青銅器時代の若い女性のグローバルな生き方が判明

旅人や客人を手厚くもてなす風習が広がった影響か

2015.05.26
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
「エクトヴィズ・ガール」と呼ばれる青銅器時代の若い上流階級の女性の遺体から、この時代のデンマークの暮らしや旅の手がかりが得られた。彼女が身につけていた羊毛製の衣服は保存状態がよく、ベルトには太陽をデザインした青銅製の円盤がついていた。(PHOTOGRAPH BY ROBERTO FORTUNA, NATIONAL MUSEUM OF DENMARK)
[画像のクリックで拡大表示]

 1921年、デンマークのエクトヴィズ付近で、非常に保存状態のよい青銅器時代の女性の遺体が発掘された。3500年前に16歳から18歳で亡くなったとされるその女性は、「エクトヴィズ・ガール」という名で知られている。新たな分析により、彼女は遠く離れた場所で生まれ、長距離を旅していたことが明らかになった。エクトヴィズ・ガールは、家でじっとしているタイプではなく、世界をわたり歩くコスモポリタンだったようだ。

 この研究は、『Scientific Reports』5月21日号に発表された。論文の筆頭著者であるデンマーク国立博物館の考古学者カリン・フレイ氏は、「現代人は、自らを高度に発展した人間であると思い、グローバル化を新しい現象のように考えています」と言う。「ところが先史時代の研究が進むにつれて、人類は大昔からグローバルに暮らしていたことが明らかになってきているのです」

 フレイ氏は、ストロンチウムという元素の同位体比の微妙なばらつきを分析する専門家だ。ストロンチウムは地殻中に広く分布していて、植物や動物の組織に蓄積する。この元素の同位体比は場所ごとに異なるため、体の各部位に含まれるストロンチウムを調べれば、その組織が形成されたときに地球上のどこにいたかがわかるのだ。「いわば、地質学的GPSですね」

 エクトヴィズ・ガールの各部位に含まれるストロンチウムを、ヨーロッパ北西部各地のストロンチウムと比較することで、いくつのときにどこで暮らしていたかを突き止められるのだ。

 生まれ育った場所は、歯のエナメル質に含まれるストロンチウムを調べれば分かる。歯のエナメル質は子供時代にのみ形成されるからだ。分析の結果、彼女はエクトヴィズから800kmも離れた、現在のドイツ南西部にあたる地域で生まれたらしいことが明らかになった。

 彼女が着ていた羊毛製の衣服の繊維は、場所を厳密に特定するのは難しいものの、ドイツのシュバルツバルト地方のものであるようだ(彼女は、なかなかおしゃれなブラウスとミニスカートを身につけて埋葬されていた)。

「エクトヴィズ・ガールはデンマークでは非常に有名で、デンマーク人は皆、学校で彼女のことを教わります」とフレイ氏は言う。「彼女は確かにデンマークで発見されましたが、とても国際的な女性でした」

 彼女が死ぬ前の2年間を暮らした場所は、毛髪と親指の爪に蓄積されたストロンチウムを調べれば分かる。分析の結果、彼女はその時期にデンマークと生まれ故郷の間を2度行き来していたという。

交易経済の基礎が発展

 今となってはエクトヴィズ・ガールが旅をした理由を正確に知ることは不可能だが、青銅器時代には部族間で盛んに同盟が結ばれていた。フレイ氏は部族間の同盟を強固にし、交易を安定させるために、彼女が北方の首長のもとに嫁いだのではないかと考えている。(参考記事:「青銅器時代の沈没船:黄金の腕輪」

 英国の歴史保存団体「Historic England」で青銅器時代を研究しているジョナサン・ラスト氏は、今回の研究は「青銅器時代の社会システムの規模や、遠く離れた部族との接触や移動のあり方について、新たな疑問を投げかけるものです」とコメントしている。(参考記事:「地中海東岸の文明は干ばつで崩壊?」

 さらなる証拠がないかぎり、エクトヴィズ・ガールが政略結婚のためにデンマークに嫁いできたと断言することはできない、とラスト氏は言う。「例えば、2つの地域を頻繁に行き来していたという事実は、彼女が政治の道具というよりは、むしろ自主性の高い人物だったと示すことにならないでしょうか?」

 デンマーク国立博物館の青銅器時代の専門家フレミング・カウル氏によると、北欧青銅器時代の女性たちは、首長の跡継ぎとなる直系男子がいない場合などには、政治権力を握ることもあったという。「この時代の女性たちが、ほかの部族に嫁ぐという形をとらずに、みずから部族間の交渉を行い、友好関係を結ぶことができた可能性はあります」

 エクトヴィズ・ガールが生きた時代には、旅人や客人を手厚くもてなす風習が生まれた。この変化が長距離の移動を可能にし、交易にもとづいた経済の基礎を作った。彼女もまた、こうした変化の恩恵を受けていたのかもしれない。

 今後の研究で、エクトヴィズ・ガールが示唆する可能性はさらに広がりそうだ。「彼女はますますミステリアスな存在になりました」とフレイ氏は言う。「彼女は大昔に発見されましたが、これからさらに多くの事実を語ってくれることでしょう」

文=Brandon Keim/訳=三枝小夜子

  • このエントリーをはてなブックマークに追加