驚愕!ナメクジの腹に潜んで旅をするムシ

「最も詳しく研究されている」モデル生物の自然界での意外な生態

2015.07.16
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ドイツ北部で見つかったオオコウラナメクジの仲間(Arion属)。知らず知らずのうちに線虫を飲み込んで自分の腹の中で運んでいたことが明らかになった。(PHOTOGRAPH BY CAROLA PETERSEN, HINRICH SCHULENBURG, KIEL UNIVERSITY)
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 エコノミーシートの座り心地も最悪だが、ナメクジの腹の中はどんな具合なのだろう。その腹に潜んで旅するムシがいるというのだから驚きだ。

 オオコウラナメクジの仲間が腐敗した植物を食べるとき、一緒に小さな線虫を飲み込むことがある。すると、研究のモデル生物として人気の線虫カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans、通称C.エレガンス)は、飲み込まれても消化されることなくナメクジの腸内で生存し続け、時には遠く離れた場所で外に排泄される。

 こうして線虫は自力ではたどり得ない遠距離を旅し、餌にありつけるという報告が7月12日付け「BMC Ecology」誌に発表された。

「線虫が他の生物の体内で生き延びられるとは考えてもみなかったので、とても驚きました」ドイツにあるキール大学の動物学者で論文の筆頭著者ハインリッヒ・シュレンブルク氏は言う。

人気者C.エレガンス

 1960年代に、研究者たちはC.エレガンスが実験に使うのに理想的な線虫であることに気が付いた。体長わずか1ミリで寿命が短く、容易に培養できる。その後全ゲノム配列が解読され、地球上に存在するほぼすべての生命体の中で、最も詳しく研究されている種となった。

 ところが、世界各地の温暖な地方に生息しているC.エレガンスについて、研究室外での様子はこれまでほとんど分かっていなかった。

 フランスのニース・ソフィア・アンティポリス大学の生物学者クリスチャン・ブレドル氏は言う。「自然界での生態がほんのわずかしか知られていなかったとは、面目ない話です」。ブレドル氏は、今回の研究には参加していない。

C.エレガンスは、おそらく地球上で最も詳しく研究されている生物だ。(PHOTOGRAPH BY ANTJE THOMAS, HINRICH SCHULENBURG, KIEL UNIVERSITY)
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 そこで、ブレドル氏やシュレンブルク氏ら欧州の研究者たちは、自然の土壌に生息するC.エレガンスを研究することにした。

 その結果は意外なものだった。C.エレガンスはこれまで土の中にすんでいると考えられてきたが、実は地表にいて、腐敗した植物に付く細菌やキノコ類、酵母をエサとしていたのだ。

大胆な旅路

 腐敗した枯れ葉は線虫にとってすみ心地が良く、食べ物も豊富だが、すべて食べつくしてしまえば別の場所へ移動しなければならない。

【動画】カタツムリの脳をハイジャックする寄生虫 自然界に実在するゾンビ。カタツムリの脳を操り、自らを鳥の餌として差し出すように仕向けるという恐ろしい戦略を持つ寄生虫がいる。ナショナル ジオグラフィックの筆者カール・ジンマーが、カタツムリの死を自分たちの種の保存に利用する寄生虫について説明する。

 しかし、体が極小サイズのため、あまり遠くへ移動できない。にもかかわらず、世界中の温暖な地域に広く分布していることを知り、ブレドル氏やシュレンベルグ氏は驚いた。(参考記事:「【動画】ネットを戦慄させたミドリヒモムシとは」

 シュレンブルク氏のチームは、何か別の生物が移動を手助けしているのではないかと考え、その正体を突き止めるために人家の庭や堆肥の山を調べてまわった。

 600種以上のナメクジ、ムカデ、その他の無脊椎動物、400種のぜん虫を採集した結果、カエノラブディティス属の線虫とオオコウラナメクジの仲間(Arion属)がよく共存していることを発見した。

 だが線虫は、ナメクジの背中に乗せてもらっているわけではなかった。ナメクジを解剖してみると、生きた線虫が見つかったのだ。線虫の存在でナメクジの体が害を受けている様子は見られなかった。(参考記事:特集「世にも恐ろしい心を操る寄生体」

 これはC.エレガンスと他の無脊椎動物との関わりを記録した初めての研究であり、自然下での生態を理解するのに重要な第一歩となったとして、ブレドル氏は論文を高く評価している。

 この時の発見が偶然ではないことを示すため、シュレンブルク氏は1万5000匹以上の線虫に蛍光薬で目印をつけ、79匹のナメクジに与えた。

 ナメクジが線虫を飲み込むと、その体を解剖し、排泄物を分析した。するとナメクジの腸内でも排泄物の中でも線虫は元気だった。シュレンブルク氏は語る。

「どのようにしてかは分かりませんが、宿主に消化されないよう自分の身を守る術を知っているようです」

 腹の虫が治まらない、とはこのことである。

文=Carrie Arnold/訳=ルーバー荒井ハンナ

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