日焼け止め、海の生物に有害との報告

ナノ粒子が生物の防御機構を弱体化

2015.05.19
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日焼け止めクリームの多くにはナノ粒子が含まれる。こうした粒子が海洋生物の胚に被害を与えているかもしれないことが判明した。(Photograph by Maddie Meyer, The Washington Post, Getty Images)
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 日焼け止めなどの商品に使用される微小な粒子が、海の生物の初期段階である「胚」に作用し、悪影響を及ぼすことが、新たな研究で分かった。

 学術誌『Environmental Science and Toxicology』に掲載された論文によると、一部の日焼け止めや練り歯磨き、化粧品、船の塗料に使われている微小な金属によって、海洋生物の細胞が損傷を受けやすくなるという。

 これまでも、亜鉛ナノ粒子、銅ナノ粒子といった「ナノマテリアル」が、甲殻類、藻類、魚類、イガイなどの海洋生物に有害である可能性が指摘されてきた。今回の研究結果もその一つだ。

直接の影響も、間接の影響も

 今回の研究で、著者らはウニの胚をさまざまな濃度のナノ粒子にさらしたところ、直接的にも間接的にも生物に害を及ぼすことが判明した。

 例えば、塗料に含まれる酸化銅ナノ粒子は水に溶けにくい。ウニが微量の酸化銅ナノ粒子を吸収しても、すぐには影響が現れないが、徐々に粒子が蓄積されると胚の中で溶け出し、ウニは有害な量の銅にさらされる。

 また、塗料や日焼け止めに含まれるナノマテリアルは、生物が毒性化合物を排出するのに使う細胞の機能を妨害していた。これにより、胚は他の毒性化合物からの損傷を受けやすくなってしまった。

実験では、シラヒゲウニ属の一種を日焼け止めに使われている酸化亜鉛ナノ粒子にさらした。胚の内部に別の有害物質(緑色の部分)がたまり、排出されないままになっていることを示している。(Photograph courtesy of UC Davis Bodega Marine Laboratory)
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 研究ではウニの胚が対象となっているが、携わった研究者らは、形態が異なる海洋生物でも同様の作用が起こりうると話す。論文の共著者であるカリフォルニア大学デービス校のゲイリー・シェール氏は、「ナノマテリアルにさらされたウニの胚は、あらゆる種類の異常な発達パターンを示しました。影響などないだろうと思うようなごくわずかな量でも、です」と話す。

 例えば、日焼け止めに含まれる酸化亜鉛ナノ粒子や、船の塗料に含まれる酸化銅ナノ粒子にウニの胚がさらされると、幼生まで成長できないか、正常に成長しているように見えても餌を摂取できずに死んでしまった。

海洋生態系への影響は

 では、日焼け止めなどの製品に使われるナノマテリアルは、環境に危険を及ぼすのだろうか。科学者たちは現在、研究と議論を重ねている。

 混雑した海水浴場で日焼け止めを塗って海に入るだけでも、海洋生物は微量の金属粒子にさらされるかもしれないと、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の海洋生態学教授ハンター・レニハン氏は懸念する。「水中の動物がナノマテリアルにさらされるとすれば、多くの場合は日焼け止めによるものでしょう」と話す。

 ナノマテリアルを研究したことがあるレニハン氏だが、今回の研究には関わっていない。「海水浴場の規模が大きいほど、影響も大きくなります。ロサンゼルスやフロリダなどの広い場所では、深刻な問題を引き起こすかもしれません」

 一方、心配する必要はほとんどないと考える研究者もいる。アリゾナ州立大学サステイナブル工学・建造環境学科教授のポール・ウェスターホフ氏は、「この研究は、日焼け止めが海洋生物に明らかな影響を与えるとは証明していません」と指摘する。「濃度を考慮すれば、この論文にあるような有毒性は深刻なものとは思えません」とウェスターホフ氏は言う。この研究で初期の胚がさらされたナノ粒子の量はいずれも多すぎて、現実的とは思えないという。「海洋環境でこのような濃度になることはまずありえないでしょう」

 自然環境の中へ入り込むナノマテリアルは非常に少量であることはこれまで多くの研究で示されており、これにはシェール氏も同意している。だが、その量は場所によって異なる。「我々が実験で使用した量は、確かに現実にありうるレベルより多いかもしれません。しかし、周りを囲まれ、混雑している浜辺では、どのような濃度になるか分かりません」とシェール氏は語った。

「新たな化学物質が環境に持ち込まれるときには、良い面への期待ばかりが強調されます」とシェール氏。「従来の大きな粒子に比べて安全なものもあるかもしれません。しかし、解明されていない危険性は常に潜んでいるのです」

文=Craig Welch/訳=高野夏美

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