人工網膜や遺伝子治療など、失明治療の新たな道が開けつつある。適切な治療やケアを必要な人に届けられれば、もはや視覚障害の克服も夢ではない。

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失明治療 見えてきた光

人工網膜や遺伝子治療など、失明治療の新たな道が開けつつある。適切な治療やケアを必要な人に届けられれば、もはや視覚障害の克服も夢ではない。

文=デビッド・ドブズ/写真=ブレント・スタートン

 ここ10年ほどで、幹細胞を用いた再生医療や、人工器官を体内に埋め込むバイオニック医療の研究が進み、全盲の人が多少なりとも視力を回復した事例が出てきた。幹細胞は未分化の細胞で、さまざまな組織や器官に分化できる。網膜の損傷は失明につながることが多いが、幹細胞を使って、傷んだ細胞の置き換えや再生を行う治療で有望な結果が出始めている。バイオニック医療では第1世代の人工網膜が開発され、長年視力を失っていた患者が手術でマイクロチップを目に埋め込むことで、ぼんやりとだが物が見えるようになった事例が報告されている。

 こうした進歩を背景に、ほんの10年か20年前には考えられなかった構想が語られ始めた。人類がかつて天然痘を根絶したのと同じように、失明をも克服しようというのだ。

遺伝子治療でよみがえった視力

 クリスチャン・ガーディノが生まれてすぐ、母親のエリザベスは異常に気づいた。授乳中も母親の顔ではなく、一番明るい光の方向…すなわち室内なら電球、屋外なら太陽を見つめている。

 クリスチャンの目を最初に調べた医師は厳しい表情になり、専門医の受診を勧めた。専門医で診断された病名は、レーバー先天性黒内障。視力はすでにかなり悪く、今後も大幅な改善は望めない。治療法はない。大きくなってもクリスチャンの目はわずかしか見えず、白い杖が手放せないだろう。医師はそう宣告した。

 その言葉通り2012年、12歳のとき初めて米ペンシルベニア大学シェイエ眼科研究所付属のクリニックを訪れたクリスチャンは杖をつき、母親に手を引かれていた。ところが2016年1月、私が目にしたのは研究所を杖なしで歩く彼の姿だった。

 クリスチャンは目が見えるようになったのだ。「信じられないでしょう?」と、母親のエリザベスが言った。クリスチャンは前を歩き、隣には遺伝子治療の臨床試験を行った研究チームの責任者ジーン・ベネットがいる。「まさか、あんなに早く効果が出るなんて…」。エリザベスは、助けなしに歩いている息子を指し示した。「まるで奇跡です」

【動画】インドの西ベンガル州にある、目の見えない子どもたちのための学校。インドでは路上で物乞いをする盲人が多いが、この学校では自立の助けとなる教育と職業訓練を行っている。(解説は英語です)

※この続きは、ナショナル ジオグラフィック2016年9月号でどうぞ。

編集者から

 特集で紹介されている遺伝子治療や再生医療、人工網膜といった最先端の治療はどれも、すでにここまで進んでいたのかと驚くばかりです。でも個人的に一番衝撃を受けたのは、世界の全盲の人のおよそ半数は、白内障が原因だという事実でした。白内障といえば、いまや先進国では簡単な手術で治せる病気です。それなのに、開発途上国ではその治療が受けられず、目が見えないまま暮らしている人がこれほどたくさんいるとは…。特集では各地で“出前手術”に取り組むナミビアの眼科医、ヘレナ・ヌドゥメさんを紹介していますが、日本からもさまざまなチームがアジアやアフリカの各地に赴き、同じような「白内障キャンプ」の活動を展開していて、中にはクラウドファンディングなどで資金を募っているチームもあるようです。心から応援したい取り組みだと思いました。(H.I.)

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