生態系の進化の謎を解く鍵を求め、体当たりで極地に挑む生態学者・田邊優貴子。南極大陸の湖に潜ると、まるで原始の地球のような世界が息づいていた。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日本のエクスプローラー 田邊優貴子 南極の湖でタイムトラベル

生態系の進化の謎を解く鍵を求め、体当たりで極地に挑む生態学者・田邊優貴子。南極大陸の湖に潜ると、まるで原始の地球のような世界が息づいていた。

文=江口 絵理/写真=田邊 優貴子

 生命の存在を拒絶する雪氷に閉ざされ、「白い砂漠」と呼ばれてきた南極大陸。しかし1999年、湖の中には植物で覆われた緑の世界が広がっていることが日本の研究者によって発見された。
 そのとき見つかったアリ塚のような緑の突起は、以後の研究で、コケや藻類、細菌などが集まった植物群落であることが判明。この、丸みを帯びた円柱状の突起は「コケボウズ」と呼ばれ、極地の研究者の間では知らぬ者がない存在となった。

南極の湖底に広がる不思議な植生

 だが2009年、南極の別の湖で潜水調査に挑んだ田邊優貴子が目撃したのは、先のとがったタケノコ形のコケボウズ。そのような形のコケボウズが存在することは誰も知らなかった。田邊は、世界で初めてこの光景を見た人間となったのだ。

「まるで物語の世界でした。この緑の塔の中には小さな人がかつて住んでいて、それが廃墟となって苔むしていったかのような……」。田邊はそのときの不思議な感覚を、こう表現した。

南極の湖底にはこんな光景が広がっていた

 田邊は冒険家ではなく、プロのダイバーでもない。極地をフィールドとする生態学者だ。主なフィールドは南極大陸だが北極圏にもしばしば出かけ、両極を行ったり来たりする渡り鳥、キョクアジサシさながらの生活を送っている。

 田邊は南極の「湖」という、ひときわ特殊な環境に目を向けた。南極大陸は現在も生物が極めて少ないが、数万年前、直近の氷河期の間には大陸全体が氷で覆われ、ほぼ無生物状態となっていた。田邊が潜った湖は今から1万~2万年前に氷が大地を削ってできたもの。生命の進化が振り出しに戻り、ゼロからリスタートしたのだ。
「湖の一つひとつが、いわば進化の“実験室”なんです」

※この続きは、ナショナル ジオグラフィック2015年10月号でどうぞ。

編集者から

 これまでに5回も南極へ行き(近々6回目を予定)、湖での潜水調査も着々と回を重ねている田邊優貴子さん。取材のとき、ぜひ聞いてみたかったことの一つが「潜る理由」です。今ならサンプリング用のツールやモニタリング用のカメラもあるだろうに、なにも厚い氷の張った湖に潜らなくてもよいのでは…?
「それでも、自分の目で見ることが大切なんです。視覚から入ってくる情報量って、すごいんですよ」と、さわやかに笑って答えてくれました。ちなみに、潜水調査の扱いの“シリアス度”には幅があり、とにかく慎重で周到なのが日本の観測隊。事前の訓練から当日の緊急事態への対応体制まで、万全の構えで臨むそうです。対照的なのは米国隊で、テスト潜水で機材トラブルがあっても、原因さえ解決すれば「それじゃ明日、また潜るよね?」と、あくまでカジュアル。それぞれお国柄を感じます。
 お国柄といえば、気になるのが日々の食事。米国隊に参加したときは「来る日も来る日もフリーズドライのインスタントで、しまいには見るのもいやになりました」とか。充実度ナンバーワンはスペイン隊で、調理担当が美食で名高いバスク地方の出身者だったそうです。「でも食事の時間がゆったりと、おそろしく長いのには驚きましたけど」
 田邊さんには毎月の連載や、これまでにも「南極なう!」(共著)でもWebナショジオにご登場いただいています。ぜひあわせてご覧ください。(編集H.I)

「日本のエクスプローラー」は雑誌とWebの連動企画です。

雑誌「ナショナル ジオグラフィック日本版」では、エクスプローラーたちの活動を独自取材で紹介します。
世界を駆けまわるエクスプローラーたちを一緒に応援しませんか。

この号の目次へ

最新号

定期購読

ナショジオクイズ

写真はドバイの街を世界で最も高いビル「ブルジュ・ハリファ」から見下ろしたものですが、ブルジュ・ハリファの高さに近い山は次のうちどれ?

  • 箱根山
  • 比叡山
  • 天保山

答えを見る

ナショジオとつながる

メールマガジン無料登録(週2回配信)

メルマガ登録の詳細はこちら

ナショナル ジオグラフィック日本版 バックナンバー