モザイク画の角にある演劇用の仮面。今年の発掘調査で発見された。(PHOTOGRAPH BY MARK THIESSEN, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 イスラエル北部、ガリラヤ湖を見下ろす丘の上で、土に埋もれていたシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)の跡が見つかり、そこから見事なモザイク画に飾られた床が次々に姿を現した。

 さまざまな色の石で描かれたモザイク画が最初に発見されたのは2012年。それ以来、米国ノースカロライナ大学教授のジョディ・マグネス氏とイスラエル考古学庁の考古学者スハ・キシレビッツ氏は、毎年6月に現場へやって来て、地下に眠る遺跡の発掘調査を続けている。

「モザイク画が出てきたのには、本当に驚きました」と、ナショナル ジオグラフィックの支援を受けて、古代のユダヤ人集落であるフコックの遺跡発掘を指揮するマグネス氏は語る。「このタイプのシナゴーグとしては、フコックから数キロ離れたカペルナウムのものが代表的ですが、床は敷石に覆われています。一般的にはモザイク画で飾られた床はないんです」

 シナゴーグの基礎部分から出土した陶器の破片やコインなどの遺物をもとに、フコックの遺跡が5世紀頃のものだと、マグネス氏は推定している。ローマ帝国がこの地を支配し、キリスト教がローマの国教となった後のことだ。(参考記事:2012年9月号「ローマ帝国 栄華と国境」

 2015年も6月に入って発掘調査が再開された。専門家と学生ボランティアから成るチームが最初に取りかかったのが、2013年と2014年の発掘で一部が見つかっていた大きな長方形のモザイク画だ。埋もれていた部分を掘ったところ、シナゴーグの東側廊の床に敷き詰められていたものと判明。幅は3.4メートル以上もあった。

戦闘用の武具を付けられたゾウ。シナゴーグの東側廊で見つかった巨大なモザイク画には、ゾウのほかにも、アレクサンドロス大王と思われる人物も描かれている。このモザイク画の全体写真はまだ公開されていない。(PHOTOGRAPH BY MARK THIESSEN, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 飾りひもに縁取られたモザイク画は、横方向に3つの帯状のセクションに区切られている。そこに、槍と盾を手にした兵士たち、戦闘用の武具を付けられたゾウ、戦いの後の様子、ローブをまとった男たちが描かれている。

「ヘブライ語の聖書にゾウは登場しません。聖書に書かれていない事物が古代のシナゴーグから見つかった例は、これが初めてです」とマグネス氏は話す。

アレクサンドロス大王も登場?

 一番大きな最上段のセクションには、モザイク画の主人公とも言える2人の男性が描かれている。一方は、白いローブに高い地位を示す勲章を飾り、もう一方は武具に身を固め、紫色のマントと王冠を身に付けている。

 「この場面に関しては、専門家たちが研究を進めているところです。今後、違った解釈や可能性が出てくるかもしれませんが」と前置きをしたうえで、マグネス氏は続けた。「私の個人的見解としては、この場面はアレクサンドロス大王とエルサレムのユダヤ教大祭司との伝説的な会談を描いたものだと思います。アレクサンドロス大王が他界して数世紀のうちに、会談にまつわる伝説がユダヤ人たちの間で生まれ、語り継がれていました。多くの古代文献にも書き残されています」(参考記事:「アレクサンドロス大王時代の墳墓の謎深まる」

 大きなモザイク画のすぐ脇では、東側廊周辺で最初に見つかったモザイク画の発掘調査も進められた。発掘作業にボランティアで参加していたブライアン・ボザング氏が、その驚くべき発見をしたのは2012年のこと。こてで土を取り除いていたら、人間の顔が現れた。さらに土を払ってみると、それはイヤリングをつけた女性の顔で、横には、黒地に白のヘブライ文字で文章が記されていた。

 文字は部分的に欠けていたが、イスラエル人考古学者のダビッド・アミット氏は文章の解読を試み、2013年に亡くなる直前に次のような推論を発表した。

また、すべての戒律に
従う(町の人々?)は
幸いである。
あなたがたの労苦も
(祝福されますように)。
アーメ(ン、セ)ラ
(平)安

 この文章が何を伝えようとしているのか、この女性が誰なのかは、この遺跡が秘めている多くの謎の一部にすぎない。

聖書に登場する伝説上の英雄で、怪力の持ち主として有名なサムソン。ガザの門柱を両肩に載せている姿で描かれている。2013年に発掘された。(PHOTOGRAPH BY MARK THIESSEN, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 2015年の発掘調査でも、新たなモザイク画が発見された。ぽっちゃりとしたキューピッドや色鮮やかな鳥たち、長い花飾り、それにギリシャ・ローマ神話のぶどう酒と豊穣と演劇の神ディオニソスを思わせる踊る男性といった図柄だ。丸く縁取られた演劇用の仮面がモザイク画の四隅に配置されているのもわかった。

 ギリシャ・ローマ時代を思い起こさせる図柄が、なぜシナゴーグに描かれていたのだろうか? それも謎である。しかし、発掘がさらに進めば、こうした謎を解き明かしてくれるような新たなモザイク画が見つかることだろう。

 出土したモザイク画は現在、別の場所に移され、安全に保管されている。発掘現場は再び土で埋められた。後に残されたのは、丘の斜面に点在するオリーブの古木、乾燥した草を食む馬や牛、それに眼下にきらめくガリラヤ湖の雄大な眺めである。

文=A. R. Williams/訳=ルーバー荒井ハンナ