を調節する方法の1つと言えます」

 マディン氏は、繁殖力旺盛なサルパでも大気中の二酸化炭素の増加分のすべてを打ち消すことはできないだろうと考えているが、今後、サルパの存在感が増してくるのではないかと考えている。サルパが食べるプランクトンは、甲殻類やカイアシ類が食べるプランクトンよりはるかに小さいからだ。

「地球温暖化により、植物プランクトンの主流は、ケイソウのような大型のものからピコプランクトンと呼ばれる小型のものに変わっていくと予想されています。海が温暖化するにつれ、小型の植物プランクトンを食べるサルパが有利になると考えられます」

 今後、海岸に打ち上げられたサルパを目にする機会がますます増えるかもしれない。

文=Rachel Kaufman/訳=三枝小夜子

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