うんちのふりをするイモムシ 効果のほどは?

鳥の糞になりすます行動の効果を、日本人研究者が検証

2015.06.22
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体の一部を曲げて葉の上で休むオカモトトゲエダシャク(学名:A. juglansiaria)の幼虫。体の色だけでなく、形も鳥の糞に似せている。(PHOTOGRAPH BY TAKU YAMAMOTO AND KANON YAMAMOTO)
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 自分がもし、おいしそうなイモムシだったら、腹を空かせた鳥からどうやって身を守ればよいだろうか? 鳥の糞になりすますのも一案だ。

 しかし、ただ体の色が糞に似ているというだけでは完璧な変装とはいえない。特に、体の大きなイモムシはすぐに正体がばれそうだ。このほど学術誌『アニマル・ビヘイビア』に発表された論文によると、鳥の糞になりすますためには、糞の形に見える体勢をとらなければならないという。

 木の枝や石、糞のふりをするのは身を守るための作戦で、動物の世界では当たり前のようにみられる。トカゲは石ころに、昆虫は木の枝に、そしてクモは糞になりすます。周囲の環境に溶け込んだ生き物を見つけ出すのは、『ウォーリーを探せ』の絵本を開くような気分だ。(参考記事:「華麗な生物の擬態」

 「イモムシが鳥の糞そっくりに見えるのは、大変面白いと思いました」と、論文を執筆した総合研究大学院大学の鈴木俊貴氏は言う。

 鈴木氏と、論文の共著者である立教大学の櫻井麗賀氏は、400個以上の偽のイモムシを作成し、木の枝の上に置いて実験を行った。体を曲げているものとまっすぐに伸ばしているものを混ぜ、色も緑一色だけでなく、糞の色に似た白黒のものも用意した。

 緑色の偽イモムシに関しては、体勢の違いによって鳥につつかれる確率が変わることはなかった。しかし、白黒の方は、体を伸ばしていた方が曲げていた方よりも襲われる確率が3倍近く高かった。

 白黒のイモムシが気をつけなければならないのは、なりすましが下手だとかえって危険だということだ。体をまっすぐ伸ばした白黒イモムシは、その色が災いして、他の色や体勢のイモムシよりも襲われる確率が高かった。イモムシは葉を食べるときに体を伸ばすが、その姿勢は「かなり目立つ」と、鈴木氏は説明する。一方、「体曲げ作戦」は、本物の鳥の糞より大きく成長してしまったイモムシにとっても防御効果がありそうだ。(参考記事:動画「葉っぱの上を動く糞、その正体は?」

体を折り曲げて鳥の糞になりすまし、天敵の目を欺くスカシカギバ(学名:M. maxima)の幼虫。(PHOTOGRAPH BY TAKU YAMAMOTO AND KANON YAMAMOTO)
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なりすます生き物たち

 「イモムシは鳥の攻撃を避けることに、多くの時間を費やします」と、米ハワイ大学の昆虫学者ダニエル・ルビノフ氏は言う。「イモムシ以外の何かに体を似せれば似せるほど、襲われる確率は低くなるんです」。ルビノフ氏は今回の研究には参加していない。

 糞や枝になりすます「擬装」は、背景の色に体の色を溶け込ませる「隠蔽」とは異なる。隠蔽をする生物は、カメレオンやタコのように様々な環境に合わせて体色を変えられない限り、動き回ってはいけない。例えば、砂の色をした生き物が草地に移動したら、逆に目立ってしまうだろう。

 一方、擬装ができると様々な環境で身を守れる。鳥の糞や木の枝、小石はどこにでも転がっているからだ。

 擬装する生物は他にも多い。木の枝から体を斜めに突き出して小枝のふりをするイモムシもいれば、体を平たくして石に見せかけるマルオツノトカゲのような生き物もいる。しかし、体勢を変えて天敵の目を欺く行動の重要性を検証する研究は、これまでほとんどなかった。

 米スミソニアン博物館の昆虫学者フロイド・ショックリー氏は、今回の研究結果について「仰天するほどの内容ではありません」とする一方、動物の擬装に関する限られた知識の増加に寄与してくれたと話す。

長い歳月を経て進化

 では、イモムシはなぜこのような外見に進化したのだろうか?

 イモムシは、目視で狩りをする多くの鳥から身を守るために、何百万という世代を重ねるなかで徐々に外見を変化させてきた。ルビノフ氏はこう語る。「科学者である私たちも忘れがちですが、それがどれほど長い歳月であったか、その長さがどれほど重要なのかということを、心に留めておかなければなりません」

 では、私たちは何を学んだか? うんちのふりをするなら、手を抜かず、きちんと体を折り曲げるということだ。

文=Maya Wei-Haas/訳=ルーバー荒井ハンナ

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