世界の紛争地で、遺跡の盗掘や文化財の違法取引が横行している。米国で押収された古代エジプトの木棺を手がかりに、略奪品の闇取引の実態に迫った。

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略奪される歴史 文化財の闇取引を追う

世界の紛争地で、遺跡の盗掘や文化財の違法取引が横行している。米国で押収された古代エジプトの木棺を手がかりに、略奪品の闇取引の実態に迫った。

文=トム・ミューラー/写真=ロバート・クラーク

 インドの寺院に押し入る強盗団から、ボリビアの教会荒らし、中国の墓を狙う盗掘団まで、世界各地で略奪が繰り返され、人類の遺産が掘り尽くされようとしている。被害の規模は正確には把握しにくいが、衛星画像がとらえた痕跡や警察の押収件数、盗掘現場での目撃証言などから、盗まれた文化財が世界中で活発に取引されている実態が浮かび上がる。

 エジプト学者のサラ・パーカックは衛星画像を使って盗掘の規模や盗掘による遺跡の損傷を測定する方法を開発し、エジプトで確認されている遺跡1100カ所のうち、4分の1が大きな損傷を受けていることを明らかにした。「今のペースで破壊が進めば、2040年までにエジプトの既知の遺跡はすべて深刻な被害を受けるでしょう……胸がつぶれる思いです」

紛争地で頻発する遺跡の盗掘

 略奪を止めるにはどうすればいいのか。
 2011年のエジプト革命後は、政府の治安部隊がいなくなったために盗掘が横行した。だが、パーカックが衛星画像を分析した結果、その2年前に世界金融危機でエジプト経済が大打撃を受けた時期にも盗掘が急増していたことがわかった。生活のため、失業者が盗掘に手を染めたのだ。

 政情が不安定な地域では「力が正義」というルールがまかり通る。紛争時にはなおさらだ。カンボジア内戦の最中にはポル・ポト派などの武装集団の支配下で遺跡の盗掘が頻発した。今のシリアでも、過激派組織「イスラム国」(IS)ばかりか、政府軍や反政府勢力も住民に遺跡を盗掘させ、利益の上前をはねている。

 エジプト中王国時代の遺跡リシュトとダハシュールの管理責任者であるモハメド・ユーセフによると、地元の有力者が幅を利かせているという。「非常によく知られた人々が盗掘に関与しています。有名な富豪なので、誰も手を出せないんです」。近くの村の一族は、大規模な私設の軍隊まで抱えているという。

※この続きは、ナショナル ジオグラフィック2016年6月号でどうぞ。

編集者から

 シリア東部に位置するマリ遺跡の衛星画像は衝撃的でした。たった3年間で、遺跡が盗掘によってあそこまで穴ぼこだらけになってしまうとは。紛争地では現地調査が難しいからこそ、エジプト学者のサラ・パーカックが取り組んでいるような衛星画像を通した監視が重要なんですね。
 文化財を違法に取引する仲介人は、ほかの違法取引にも手を染めているそうです。本誌ではこれまでに、2010年1月号「売られる野生動物」や2015年9月号「密猟象牙」など、違法取引に関する特集をいくつか掲載してきましたので、よろしければ併せてご覧ください。(T.F.)

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